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第33話「観測断層の崩壊と、新たなる舞台」

《次段階イベント:観測断層の崩壊──全プレイヤー強制転送準備中》


システムメッセージが響き渡った瞬間、戦場全体が赤黒い閃光に包まれた。

結晶柱が軋み、空に広がっていた不気味な光がひび割れる。

大地そのものが崩れ始め、NPC兵や保存体が次々と飲み込まれていく。


「ッ、全員まとまれ!」

シルフィアの叫びに、ギルドメンバーは即座に背を合わせた。

だが、その背後でクロトの目には別のログが浮かんでいた。


《監察者コード:C-9──転送ルート優先権付与》


(……俺だけ別ルートに飛ばすつもりか)

拳を握り締める。

(もう従わない。今度こそ、仲間と一緒に──!)


だがシステムは無慈悲に実行される。

クロトは必死に抗うように仲間の肩を掴んだ。

「俺を……離すな!」


「クロト!」

ゴドーが彼の腕を掴み返し、シルフィアが魔力で補助をかける。

ユエも泣きそうな声で叫んだ。

「絶対に一緒に行くんだから!」


光が弾け──視界が真白に塗りつぶされた。



目を開けた時、そこはまるで別世界だった。


無数の“階層都市”が空に浮かび、その一つひとつが時計仕掛けのように回転している。

地面はなく、虚空を埋め尽くすのは光の回廊。

空間全体が“記録の断片”で編まれているように見えた。


《新規フィールド:観測断層都市〈アーカイヴ・ネスト〉》

《特殊ルール:外部観測不可能、内部記録限定》


「……外部観測不可能、だと?」

レイは眉をひそめる。

つまり、ここでの戦闘や行動は“運営ですら完全には把握できない”ということだ。


「逆に言えば……ここでの行動はすべて、自分の意思だけで記録される」

シルフィアが呟き、レイを見た。

「あなたにとっては……好都合かもしれないわね」


だがレイは苦笑した。

「いや、好都合じゃない。ここじゃ……副作用も誤魔化せない」


彼の視界には、仲間には見えない警告が浮かんでいた。


《進行度:45.3%──警戒レベル:赤》

《保存領域の一部が自律行動を開始》


(保存体が……勝手に動き出してる)


不意に、足元の虚空から“影”が伸び、レイの肩に纏わりついた。

それは彼が保存したはずのモンスターの断片で、意思を持ったかのように呻き声を上げる。


「レイ!」

ユエが駆け寄ろうとするが、レイは手を上げて制した。

「大丈夫だ……これは、俺が制御する」


そう言いながらも、内心では焦りを隠せない。

(制御できなければ……俺自身が、保存体に食われる)



その時、都市の中心部に巨大な影が立ち現れた。

それは鎧を纏った異形の巨人。

しかし頭部は“空白”で、顔が存在しない。


《システムログ:特異個体“ブランク・ウォーデン”出現》

《目的:観測拒絶者の排除》


「……来やがったな」

レイが剣を構える。


「どうする、リーダー!」

ゴドーが叫ぶ。


シルフィアは迷わず答えた。

「全員で当たる! ただし、レイは無理に前に出るな! あなたの副作用が限界を超えたら……この戦場ごと崩壊しかねない!」


「……分かってる」

レイは深く息を吸う。


ブランク・ウォーデンの拳が振り下ろされる。

都市の階層が震え、崩壊する。

ユエの矢が閃き、ゴドーの盾が防ぎ、クロトの槍が軌跡を描く。


そしてレイは──

自分の保存領域の奥から、新たな“拒絶体”を呼び覚ました。


「出ろ……《アーカイヴ・シェイド》!」


黒い影が虚空から飛び出し、巨人の拳を受け止める。

その瞬間、都市全体にノイズが走り、観測断層の構造が崩れ始めた。


(……やはり、俺の存在はこの世界を壊していくのか)


だが彼は迷わない。

「壊れるなら……創り直すまでだ」


仲間たちの視線が、彼に集まっていた。

信頼は揺らぎ、疑念は残る。

それでも──その背中にしか、道はなかった。


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