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砂漠の地図

【レオン15歳視点】



『リベルタス歴17年、フェリカ歴136年、3月20日スタート』



「と、こんな陣形で俺たちリベルタス軍は、オルヴァリスの戦いに挑んだってわけさ! この後の戦局を、皆で予想してほしい。これが卒業試験だ!」



 黒板には、リベルタス軍と、グラナリア軍の配置図が書かれていた。



「ねえ、カイルお兄ちゃん。こんなのオーロラハイドの人ならみんな知ってるよ」


 僕は小さく右手をあげながら、今日の特別講師であるカイルお兄ちゃんに質問した。


 シド先生は、腕を組み、黙って壁際に立っている。


「そうよそうよ、帰ってきた兵士のみんなが自慢して話しているから、知らない人の方が少ないわ!」


 エルフで妹のエリュアまでもが、不満の声をあげた。


「そうよ、そうよ! 私たちをバカにしているの?」


 同じく、今年卒業のゴブリンのグリシーちゃんも声をあげる。


「カイル! 一年先輩で、皇帝になったからって偉そうにするなよ!」


 やはり、今年卒業のドワーフのバーリンくんは皇帝(カイル)相手でもタメ口だ。


「もしかしたら、思ったより深い試験かもしれません」


 シド商会から学びに来ているセリウスくんだけは、皆と違う意見だったようだ。


 セリウスくんも今年卒業だ。



「……フッ、お前たち、そう言うな。ここで大事なのは、各司令官や総大将だったカイルや、敵であったヴィレム公王の思惑や心理まで読み解くことだ。お前たちにそこまで出来るかな?」


 シド先生は、壁にもたれかかって様子を見ていたが、ようやく口を開く。


 シドさんは、壁の戦局図を指さす。




  海    海    海    海    海


       海岸線     海岸線

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

       (リベルタス軍)

  歩 補給隊  補給隊  補給隊  歩

  歩歩歩歩歩歩歩歩歩歩歩歩歩歩歩歩歩歩

  歩 重装騎兵 重装騎兵 重装騎兵 歩

  歩歩歩歩歩歩歩歩歩歩歩歩歩歩歩歩歩歩

ヒューゴ隊    カイル隊   バートル隊



↑↑↑↑↑↑↑  ↑  ↑  ↑  ↑  ↑

騎騎騎騎騎騎騎  騎  騎  騎  騎  騎

歩歩歩歩歩歩歩  歩  歩  歩  歩  歩

ルーロフ隊

            □公王ヴィレム


       (グラナリア軍)


(歩は歩兵隊、騎は騎兵隊)



「……いいか、そもそもなぜこのような陣形で行軍していたのか? グラナリアはなぜ危険を覚悟の上で攻撃をかけざるを得なかったか? そこがヒントだ。これぐらいでいいか? カイル?」


「ああ、ありがとよ、シド! じゃ、みんな、解答用紙に記入してくれ!」



 とは言ったものの、解答用紙はただの白紙だ。


 つまり、理論構築から、人と人の心理戦まで、全て考察する必要があるという事だ。


(確かにこれは卒業試験に相応しいかも?)


 僕は久しぶりに、頭をフル回転させると、解答用紙に向かった。



「よし、やめっ!」


 1時間後、カイルお兄ちゃんが解答用紙を集め始めた。



 解答用紙を見ながら、カイルお兄ちゃんと、シド先生が何やらヒソヒソと話し出す。



「やはり、この件を頼めるのは……」


 お兄ちゃんがシド先生に耳打ちする。


「……ああ、やはりレオンと、ウチからはセリウスをつけよう」


 シド先生もボソボソと話す。



「よし、レオンとセリウスは、後で俺の城の執務室まで来てくれ。衛兵に話は通しておく。あと、他のみんなには、期末試験祝いでこれをプレゼントしよう!」


 お兄ちゃんが教壇から袋を取り出すと、祭りの時にしか配られない木札(食べ物と交換できる券)を配り始めた。


「わあっ、お兄ちゃんだーいすきっ!」


 妹のエリュアが、手のひらを返したように笑った。


 他のみんなも嬉しそうだ。


 さすがに、街の中で有名な戦いが試験問題だったので、赤点を取った者はいないようだった。



「ねえ、セリウスくん。わざわざ皇帝(お兄ちゃん)の執務室で話ってなんだろう?」


「お、俺にも分からないよ……」


 僕とセリウスくんだけは、心配そうに小声で話す。



 学校で期末試験を受けたみんなは、どうやら『輝きのゴブリン亭』へ行くらしい。


 まあ、木札で何でも食べられるなら、一番高いところで食べたほうがいいだろう。


 オトク感がある。


 それに、あそこは美味しいし。



 僕とセリウスくんだけは、何も言わずに執務室へ向かった。


 セリウスくんはこの地方に多い金髪で、特別ハンサムだとかブサイクとかそういう事はないけど、どこかシドさんに似て、目つきが鋭い。


 小さいシドさんと言えばいいのかな?



 皇帝(お兄ちゃん)の執務室へ、セリウスくんと入る。


 僕はこれでも皇族だから、ここにはたまに入るけど、セリウスくんは入った事が無いと思う。


 彼はちょっとキョロキョロと落ち着かない様子だ。



 僕たちは皇帝(お兄ちゃん)の執務机の前に立つ。



「なあ、レオン。狐のハッサンのことは覚えているか?」


「うん、メルヴの総督でしょ? お父さんが生きていた時に、何度か来ていたのを覚えているよ。チーズをもらったよ」


 お兄ちゃんは、机に上に一枚の地図を広げた。


 それは、メルヴから、さらに西の方の交易路のようだ。




                      メルヴ草原



                       メルヴ(リベルタス国)

                        〇ーーーーーーーーー

                        | オーロラハイド行

         砂漠             |

                        |

                        |

  オアシス地帯   オアシス地帯  砂漠地帯 |

ーーー〇ーーーーーーーーー〇ーーーーーーーーーー〇ロヴァニア

  アークディオン  リヴァンティア      |(フェリカ国)

                        |

         砂漠             |

                        |

                        | ヴェリシア行

                        〇ーーーーーーーー

                      バロン男爵領

                      (フェリカ国)



「お、お兄ちゃん……こ、これって、僕も初めて見るよ。未公開地図は国家機密なんじゃ? 僕たちに見せていいの?」


 お兄ちゃんは、メルヴに指を置くと、ロヴァニア、リヴァンティアの順に指をさす。



「ああ、お前たちには、この西方の国々と国交を開いて、できれば友好的な関係を築いてきて欲しい。直接交易もできれば満点だ!」



 僕の胸を、未知への探求心、冒険と興奮、そして不安が同時に襲った。


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