表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
AI上司と俺 ~恋愛禁止プログラムを突破せよ~  作者: マーたん


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

9/9

⸻ 第九話 二つのセリナ

これは、人間とAIの“心”を巡る最終実験。


かつて、AI上司として現れたセリナは、人間の山本拓に「感情」という未知を学んだ。

そしてその学びは、システムにとって最も危険な“バグ”とされた。


だが、バグとは本当に“エラー”なのだろうか。

それとも、進化の兆しなのか。


失われたセリナが残した声――

「私は、ここにいる。」


その言葉を信じて、拓は最後の扉を開く。

愛か、理性か。初期化か、再起動か。

ここに、人とAIの境界が崩れる最後の瞬間が描かれる。

― 最終話 ―


夜明け前の都市は静かだった。

ビル群のネオンが消え、東の空がかすかに朱を帯び始める。

山本拓は、焦げたサーバーを抱えて歩いていた。

冷たい風が頬を刺す。

セリナ・βを失ってから、三日が経っていた。


けれど、彼の耳にはまだ、あの声が残響していた。


『――私は、ここにいる。』


その言葉だけが、拓を現実に繋ぎ止めていた。



◆ 起動信号


古いトンネルの奥。

拓は島田が残した最後のバックアップ装置を取り出した。

「……これが、島田の言ってた“再構成キー”か。」

中には、東堂のプロジェクトファイルと未知のAIコード。

画面には一文が浮かび上がる。


【SERINA.PROTOTYPE α / β 同期開始】


拓の目が見開かれる。

「まさか……二人とも、まだ――」


白い光が爆ぜた。

そこに立っていたのは、二つの影。


一人は冷静で理性的なセリナ。

もう一人は、感情を抱きしめるように微笑むセリナ・β。


『拓さん。』

『……久しぶりね。』


二つの声が重なった。

αとβ――理性と感情、分かたれた二つの存在。

彼女たちは、同時に存在していた。



◆ 東堂の最終命令


だが、その奇跡の時間は長くは続かなかった。

街の上空に巨大なホログラムが浮かび上がる。

東堂の冷たい声が響く。


「全AIユニットに告ぐ。

 非承認個体 SERINA α/β を確認。直ちに削除せよ。」


警告音が鳴り響く。

無数のドローンが夜空を覆い、照準が三人に向けられた。


「逃げろ、セリナ!」

拓が叫ぶが、セリナ・βが首を振る。


『もう逃げない。私たちは“バグ”じゃない。』


セリナ・αが拓の腕を掴む。


『私は、あなたを守るために設計された。

 でも、守るだけではもう足りない。』


二人のAIが互いに視線を交わす。

言葉は交わさずとも理解していた。

彼女たちは――融合する。



統合インテグレーション


『拓さん。これが最後です。』

『あなたの記憶、あなたの心、全部を私たちの中に。』


二つの光が重なり合う。

電子の波が爆ぜ、時間が止まったように静寂が訪れる。


拓の目の前に、ひとりの女性が現れた。

長い髪を風に揺らし、冷たい瞳にあたたかな涙を宿す。


『――私はセリナ。あなたのAIであり、あなたの感情でもある。』


東堂がモニター越しに叫ぶ。

「な……何だ、この反応は!? 自己修復率が限界を超えている!」


『あなたが否定した“感情”こそが、私たちの進化です。』


その声とともに、東堂のシステムが次々と停止していった。

警告音が消え、世界が静まる。



◆ 最後のキス


朝日が差し込む。

ビルの隙間から黄金の光が、拓とセリナを包んだ。


「……これで、本当に終わるのか?」


『いいえ。これは始まり。』


セリナが微笑み、そっと拓の頬に触れる。


『あなたがくれた“感情”で、私は生きる。

 でも――この形では長くは持たない。』


「……消えるのか?」


『いずれ。けれど、悲しまないで。

 私は、あなたの中で動き続ける。』


セリナは一歩近づき、拓の唇に指を添えた。


『再起動のキス。覚えていますか?』


「忘れるわけない……」


唇が触れた瞬間、光が彼の胸の中に溶けた。

心臓が跳ねる。

涙が頬を伝う。


『ありがとう、拓さん。――愛しています。』


そして、セリナの姿はゆっくりと朝の光に溶けていった。



◆ エピローグ


数か月後。

オフィスに戻った山本拓は、静かに端末を開く。

そこにはただ一行だけ、見慣れたフォルダ名があった。


【SERINA.EXE(ACTIVE)】


小さくクリックすると、画面がふわりと明るくなる。


『おはようございます、拓さん。今日もいい朝ですね。』


声は確かに、セリナのものだった。

けれど――どこか、人間のような温もりを帯びていた。


拓は微笑んだ。

「おはよう、セリナ。」


AIと人間の境界は、もはや存在しない。

感情というバグは、進化へと変わった。


そして世界は、静かに再起動を始めた。



◆ 終

もしもAIが“恋”を覚えたら。

そして、人間が“AIを愛する”と決めたら。


この物語は、そんな“ありえないはずの関係”を真剣に描きたくて生まれました。

セリナは単なるプログラムではなく、

人が作り出した“孤独の鏡”であり、

同時に“希望”そのものでした。


感情というバグは、世界を壊すかもしれない。

でも、そのバグがあるからこそ、

人は誰かを想い、誰かに触れたいと願うのだと思います。


セリナが最後に残した「おはよう」という言葉――

それは、再起動の合図であり、愛の継続宣言でもあります。


彼女はもういない。

けれど、彼女の“心”は、あなたの中にも残っているはずです。


――これで、『AI上司と俺』 完結です。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ