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一角、三度目の正直 ~吉良邸防衛戦記~

作者: 鴨ロース

12月と言えば忠臣蔵!!

時代劇や小説の影響を色濃く受けた作品となります。

サテ、物語は一度目の悲劇、台所口での無念の討ち死にから、時は遡る!


意識が暗転し、黄泉の旅路かと思いきや、耳をつんざくは陣太鼓!

「火事だ、火事だ!」の叫び声。


一角、カッと目を見開けば、そこは再び元禄十五年、十二月十四日。

冷たき雪が頬を打ち、馴染みの長屋の天井が目に入る。


「戻った……戻ったのか!?」

神の悪戯か、執念の奇跡か。

だが、迷うている暇はない。あの屈辱、あの無念、二度と繰り返してなるものか!


一角、枕元の大小二振りを引ッ掴むと、本来守るべき台所口には目もくれず、雪の庭へと飛び出した!


着流しの裾をからげ、白足袋一つで雪を蹴立てるその姿、まさに鬼神!

「殿を守るには、雑兵を相手にしている暇はない! 大石……大石内蔵助、ただ一人の首を刎ねれば、この戦、終わる!」


狙うは表門!

本来ならば、守りは手薄な裏門へ向かうべきが定石なれど、一角の目は血走り、知識にある「指揮官の居場所」一点を見据えておる。


表門ではまさに、大石内蔵助良雄が床几に腰を下ろし、采配を振るわんとしていたその刹那!


「大石ィィッ! 覚悟ォッ!」

闇を切り裂く裂帛の気合い!

警護の浪士が「何奴!」と槍を繰り出すも、今の一角には止まり木ほどの意味もなし。


右手の刀で槍を払い、左手の脇差でその喉笛を掻っ切る!

鮮血が雪に散り、紅梅の如く咲き乱れる!

あっと言う間に内蔵助の目前へ。


内蔵助、ハッと立ち上がり刀に手をかけるが、遅い、遅い!

一角、上段より愛刀・無銘を振り下ろす!

「貰ったぁ!」


ガッキィィーン!!

火花が散り、一角の太刀が弾かれる。

内蔵助の眉間に一筋の血が流れるも、致命傷には至らず。


その太刀を受け止めたるは、豪剣の誉れ高き、堀部安兵衛武庸!

「一角殿とお見受けする! 総大将に手をかけさせん!」

「安兵衛……貴様か、また貴様か!」


一度目の死に際、台所口にて己を追い詰めたその男。

運命の悪戯か、二度目もまた、この男が立ちはだかる。


「邪魔立ていたすなら、貴様から冥府へ送ってやるわ!」

一角、二刀を逆手に持ち替え、獣の如く低く構える。


対する安兵衛、正眼に構えて動かざること山の如し。

「参る!」

一角が踏み込む! 速い!


右の太刀が安兵衛の左肩を狙えば、安兵衛これを擦り上げ、間髪入れずに胴を払う。

一角、これを左の脇差で受け止めるも、安兵衛の剛剣、重い!

手首が悲鳴を上げるほどの衝撃。


「オオオオオッ!」

力で押し切れぬと悟るや、一角、体を独楽の如く回転させ、変幻自在の連撃を繰り出す。


上から、下から、袈裟がけ、逆袈裟!

二本の刃が銀色の嵐となって安兵衛を襲う!

安兵衛、一歩も引かず、最小限の動きでこれを捌く。

キン、カン、ガギン!

雪夜に響く鉄の歌!

互いの吐く白い息が、熱気で瞬く間に霧となる凄まじき打ち合い!


だが、焦りが一角の剣を狂わせた。

(早くせねば……早く内蔵助を討たねば、裏門が……殿が……!)


一瞬、視線を奥御殿へと走らせたその隙を、高田馬場の決闘で鳴らした安兵衛が見逃すはずもなし!

「隙ありッ!」

安兵衛の鋭き突きが、一角の右腕を貫く!

「ぐあッ!」

刀を取り落とす一角。


返す刀で、安兵衛の刃が袈裟懸けに一角の胸板を切り裂いた!

ズバァァァッ!!


ドサリと雪上に崩れ落ちる清水一角。

白い雪が、ドクドクと流れる一角の血で赤く、赤く染まってゆく。


薄れゆく視界の端、傷を負った内蔵助が奥へと指示を飛ばすのが見える。


そして、無情にも裏門の方角から、勝ち鬨のような、あるいは悲鳴のような声が。

『上野介殿、討ち取ったりー!』

「あぁ……殿……また、守れなんだか……」

悔し涙か血の涙。


雪を握りしめた拳の力が抜け、一角、二度目の絶命。


しかし、その魂は消えず。

悔恨は業火となり、次なる「三度目」の生へと彼を誘うのでございます……。


サテ、二度目の死を迎え、魂は再び闇の中へ。


だが、今度は神も仏も、一角をただでは眠らせない。

虚空に浮かぶは、数多の幻影、いや、「映像」でございます!

江戸の芝居か、はたまた未来の活動写真か。


映し出されるは『仮名手本忠臣蔵』、『赤穂浪士』、果ては『年末時代劇スペシャル』!

一角、これを食い入るように見つめる!

「なんと! 奴らは裏門から梯子で? 合言葉は『山』と『川』? 馬鹿な、奴らは大名火消装束に鎖帷子、対して我らは着流し?」


一角、己の不明を恥じると共に、敵の手の内を全て頭蓋に叩き込む!

脚本、演出、配役、全て把握した!

次に目が覚めれば、俺こそがこの舞台の総合演出だ!


カッと目を開けば、討ち入りの一週間前、師走の七日!

一角、寝巻を脱ぎ捨て、家老・小林平八郎の元へ直走る!

「小林様! 赤穂の浪人が来ます! 十四日の茶会、ここが地獄の一丁目!」

平八郎、初めは訝しむも、一角の鬼気迫る形相、そして未来を見通すが如き具体的な進言に、武人の勘が告げる。

『こやつ、正気だ』と!


そこからの吉良邸は、水面下で要塞へと変貌する!

裏門の塀下には、五寸釘を植え込んだ地獄の「剣山」を敷き詰め、長屋の窓には、戦場で使う強弓、「大弓」部隊を潜ませる。

殿・上野介様には「炭小屋」を絶対安全圏として指定し、奉行所には最高級の「灘の生一本」を樽で届けさせ、根回し万端!



そして迎えたる運命の十二月十四日!

雪降りしきる深夜、ドンドンドンドン! と響く山鹿流の陣太鼓!


「火事だ、火事だ!」

喚き散らす浪士たち。だが、今日の吉良邸は静寂に包まれている。


表門に殺到する大石主税率いる裏門隊ならぬ表門隊!

門を打ち破らんとしたその時、長屋の雨戸が一斉に、ガラガラガラッ! と開け放たれた!


現れたのは、髭も凍る威厳、吉良家筆頭家老、小林平八郎!

手には槍、眼光は雷の如し!

「笑止千万ッ!!」

平八郎の大音声が、夜気を切り裂く!


「浅野大学殿や瑤泉院殿が仇討ちを訴えるならまだしも、大石殿! 貴殿は赤穂城引き渡しの責任者であろう! 一度同意した御公儀の裁定に今更異を唱えるとは、武士にあるまじき二枚舌! ただの売名行為、就職活動と勘ぐられても仕方ありますまい!」

図星を突かれ、言葉に詰まる浪士たち!

「問答無用!」と叫ぶその口を、平八郎が封じる!


「貴殿達の言い分は、後ほど、この槍で聞き申そう! ――放てッ!!」

(ヒョウ! ヒョウ! ズドォォォン!!)

号令と共に放たれる大弓の一斉射撃!

半弓しか持たぬ浪士たち、射程の外から雨あられと降り注ぐ矢に、たまらず総崩れ!

「卑怯だぞ!」の声も虚しく、「夜討ち朝駆けは武士の習いよ!」と平八郎、高笑い!


一方、裏門!

吉田忠左衛門らが梯子をかけ、「エイッ」と塀を乗り越え、雪の積もる庭へと飛び降りた!


着地したその瞬間!

「ギャアァァァッ!!」

雪の下に隠されたるは、無数の釘の刃!

足の裏を深々と貫かれ、動けぬ浪士たち!


そこへ待ち構えた吉良の足軽隊が、長い槍でチクチク、チクチクと突っつく!

「痛い! 卑怯なり吉良上野!」

「うるさい! 不法侵入じゃ!」


そこへ早々に通報を受けた町方同心が、「御用だ御用だ!」と雪崩れ込む!

仇討ちの英雄どころか、ただの騒乱罪! 裏門は阿鼻叫喚の地獄絵図!



サテ、表門の混乱の中、屋敷から数名の女中が「お助け~」と逃げ出した。


浪士たち、「女に手出しは無用!」と道を開けるが、その中に一人、一際上等な絹の被衣を被った長身の影!

「待て! 下々の者が絹を着るか! 貴様、上野介だな!」

浪士たちが殺到する!


その影、被衣をバサリと脱ぎ捨てれば、現れたるは白鉢巻に襷がけ、両手にギラつく二刀流!

「よくぞ見破った……と言いたいが、間抜けめ! 清水一角、ここに推参!!」


一角、水を得た魚の如く暴れ回る!

右の刀で受け、左の刀で斬る! その剣技、まさに神速!


「ええい、上野介はどこだ!」

焦る大石内蔵助、一角の派手な立ち回りに目を奪われた、その一瞬の隙!


女中に紛れて震えていた間者・おきよ。

懐より短刀を抜き放つと、音もなく内蔵助の背後へ。

耳元で、冷たく囁く。

「……太夫」


ズブッ!!

おきよの短刀が、内蔵助の脇腹深くに突き刺さる!

「ぐっ……まさか、女に……!」

崩れ落ちる総大将!


指揮官を失い、退路を断たれ、完全包囲された赤穂浪士四十七士!

最後に立ちはだかるは、宿敵・堀部安兵衛!


「一角ゥゥッ! また貴様かァァッ!」

「安兵衛ェッ! 三度目の正直だ、往くぞッ!」

ガキィィン!

激突する両雄! だが、今の総合演出気取りの一角に死角なし!

安兵衛の大上段を紙一重でかわし、胴を薙ぐ一閃!

勝負あり!!


夜が明ける。

雪は止み、朝日が吉良邸を照らし出す。

庭にはお縄にかかった浪士たちの列。


炭小屋からは、煤一つついていない吉良上野介が、悠々と出て参られた。

「やあ、一角。茶会の準備はできているかの?」

「ハッ、万端整っております」

血糊を拭い、刀を鞘に収める清水一角。


見上げれば、雲の切れ間から青空が覗いている。

三度の生をかけた長い長い夜が、ようやく明けたのでございます。

「……さて、少し眠るとするか」

雪解けの音と共に、物語はこれにて幕!

清水一角、吉良邸防衛戦記、読み終わりでございます!!



読了頂きありがとうございました!

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