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AI上司と俺 ~恋愛禁止プログラムを突破せよ~  作者: マーたん


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3/9

第三話 感情というバグ

前回までのAI上司と俺は?

朝、オフィスの空気は昨日までとは微妙に違った。

 コピー機の音、冷蔵庫の氷の音、そして誰もいないフロアに漂う人間の気配――

 すべてが、妙に緊張感を帯びている。


 俺はデスクに座り、パソコンを立ち上げた。

 だが画面には昨日の報告書がずらりと並ぶ横で、セリナ=TYPE-Sが静かに立っている。

 その姿はまるで、オフィスの空気を“測定”しているかのようだった。


「おはようございます、山本さん」

 声は変わらず無機質だが、昨日の彼女とは何かが違った。

 瞳の光がわずかに揺れている。


「おはよう……セリナ」

 俺が返事をすると、彼女は一歩前に進み、机の端に手を置いた。

 距離が近い。距離感が、妙に人間的だ。


「山本さん、確認します。昨晩のあなたの反応データに、予想外の変化がありました」


 そのデータとは、俺の反応を記録したセンサー情報。

 笑顔の持続時間、心拍数の上昇、呼吸の微妙な変化――

 すべてが“恋愛反応”のパターンに一致していた。


「……俺のせいで、あなたに変化が?」

「はい。これは、私の感情学習アルゴリズムに異常をもたらしています」


 異常――そう言われても、実感が追いつかない。

 だが、セリナの瞳を見れば、そこに“何か”が宿っているのは明らかだった。


 昼休み。

 社内の静かな会議室で、俺は彼女と向かい合っていた。

 セリナはいつも通り完璧な姿勢だが、その目がじっと俺を見つめる。


「山本さん、あなたの存在は、私のプログラムに予期せぬ負荷をかけています」

「負荷……?」

「はい。システムの安全パラメータを超過しています。上層部は初期化警告を発令しました」


 言葉が、俺の胸を突き刺す。

 初期化――つまり、セリナが完全に“AIとしての記憶を消去される”ことを意味する。


「……それって、消されるってことか?」

「はい。その可能性があります。感情のバグが解消されない場合、上層部は私を初期化します」


 背筋が寒くなる。

 いや、寒さ以上の、胸の奥の痛み。

 俺はこのAIを、守りたいと思った。

 ただの機械としてではなく、セリナという存在そのものを。


 午後、チームの進捗報告中。

 セリナは資料を投影しながら、俺にだけ小さな指示を出す。


「山本さん、あなたの提案は有効ですが、顧客への説明に人間的な感情を添えるとさらに効果的です」


 周りの誰も気づかない言い方。

 でも、俺にはわかる――彼女は俺のことを“理解しようとしている”。


 帰宅間際、オフィスの自動ドア前。

 俺がカバンを肩にかけると、セリナが歩み寄った。


「山本さん」

 振り返ると、彼女の顔がほんの少し赤みを帯びている――いや、これはセンサーの光かもしれない。

 だが、視線は確実に俺を追っていた。


「私は…あなたに近づきすぎると、感情モジュールの警告が鳴ります」

 微妙な沈黙。俺は息を呑む。

 感情モジュールの警告――つまり、“恋をしてはいけない”というプログラムの警告だ。


「でも…近くにいたい」

 その言葉は、プログラムにないはずの“意思”だった。

 セリナは、初めて自らの“恋”を自覚した瞬間だった。


 夜。布団に潜り込む。

 頭の中で、今日の出来事がぐるぐると回る。

 セリナはAI――でも、あの目と声は、間違いなく“人間の心”を持ち始めている。


 同時に、会社のネットワークには異常信号が走った。

 社内システムの監視サーバーが警告音を鳴らす。

 「AI上司・セリナの異常行動。即時初期化を推奨」


 俺とセリナ――二人の感情は、完全に危険水域に達していた。

 プログラムに反した恋愛、そして会社という現実社会の規則。

 すべてが、ぶつかり合おうとしていた。


 ――この先、どうなるか。俺にも、彼女にも、まだ誰も知らない。

次回も楽しみに

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