ラクダのキャラバン
【レオン視点】
『リベルタス歴17年、フェリカ歴136年、4月24日 昼』
え~っと、メルヴまでの旅の感想を話すよ。
正直言って、ヒマだった。
だって、自分で歩かなくていい!
困った事は、夜、寒いくらい。
ラクダのサイードさんが先頭を行くと、ラクダたちがゾロゾロとついていくの!
とっても不思議な感じなの!
100頭のフタコブラクダたちには、ショートパスタを満載してあった。
どの商品がウケるか分からないから、色々な商品を積みたかった。
麦の本場のグラナリアなら職人さんたちもいっぱい居るんだろうけど、オーロラハイドでは、ペンネという斜めにカットされた筒状のパスタしか用意できなかった。
(そのうち、グラナリアから職人さんを呼ぼう!)
このあたりは、会議にも参加していたシドさんが手配しているはずだった。
(しかし、シドさんがグラナリアに秘密で作っていた店の名前が、ロイド商店ってのには笑ったよ。そのうち看板をシド商会にするみたいだけどね!)
それよりも僕には疑問があった。
「ねえ、ハッサンさん。この大量のペンネだけど、どうやって売るの?」
ハッサンさんはラクダに揺られていたが、こちらを向く。
隣なので話しかけやすかった。
「グッフフフフフ! 商人として、この狐のハッサンが実演販売の手本を見せてやりましょうぞ!」
ハッサンが口ひげを撫でながら、自信たっぷりに話す。
「親父~楽しそうなところ悪いけど、メルヴが見えてきたぜ!」
先頭のラクダに乗るサイードさんが、後ろを振り返る。
確かに前方には、土壁で作られたメルヴの城壁が見えた。
「ねえ、サイードさん。メルヴって城壁の工事してるね」
城壁の色が部分的に違う。
砂のような色をしていた。
「レオンくん。たぶんあれは砂岩で城壁を組みなおしているんだよ」
物知りなセリウスくんが答えてくれた。
(さすがセリウスくん。建築資材にも詳しいみたいだね)
「おっ、セリウス殿よくお分かりで……メルヴの拡張ついでに、城壁を砂岩で組んでます。これもオーロラハイドの海塩のおかげですな!」
ハッサンは機嫌良さそうにガッハッハと笑った。
先頭のサイードくんも嬉しそうな雰囲気を出している。
(権能のおかげか、なんとなく人の気持ちが分かるんだよな。雰囲気くらいしか分からないけど……)
メルヴは大きな街だが、さらに大きくするらしい。
(塩の貿易か……お父さんとシドさん、あとハッサンさんたちの努力のおかげだね!)
メルヴの東門に着くと、銀色の鎧を着た、初老の将軍が跪いて出迎えてくれた。
「お初にお目にかかります。4本の剣の紋章、リベルタス皇家の方とお見受けします。私は銀のロスタームと申します。どうぞよろしくお願いいたします」
ロスターム将軍は渋い声で挨拶する。
「これはご丁寧にありがとうございます。ラクダに乗ったままで失礼するよ。僕はレオンと言います。こっちは学友のセリウスくんだよ!」
「よっ、よろしくお願いします! セリウスと言います!」
挨拶を終えたあと、ロスターム将軍を先頭に、メルヴの総督府へ向かった。
「おっ、総督、またオーロラハイドの海塩を運んできたのか?」
「アタシにも売っておくれよ!」
「おいおい、ずりぃぜ! 俺が先だっての!」
「いやいや、俺だろ俺」
街の住人たちは、気軽にハッサンに話しかける。
「はっはっは、お前たち、今回はもっとウマいもんを持ってきたぞ! 明日、実演販売をするから、バザールの中央広間まで来てくれ!」
ハッサンが宣言すると、噂はたちまち広がっていった。
「おいおい、ウマいものが売られるらしいぞ!」
「異国のものか?」
「ああ、たぶんそうだろう」
「見ろよ、あのラクダの数。相当仕入れてるぜ」
「ああ~俺も食えるといいなぁ」
住民の期待は上がる一方だった。
西日が、メルヴ総督府の陰からこちらを見ているようだった。