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第30話「封鎖戦域と裏切りの影」

《記録拒絶機能、作動中》

《対象A:レイ──観測ログ、断絶》


──その瞬間、運営の管理サーバーは激しく警告を鳴らしていた。

観測を拒絶したプレイヤーなど、これまで一度も存在しなかった。

システム外に逃れた存在は、もはや“ゲーム内の住人”ではなく、“世界そのものを書き換える異物”となる。


運営は即座に判断を下した。

《封鎖戦域》の展開。


対象を隔離し、観測拒絶領域ごと閉じ込める特殊フィールド。

そこはプレイヤー同士の戦場として偽装され、だが本質は“削除用の舞台”だった。



「……ここは?」


視界が揺れ、レイは見知らぬ荒野に立っていた。

空は赤黒く、地面はひび割れ、周囲には無数の結晶柱が突き立っている。

異様な空気が充満しており、通常のフィールドではないことは一目瞭然だった。


《システムメッセージ:特別イベント“封鎖戦域”が開始されました》

《勝利条件:敵対ギルドの殲滅》


「イベント、だと……? そんな予定、聞いてねぇぞ」


レイが舌打ちした瞬間、背後から仲間たちの声が響いた。


「レイ! 無事か!」


シルフィア、ゴドー、ユエ、そしてクロト。

ギルド《フェードアウト》の全員が、同じ戦域に転送されていた。


「みんなも……巻き込まれたのか」


「イベント形式なら仕方ないだろ。だが、これは明らかに……おかしい」

ゴドーが槍を構えながら辺りを見渡す。


「確かに、雰囲気が違うね。敵ギルドって誰なんだろ」

ユエが弓を握りしめ、不安げに呟いた。


その答えはすぐに現れた。


結晶柱の向こうから、整然とした足音が響く。

現れたのは、漆黒の装備を纏ったプレイヤー集団。

その先頭には──


「……エコー」


赤い瞳の同期対象《Echo-002》が立っていた。

背後には、運営に従属するNPC兵士やAI部隊が並び、まるで軍隊のような布陣を築いていた。


「対象A、封鎖戦域において処理を実行する。抵抗は無意味」


「やっぱり……削除戦か」

レイは剣を握りしめる。


だが、その時だった。


「……っ」

クロトの視線が揺れた。


(しまった……! この展開は、俺が報告した情報が……!)


ギルドの仲間たちは知らない。

クロトが、運営に密かに情報を流す“監察者”であることを。


胸の奥で、激しい葛藤が渦巻いていた。

裏切り続ければ仲間を失う。だが、今さら真実を告げても……。


「クロト! どうした!」

シルフィアが声を張る。


「……っ、何でもない!」

無理やり笑みを浮かべ、彼は前に出た。

(今は……今はまだ言えない。せめて……レイだけは生き残らせる)



戦闘は熾烈を極めた。


ゴドーが盾となり、シルフィアが魔法で援護し、ユエが矢を放つ。

レイは保存体を次々と解放し、異形の獣や元素体を戦場に投じる。


だが、エコーはその全てを模倣する。

保存体が出れば、同じものを召喚。

スキルを使えば、同じ挙動で迎撃。


「鏡写し、か……! だったら──!」

レイは敢えて“無駄な動き”を繰り返し、模倣にラグを生じさせる。

そこに《空白穿孔》を叩き込み、エコーの動作を乱した。


だが──


「観測優先度、上書き」

エコーの瞳が赤く輝き、記録拒絶すら突破しようとする。


「っ……!」

レイの脳裏に再び激痛。保存領域が軋む。


(副作用が……! これ以上は……!)


その時、クロトが前に出た。


「レイ! お前の後ろは、俺が守る!」


そう叫びながら、彼は仲間に聞こえない声で呟いた。


(……運営、聞こえるか。俺はまだ監察者だ。だが、もう……俺の居場所は、こっちだ)


彼の瞳には、仲間たちと同じ“覚悟”が宿っていた。


戦場は、観測者と創造者、そして裏切り者の選択が交錯する“終端”へと近づいていく。


次回予告


第31話「選択の亀裂、揺らぐ信頼」

戦闘の最中、クロトの行動に揺らぐギルドの信頼。だが同時に、レイの中で“創造の力”が新たな局面を迎える。


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