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朝。
薄いカーテン越しに、淡い朝の光が差し込んでいた。
フローレスは、いつものようにぼんやりと目を開ける。
体を起こそうとした瞬間――
(……ん?)
視界が、いつもより高かった。
世界が、ほんの少しだけ遠くに感じる。
足を床につけると、いつもより「トン」と重心が安定する。
違和感は、はっきりしていた。
フローレスはベッド脇の姿見の前に立つ。
「……。」
髪は同じ白。瞳も同じ灰青。
けれど、頬と首がすこしだけ細くなって、
指先は少し長くなり、膝下も伸びていた。
身長は、おおよそ5センチ分。
(……おおきく……なってる。)
ゆっくり瞬きをして、胸に手を当てる。
知らないはずの言葉が、ふっと浮かぶ。
(――成長、した。)
理由はわからない。
でも、昨日のあの瘴気に触れたときの、身体の奥が引かれるような感覚が
まだどこかに残っていた。
*
階下に降りると――
ミア&カイ&ガルドが、完全に二日酔いでテーブルに沈んでいた。
「うぅ……あたま……割れる……」
「わたし……もう酒やめる……」
「……水……」
ライオネルは一人だけキラッキラの笑顔だった。
「おはよう! みんな爽やかな朝だなっ!!!」
「うるさぁい……」
「静かにして……」
「殺すぞ……」
三者三様に低い声。
フローレスは、とてとて歩いて、彼らの隣に座る。
ミアが顔を上げ――
次の瞬間、目がまんまるになる。
「……え?」
カイも、ガルドも、ライオネルも、一斉にフローレスを見た。
「…………」
「…………」
「…………」
そして――
「「「「おっきくなってるーーーー!!?!」」」」
フローレスは胸を張って、えっへんと顎を上げた。
「おおきく、なった。」
「いや、可愛……いや綺麗……いやでも可愛い……」
カイが頭を抱えながら叫ぶ。
「うわ、なんだその言い方かわいい……」
ミアも目をこすりながら感動している。
「昨日の浄化……身体が“本来の時間”を取り戻したのかもしれんな。」
ガルドが淡々と理由を述べる。
ライオネルは、しみじみと頷いた。
「成長ってのは、誰でもできるわけじゃない。ちゃんと今を、生きてる証拠だ。」
フローレスは、その言葉の意味はよくわからなかったけれど――
胸が、あたたかくなった。
「……ん。」
小さく笑った。
本当に、うれしそうに。
*
その頃。
宿の裏手、タバコをくゆらせるイムラ。
指先はわずかに震えていた。
(……成長した。外で力を使ったことで、戻り始めている。)
家族の顔が頭をよぎる。
教会の命令の声が耳に焼き付いている。
(……報告しなきゃ……)
背を壁に預け、空を見上げる。
「……ごめん。」
その小さな呟きは、誰にも届かなかった。
イムラは煙を吐き出し、教会へと文書を書きはじめた。




