果実の誘惑
【レオン視点】
『リベルタス歴17年、フェリカ歴136年、4月24日 夜』
僕とセリウスくんは、メルヴ総督府へ案内された。
メルヴ総督府の第一印象としては『成金』だ。
やたらと豪華な絨毯がしいてあるし、入口の玄関ホールには、お父さん像が飾ってあるし、ハッサンさんの絵が飾ってあるし、高そうなツボが置いてあるし……
僕は以前に見た、シド先生の家と比べる。
シド先生の家は、もっとこう『倉庫』って感じだったもんな。
「グッフフフフ。レオン殿、セリウス殿。メイドでも踊り子でも、気に入った娘が居たら、好きにして構いませんぞ?」
メイドさんや踊り子さんたちが、並んで出迎えてくれる。
普段からこの衣装なのかは分からないが、全員がシースルーの服を着ている。
メイドさんは、胸が見えそうで見えないし、踊り子さんは大事なところだけ隠している。
「いやいやいや、ハッサンさん! 女の子たちはキレイだよ! でもそういう事はしないからねっ!」
僕は右手を顔の前に立てて、横にぶんぶん振る。
「俺も色仕掛けには注意しろと、シド会長に言われてます」
セリウスくんは、『我関せず』という雰囲気をバリバリ出している。
(これじゃ僕みたいな権能持ちじゃなくても、嫌がっているって分かるよね。でも、女の子たちがかわいそうだな。このために集められたんだよね、きっと……)
だから、僕は女の子たちに小さく手をふった。
すると、メイドさんと踊り子さん風の女の子が一人ずつ出てきて、僕の手を引く。
僕はそのまま客間へと連れて行かれる。
慌てたようにあとからセリウスくんも着いて来た。
女の子たちは僕の服を脱がせて、体を拭いてくれる。
座りながらマッサージも受けると、旅の疲れが抜けるようだ。
「ほらほら、セリウスくんも恥ずかしがってないで、脱がしてもらいなよ」
部屋の隅では、セリウスくんがしゃがんで小さくなっていた。
「よ、よくレオンくんは平気だね」
彼の声はちょっと震えていた。
「ん~なんというのかな? 彼女たちだって、仕事でしているんだよ? それにこういうのを断るのは野暮だって父さんたちもママたちも言ってたよ。最後の一線を越えなければいいってさ!」
僕がけろりと答えると、セリウスくんもこちらへ来て、服を脱がせてもらう。
そして体を拭いてもらい、マッサージを受ける。
「ほわあ、レオンくん、確かにこれは気持ちいいですね!」
肩や腕をもまれながら、セリウスくんはあっけなく陥落していた。
僕の肩を揉んでいた黒髪の女の子が、背中に胸を押し付け、耳元に口を近づける。
まだまだ未成熟な胸だ。
「私はハッサンの娘、サフィーナと申します。以後、よろしくお願いします」
「あっ、どうもサフィーナさん、僕はレオンです。ねえ、たぶんこのあと、果物パーティーやるんでしょ? 案内してもらえないかな?」
僕は内心ドキドキしていたが、ママたちから教わった『秘伝の話題そらし術』を試してみる。
メルヴでは、長旅のあと、果物を食べる習慣があった。
僕はそれを授業で習っていた。
「まあ、私としたことが、長々と引き留めてしまいましたね。ささ、それでは参りましょう」
僕とセリウスくんは、新しく、白い遊牧民風の服を着せてもらうと、サフィーナさんに手を引かれて、ハッサンの部屋らしき所へ案内された。
ハッサンとサイードは、すでに部屋の中で同じく白い遊牧民風の服に着替えていた。
「おお、サフィーナ! レオン様にはお近づきになれたか?」
ハッサンは思惑を隠そうともしない。
「うふふ、なかなか『躱す』のがお上手でしてよ。女性の扱いにも、慣れているようです。でも手は出していただけませんでした」
サイードくんは、ハッサンとサフィーナをあきれたように交互に見る。
「あのさあ、親父。レオンに大切な妹をあてがってもいいのかよ?」
「構わん、構わん。リベルタス皇家と縁を持つ方が大事だわい! ささ、それでは果物を食べましょうぞ!」
メイドさんたちが、オレンジ、レモン、グレープフルーツ、ブドウなどを、豪華な皿で運んでくる。
オレンジなどは、食べやすいようにカットされていた。
「ねえ、ハッサンさん。砂漠にあるリヴァンティアの統治者ってどんな人なの?」
僕はレモンジュースを飲みながら聞いてみた。
これから行く場所だ。
なるべく情報は多いほうが良い。
「そうですな。リヴァンティアでは、王家の者たちが暗殺されるという事件が起こったと聞いておりますわい。今統治しているのは『熱砂の姫君』と呼ばれる姫だとか? 年もレオン殿に近いと聞きましたぞ? 後見人には腹違いの兄がついているそうです」
ハッサンさんはブドウをムシャムシャ食べながら答えた。
(熱砂の姫君か……どんな女性なんだろうな?)
ハッサンの部屋の壁を見ると、リヴァンティアまでの、大きな地図が貼ってあった。
それを見ながら、まだ見ぬリヴァンティアに思いをはせる。
レモンジュースは甘くもあり、酸っぱくもあった。




