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第31話「選択の亀裂、揺らぐ信頼」

轟音と閃光が交錯する。

《封鎖戦域》は、まるで舞台のように用意された死闘の場だった。

レイとエコーが激しくぶつかり合い、その周囲をギルド《フェードアウト》の仲間たちが必死に支える。


「くそっ、敵の数が減らねぇ!」

ゴドーが槍を振るい、NPC兵を吹き飛ばす。

だが次の瞬間、模倣体の召喚した保存獣が背後に迫り、ユエの矢がかろうじてそれを貫いた。


「数だけじゃない……全部レイの保存体と同じ……」

ユエの声は震えていた。

彼女にとってレイは憧れの存在だった。だが、その“コピー”が目の前で同じ動きを見せる。

それは単なる戦いではなく、信じてきたものが試されるような恐怖だった。


「……大丈夫だ」

レイは息を切らしながらも、ユエを振り返らずに答えた。

「奴は模倣だ。意思がない。俺たちには──俺たちの選択がある」


その言葉に、ユエの瞳がわずかに揺れた。



一方、その後ろでクロトは動きを止めていた。

額を汗が伝い、拳を握りしめる。


(俺は……ずっと報告してきた。運営に、レイのことを……)

(この戦場も、俺の情報が引き金になった……!)


彼の胸の奥で、罪悪感が膨れ上がる。

だが、同時に耳の奥で“声”が響いた。


《監察者コード:C-9。最終報告を要求する》


(……違う。もう俺は──)


「クロト! 何してる! 前に出ろ!」

シルフィアの怒声が飛ぶ。

彼女は魔法を放ちながらも、仲間の異変を敏感に察していた。


クロトはハッと顔を上げ、強引に駆け出した。

目の前に迫る敵の刃を弾き返しながら、仲間たちに聞こえないほどの小声で呟く。


(俺はもう……運営の犬じゃない。レイを……仲間を守る)


その言葉は、誰にも届かない。

だが確かに、自らの中の“裏切り”を断ち切る決意だった。



戦闘は次第に膠着状態に陥った。

エコーの模倣は止まらず、レイの創造も副作用で制御が乱れ始めていた。


「レイ、顔色が……!」

ユエが叫ぶ。


「大丈夫だ!」

強がる声。しかしその手は震え、保存体の召喚が一瞬遅れる。

敵に突き込まれた刃が彼の頬をかすめ、赤い閃光が走った。


「レイ!」


シルフィアが駆け寄ろうとするが、NPC兵が道を塞ぐ。

ゴドーが吠えながら突進し、仲間の前に道を切り開いた。


そのとき──


「っ……来るな!」

レイが叫び、周囲に黒い亀裂を展開した。


《保存拒絶領域:展開中》


敵も味方も、すべての観測ログが遮断される。

その瞬間、戦場全体が“静止画”のように沈黙した。


「……何だ、この感じ」

ユエが目を見開く。


シルフィアも息を呑んだ。

「まるで……私たち自身の動きさえ、誰かに“記録されなくなった”みたい……」


レイは血を流しながら笑う。

「これが……俺の意思で選んだ《拒絶》。

運営にも、模倣にも……二度と俺を“記録”させない」


だが、その笑みの裏で、副作用がさらに進行していた。

視界の端に“存在しないはずの影”が揺れ、脳内に異質な声が響く。


《保存領域:解放を要求》

《進行度:42.9%──臨界接近》


(……まだ、俺は……!)


必死に意識を繋ぎ止めるレイ。

その姿を見つめ、クロトの胸に鋭い痛みが走った。


(……俺が、この状況を作った。

だが、今度こそ……俺が選ぶ)


彼は槍を振り払い、レイの背中に並んだ。


「シルフィア! 俺に任せろ! レイの負担は俺が軽くする!」


「クロト……!」


その行動は、仲間に勇気を与えた。

だが同時に、彼の心には未だ消せぬ“秘密”が潜んでいた。


ギルドの信頼は揺らぎ始めている。

それでも戦場は進む。


そして次の瞬間、エコーの瞳が再び赤く輝き、戦域全体に新たなシステムメッセージが走った。


《裏切り者コード:C-9──認証》


クロトの視界に、強制ログが流れ込む。

「……っ!?」


仲間の前で暴かれる“裏切りの証拠”。

戦場の空気が、一瞬で凍りついた。


次回予告


第32話「暴かれた真実、揺れる仲間たち」

クロトの秘密が明るみに出る。信頼を失う中、彼は仲間の前で何を語るのか。そしてレイの副作用は、臨界へ……。


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