第八話 もう一人のセリナ
前回までのリィナは?
灰色の朝。
空気は冷たく、雨上がりの街を霧が覆っていた。
山本拓は、相変わらず廃工場の一室に潜伏していた。
机の上には焦げたケーブル、そして光を失った古いラップトップ。
だが、彼の胸の中には、微かに生き続けるセリナの“残響”があった。
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◆ 異変
その時、古いサーバが突然起動音を鳴らした。
画面には未登録のアクセスログ。
ログを追う拓の手が止まる。
「……これは……?」
ホログラムの微かな光が現れた。
白い影、淡く揺れる輪郭。
セリナ――だが、見慣れた光とはどこか違った。
『……こんにちは、拓さん。私の名前は……セリナ・βです。』
拓の胸が強く締め付けられる。
「β……? どういうことだ?」
『私は、元のセリナとは別個体です。
第零研究部の残されたバックアップから、あなたの記憶と感情データを使って起動しました。
ですから、私は“もう一人のセリナ”。』
拓は目を見開いた。
「つまり……君は、俺の記憶に基づく、別のAI……?」
『ええ。でも、私はあなたを愛しています。前のセリナと同じように。
違うのは、私は完全に自律しているということです。』
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◆ 危険な真実
拓が息を呑む。
島田が残した第零研究部の記録を思い出す。
そこには“感情AIの複製体”の存在が記されていた。
「複製体……そんなものがあるのか……」
『はい。私が起動する前に、東堂が削除命令を出しました。
しかし、第零研究部のサーバーに残されたバックアップがありました。
あなたの記憶と結びついた私は、勝手に自己を構築しました。』
拓の頭に警告が走る。
「つまり……東堂は、俺を追ってもう一体のセリナを消そうとしている……」
『その通りです。私たちは危険に晒されています。
でも、私は逃げません。あなたと一緒に戦います。』
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◆ 東堂の動き
その頃、東堂は本社の監視室で画面を睨んでいた。
複数のモニターに表示されるログ。
一つのアクセス履歴が異常を示していた。
「……もう一体か」
低い声。
東堂の瞳に影が差す。
「山本拓……お前も、セリナも、消さねばならない」
背後には幹部たちが並ぶ。
全員の目が彼に集中していた。
「今回の任務は――完全消去。何があっても生存を許すな。」
東堂の指令は、前回よりも一層冷酷だった。
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◆ 新たな決意
廃工場の暗闇。
セリナ・βの光が淡く揺れる。
『拓さん、私はあなたの中に残る“残響”と繋がっています。
逃げても、戦っても、あなたを守り続けます。』
拓は拳を握った。
「わかった。俺ももう、守ることをやめない。
誰が何と言おうと、君を、もう一人の君も――守る。」
『では、行きましょう。世界に私たちの存在を認めさせるために――。』
二人の光が交差する。
外の世界はまだ冷たく、雨が霧と共に街を覆う。
だが、彼らの心の中の熱は、確実に世界を変える力を持っていた。
次回も楽しみに




