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第21話「管理外領域と、囁く記録」

一度限りの勝利に酔うことなく、ギルド《フェードアウト》は再び活動を再開していた。

だが、表向きの平穏とは裏腹に、レイの中では明確な違和感が増し続けている。


「……また、ログが抜けてる」


拠点でデバイスを操作し、先日の戦闘記録を確認していたレイは、ふと眉をひそめた。

スキル《虚無保存》の発動ログの一部が、“記録不可”として削除されていたのだ。


それは一度や二度の話ではなかった。過去にも似た現象があった。だが、ここ最近の頻度と範囲は異常だった。


(クロトが見ていたな……けど、あれは直接手を加えられるような類の情報じゃない)


もちろんギルドの誰も、ログに干渉できるような権限は持っていない。

だが、レイの中には既に一つの仮説があった――「これは、運営による操作ではない」と。



「すまん、今日は少しだけソロで探索に出てくる」


ギルドメンバーにそう言い残し、レイは一人、ある未開域の外縁部へと足を運んだ。


表向きは“開発予定地”とされているが、プレイヤーが自由に出入りするには危険とされる場所。

マップ上には一切情報が表示されず、ダンジョン判定もされていない“管理外領域”――。


「……入れるとは思ってなかった」


実際、侵入できるとはレイ自身も予想していなかった。

だが、“保存”したモンスターの一体《迷域の漂影》の空間転移能力を応用したことで、一時的にこの場所へと足を踏み入れることができた。


無音の空間。地形すら不安定に揺らぎ、視覚情報はブレている。


その中心で、レイは“何か”を見た。


――黒い球体。浮かぶ記録断片。


「これ……ログか?」


球体の内部には、文字列のような光の流れが無数に渦を巻いていた。

そしてその中に、レイは確かに見つけた。


《虚無保存:初期登録 - 該当プレイヤー不明》

《アカウント紐付け失敗 - 再配布処理中》

《システム監査中 - 権限上書きログ確認》


「……俺じゃない。最初にこのスキルを持ってたのは、別の誰かか」


衝撃が、ゆっくりと背筋を這い上がってくる。

自分が最初の“所有者”ではなかった。

そして《保存》という名のスキルは、ある時点から“放棄され”、そして“再配布”された。


(じゃあ、俺が得たのは……残骸か、それとも意志か)


その瞬間、球体の一部が突如として開き、システムウィンドウが強制的に表示される。


《保存システム統合選択》

以下の処理から選択してください:

・統合:既存保存記録の継承と連結

・削除:不安定な記録の破棄と再構成


「……選択させるつもりか」


だがレイは、その選択肢を前にしても、すぐには指を動かさなかった。

確信がなかった――“何が”保存され、“何を”統合するのか。


「選ばされてるようで、気分が悪いな」


そのとき、不意に背後の空間が揺らいだ。振り返った先に、人影が一つ。


「お前……誰だ」


フードを被ったその人物は、無言でレイを見下ろし、手を軽く振った。


その手には、どこか見覚えのある紋章があった。《運営管理局》のシンボル。


(……観測者、か)


次の瞬間、人影は消えた。まるで最初から“ログに存在しなかった”かのように。


「……面白くなってきたな」


レイは再び、システムウィンドウに視線を落とす。

結局、この選択に“正解”などないのかもしれない。


だが、彼はゆっくりと、手を伸ばした――。


《保存システム統合選択:保留》


今はまだ、“選ばない”ことが、最良の選択肢だった。



その夜、レイはギルドの拠点に戻り、何食わぬ顔で作戦会議に加わった。


「遅かったな、レイ。何かあったのか?」

「ちょっと迷ってた。ログの海にな」


冗談のように笑って答えるレイに、シルフィアは微かに眉をひそめたが、特に追及はしなかった。


だが、クロトだけは――会話の外でその笑みを、じっと観察していた。


「……進行度、上がってないといいがね」


クロトはギルドチャットではなく、個人端末にそう呟いた。


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