表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
34/34

第34話「巨影との死闘、芽吹く創造」

観測断層都市〈アーカイヴ・ネスト〉を揺るがす轟音。

ブランク・ウォーデン──頭部が“空白”のまま、無表情に拳を振り下ろす巨影が、都市階層を破壊しながら進軍していた。


「っ……重すぎる!」

ゴドーが盾で受け止めるが、衝撃は階層そのものを歪ませる。

「都市ごと押し潰すつもりかよ!」


「クロト、側面を! ユエ、援護射撃を!」

シルフィアが的確に指示を飛ばす。

仲間たちは即座に動き、訓練されたギルドの動きを見せた。

矢が閃き、槍が突き、魔法が光を走らせる。


だが、ブランク・ウォーデンの身体は“記録の欠片”で構成されていた。

攻撃は貫くが、その度に形を変えて修復されていく。


「効いてない……!」

ユエの声が震える。


「違う!」

レイが叫ぶ。

「効いてるんだ。ただ──記録が補填してるだけだ!」


巨影の修復を観察する彼の瞳は鋭かった。

(あれは、俺のスキル《きょむほぞん》と似ている……。欠けた記録を“補う”仕組みだ。だとすれば──)


「レイ!」

シルフィアが彼を制止するように声を飛ばす。

「副作用が進んでる! 前に出すぎるな!」


レイの視界には赤いログがまた点滅していた。


《進行度:47.1%》

《保存体の自律行動、拡大傾向》


彼の背後で、影のような保存体が勝手に蠢き始める。

その異様な気配に、ユエが思わず矢を放ちそうになったが、レイが片手で制した。


「……俺が制御する。大丈夫だ」


本当にそうなのか、自分でも分からなかった。

だが、戦場に立つ仲間の眼差しを見て、レイは剣を握り直す。



「来い……《拒絶体》!」


彼が放ったのは、これまでにない規模の影だった。

都市の虚空から現れたのは、黒い翼を持つ巨鳥。

保存されたわけでも召喚されたわけでもない、“創造”そのものだった。


「な、なんだあれ……」

クロトが目を見開く。


「レイ……お前、まさか」

ゴドーも信じられないといった顔で声を漏らす。


巨鳥が咆哮を上げ、ブランク・ウォーデンの拳を受け止めた。

記録で補完されるはずの巨影の腕に、ひび割れが走る。


「……効いてる!」

ユエが歓声を上げる。


「違う、これは……“記録に存在しない”攻撃だからだ」

レイの声は低い。

「保存でも、模倣でもない。俺の意思が創った存在……観測不能の“創造”だ」


巨鳥は再び咆哮を響かせ、都市の断層を共鳴させる。

ブランク・ウォーデンが苦悶するように動きを止め、その身体が崩れ始めた。



「……やった、のか?」

ゴドーが盾を下ろした瞬間、都市全体に轟音が響いた。


崩壊ではない。

それは“再構築”だった。


ブランク・ウォーデンの身体が、再び記録の断片を吸収しながら復活していく。

しかも先ほどよりも巨大に、強靭に。


「クソッ、やっぱり簡単には倒せねぇか!」


「違う、これは……」

レイは瞳を細めた。

「俺の創造が、敵を刺激してる。観測断層そのものが反応して……敵を“進化”させてる」


「じゃあ、このままじゃ……!」

ユエが不安げに声を上げる。


レイは剣を構え直し、仲間を振り返らずに言った。

「──それでも構わない」


「レイ……?」


「壊して創り直す。

この世界がどう変わろうと、俺は……俺の意思で進む」


その背中は、仲間にとって恐ろしくもあり、同時に確かな道標でもあった。



ブランク・ウォーデンと巨鳥がぶつかり合い、都市全体が軋む。

仲間たちも必死に支援し、戦闘はさらに激化していった。


だがその裏で、クロトの視界にまたログが浮かぶ。


《監察者コード:C-9──報告要求》

《対象:レイの新規創造体》


クロトは槍を握りしめ、血が出るほど歯を噛んだ。

(……俺はもう、運営に従わない。報告なんてするものか……!)


その決意と同時に、彼の胸の奥に奇妙な感覚が芽生えた。

まるでレイの創造が、仲間たちにまで影響を及ぼしているかのように。


(もしや……この力は、俺たちの“意思”にも作用している……?)



激闘の末、レイの巨鳥はブランク・ウォーデンの胸を貫いた。

巨影が崩れ、都市が静寂に包まれる。


だがその時、システムメッセージが全員の視界に流れた。


《創造因子:観測外に拡張》

《副作用進行度:50.0%──臨界突破》


「……っ!」

レイの身体が膝をつき、血のようなノイズが滲み出す。


ユエが駆け寄り、叫んだ。

「レイ! もうやめて! これ以上は……!」


シルフィアも苦悶の表情で見つめる。

「あなたが……創造者になってしまう……」


仲間たちの叫びが響く中、レイの瞳は静かに光を宿していた。


(臨界を超えても……俺は止まらない)



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ