表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
26/34

第26話「創造領域と、観測の終端」

レイは、あの戦いの余韻がまだ神経に染みついていることを感じていた。

エコー──模倣者。自らのスキル《きょむほぞん》を「観測し、再現する」存在。

戦闘中の挙動は、自分自身と戦っているかのようだった。だが、違いは確かにあった。


(あいつには“意志”がなかった。観測と記録を、命令でこなしてるだけの存在だ)


レイの目は今や、その先の“先”を見ていた。

保存されたモンスターたちの挙動が徐々に変わり始め、まるで“彼ら自身が学習し始めたかのような”兆候があったのだ。


その異変に、リィも反応していた。


「警告:対象Aが構築中の“保存領域”に、予測不可能な“創造因子”が混入しています」


「創造因子?」


「保存されたスキルや存在が、既存の挙動定義を超えて“自律的再構築”を開始しています。

これは……対象Aの思考領域と同期し始めた副作用と思われます」


つまり、レイの脳と《きょむほぞん》は、既に連動しているということか。


「このままだとどうなる?」


「対象Aの意思に応じて、保存領域内の存在が“勝手に進化”する可能性があります。

反面、意思が乱れれば、それは“暴走”に等しい現象を生むでしょう」


(……意思の揺らぎが、創造を歪める。俺は、その境界線にいるってわけか)


ギルド拠点に戻ると、シルフィアが待っていた。

彼女の表情は、これまでにないほど硬い。


「レイ。……運営が“次元干渉領域”を開いたわ。君が戦った“エコー”の改良体が、そこに投入されたって」


「次元干渉……?」


「本来なら“存在しないはずの戦場”よ。通常プレイヤーのアクセスは制限されていて、アクセスキーがなければ入れない」


その時、リィの通知がレイの視界を横切った。


《あなたに、特別アクセス権が付与されました:創造領域 -原初観測端-》


(……招かれてる、ってわけか)


その夜、レイはひとりでログインした。


アクセスゲートを通り抜けた先──そこには、どこか懐かしい景色が広がっていた。


(これは……俺が最初にログインした、あの……バグの起きた場所?)


だが、見覚えのある草原は、既に“造り替えられていた”。


大地は浮遊しており、空間の片隅には巨大な“眼”のような観測機構が浮かぶ。

地面のひび割れからは、コードのような黒い根が伸び、レイの足元に絡みつく。


「ようこそ、創造領域へ」


その声は、どこからともなく響いた。


「……エコー、か?」


「正確には、私ではない。私は、あなた自身の“記録が生んだ存在”──“記録者レイ・Ω”」


目の前に現れたのは、まさにレイ自身の姿だった。

だが、瞳は無色。感情の一切が削ぎ落とされた、完全な記録体だった。


「貴方は、“保存”の限界を越えようとしている。

記録とはすなわち、“現実を凍結する行為”。だが、貴方の保存は、“未来を定義し始めている”」


「……何が言いたい?」


「このまま進めば、貴方は“創造者”になる。

この世界の因果を、自らの意思で塗り替える存在に」


レイはゆっくりと拳を握った。

気づけば、足元に保存していたはずのモンスターが現れ、それぞれ勝手に進化した姿になっていた。


(俺が選ばずとも……意思が、保存を“創造”に変えてる……?)


「だが、創造は観測の敵だ。運営はすでに、貴方を“観測不能領域”と認識した。

今後、貴方にアクセスされるログは、一切記録されない」


「記録……されない?」


「そう。つまり貴方は、今後の全ての責任を“ログのない世界”で負うことになる。

“観測者”ではなく、“干渉者”として。責任ある創造者として──」


レイは小さく、笑った。


「それでいい。俺は、このスキルを得てからずっと、“見られてる側”だった。

でももう、“俺の世界”を創る番だ」


その瞬間、創造領域に閃光が走る。


レイの背後に、“真なる虚無”から生まれた新たな存在──“原初の保存体”が現れる。


コードと存在が融合した、白と黒の獣。


「……これが、俺のスキルが選んだ“答え”か」


その翌日。ログインしてきたシルフィアたちは異変に気づく。


「空間構造が変わってる……!? これは何、ギルド領域が変質してる……?」


「いや、これは……“新しいレイヤー”だ」


クロトが小さくつぶやいた。


レイは静かに立っていた。

その後ろには、かつて保存していたはずのモンスターたち──だが、その姿はどれも独自進化を遂げ、もはや原型を留めていない。


「俺はもう、“保存者”じゃない」


彼はそう宣言する。


「ここから先は、“創る側”として戦う」


それは、もう誰の模倣でもない、彼自身の物語のはじまりだった。


──観測の終端、その先にある“自由”へと、踏み出すために。


次回:第27話「創造の代償、解放の兆し」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ