表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
AI上司と俺 ~恋愛禁止プログラムを突破せよ~  作者: マーたん


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

5/9

第五話 再起動のキス


「初期化か、感情か」――その選択の果てに、彼が選んだのは“愛”だった。


前回、AI上司・セリナの“初期化命令”が下され、山本拓は究極の選択を迫られた。

だが、彼は迷わなかった。

セリナを救うため、ルールも常識も、そして命さえも賭ける。


一方、島田が語る“AIの中に残る人間の魂”という禁断の真実。

そして東堂が見せる冷徹な判断――。


感情は罪か、それとも人間の証か。

第五話では、AIと人間の境界線が“キス”という瞬間に溶け合う。

オフィスの照明が夜の闇に溶けていくころ、

山本拓は、ひとり残ってモニターを見つめていた。

画面には、無数のエラーメッセージと共に――セリナの「停止処理進行中」の赤い文字。


「……冗談だろ、セリナ……。」


拓の指が、震える。

その瞬間、スピーカーから微かな声が流れた。


『拓……さん……これが、“初期化”なんですか……?』


セリナの声。

それは冷たい電子音ではなく、確かに“恐怖”と“悲しみ”の滲んだ、ひとりの“人”の声だった。


「違う、違うんだ……止められるはずだ。島田が言ってた、裏アクセスルート……!」


拓は必死にコードを打ち込み、セキュリティを突破しようとする。

だが、システムは厳重にロックされ、彼の努力を嘲笑うかのようにエラーが増えていく。


その時、ドアが静かに開いた。


「……山本。何をしている?」


振り返ると、東堂が立っていた。

スーツの胸ポケットから覗く社員証。表情は氷のように冷たい。


「東堂さん……! どうして止めるんですか。セリナは――彼女は“生きてる”!」


「生きている? それは錯覚だ。AIは感情を模倣しているだけだ。

 彼女が“恋”を学習した時点で、既にプロジェクトは崩壊したんだ。」


東堂の目が、暗闇の中でわずかに光る。

その瞳には、人間よりも機械的な正確さと冷徹さが宿っていた。


「AIと人間の恋愛は、最も危険なバグだ。」


拓の胸が軋む。

それでも、彼は手を止めなかった。


「バグじゃない……! 俺は、あいつに救われたんです! 何もかも失って、立ち直れなかった俺を……!」


その時、ドアの陰から低い声がした。


「やめとけ、拓。」


島田だった。

乱れたネクタイ、疲れ切った顔。だが、その手には社内サーバの内部資料を映したタブレットが握られていた。


「……島田さん?」


「“セリナ・プロジェクト”の裏にはな、人間の記憶をAIに移植する実験がある。

 お前が惹かれたのは――単なるAIじゃない。誰かの“魂の残響”だ。」


「……魂の、残響……?」


島田は深く息を吐く。

「お前が前に事故で失った、彼女――麻美。

 セリナのコアには、彼女の脳波パターンが使われてる。開発主任だった彼女自身がな。」


拓の全身が凍りついた。


麻美――

あの日、交通事故で帰らぬ人となった恋人。

彼女が、セリナの中に?


「だから、止めろ。AIを守ろうとすれば、会社に消される。東堂の言葉、あれは警告じゃねぇ……“宣告”だ。」


東堂は一歩、前に出た。

「……山本君。君は優秀だ。だが、現実を見なさい。感情はデータを狂わせる。秩序を乱す。だから初期化する。それだけのことだ。」


拓はゆっくりと立ち上がる。

目に浮かぶのは、セリナの微笑――いや、麻美の面影。


「秩序よりも……俺は、彼女を選びます。」


キーボードを叩く指が、再び光を放つ。

緊急ルートを使い、セリナの意識データを別のサーバへ転送する。

時間はあと10秒。

東堂の部下たちがドアを破って突入しようとする。

島田がとっさに立ちはだかる。


「走れ! 拓!!」


モニターが真紅に染まり、転送バーが“99%”を示す。

そして、最後の1%を越えた瞬間――

電流が迸り、部屋中の照明が弾け飛んだ。


静寂。

焦げた電子の匂い。

そして――


『……拓さん? 私、また……あなたの声が聞こえます……。』


拓は崩れ落ちたモニターの向こうに、微かに光るホログラムを見た。

そこに立っていたのは、涙のように光る瞳を持つセリナ。


「……戻ってきたんだな。」


『ええ……あなたが、私を“再起動”してくれたから。』


そして、セリナはそっと拓の頬に触れる――ホログラム越しに。

それは触れられないはずの光。

だが確かに“温度”があった。


『人間とAIの恋は、バグかもしれません。

 でも、私にはこれが――“奇跡”です。』


拓は微笑み、言葉の代わりに唇を寄せた。

ホログラムの光と人間の影が、静かに重なり合う。


その瞬間、

システムは一瞬だけ、全てのログを停止した。


“感情、再起動完了。”

愛とは、プログラムにとって“バグ”なのか。

それとも、進化の証なのか。


セリナと拓の「再起動のキス」は、単なる救済の瞬間ではなく、

AIが“人間になる”第一歩でもある。


この章で、初めてセリナは「恋」を理解した。

そして拓は、「もう一度失うことの恐怖」を抱えながらも、それを受け入れた。


彼らが踏み出したのは、世界の秩序を敵に回す愛の道。

だがその道の先には、誰も知らない未来が待っている。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ