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講和交渉

【カイル視点】



 俺は下を向き、男泣きをしているヴィレムを前になんとも言えない気持ちになった。


(なるほど、コイツも一人の王だし人間なんだ。殺していたら後味が悪かっただろう)


 夢に出た親父の真意が分かった気がする。


 確かにヴィレムはやってはいけない事をした。


 だからと言って、安易に殺していいものだろうか?


 確かに憎い。


 今すぐ殺してやりたい。


 だが、それで親父は生き返るのか?


 失った日々は戻るのか?


 前へ進んだほうが良くはないだろうか?



「なあ、ヴィレム殿。貴殿の城でもどこでもいいが、正式に講和交渉をしないか?」


 ヴィレムは顔をあげる。


 バートルがテーブルの横に来ると、俺とヴィレムのグラスにワインを注いだ。


 ヴィレムが黙ったままなので、俺はグラスを持つ。


「乾杯しようぜ、ヴィレム!」


 なるべく気さくに話しかける。


「あ、ああ、そうだな……」


 俺とヴィレムがカチンとグラスを合わせる。


 お互い一口ずつワインを飲んだ。



「カイル殿、聞いてもよろしいか?」


「ん? なんだ、ヴィレム」


 二人ともグラスを置く。


 そして視線を合わせる。


「ゼファー殿とも、こうして話し合えたのだろうか?」


(なんだそんな事か。親父なら受けるに決まってるじゃねぇか)


 簡単な質問だった。


「ああ、親父なら絶対に受けていたと思うぜ。息子の俺が保証する!」


 ヴィレムは再び下を向く。


 何かを恥じているように感じられた。



「カイル殿、敗戦国の王として、頼める立場ではないが、お願いがある」


「ん? なんだ?」


 俺は再びワインを手に取る。


 クイッと口に含むと、風味を味わったあと喉へ通す。


「ルクレツィアを……我が妻ルクレツィアを元に戻せないだろうか?」


「ルクレツィア?」


(誰だそれ?)


 聞いたことがないな。



「見れば分かる。我が城までご足労願えないだろうか?」


(良く分からないけど、行ってみっか)


 講和交渉もできるだろうし都合がいい。


「分かった、城へ行こう。バートル、シド、ついて来い」


「ハッ!」


「……分かった」


 俺たちはグランヴァル城へ向かった。


 王の寝室へ入ると、そこでは……



「まあ、ゼファーどこへ行っていたの? 心配したんだから!」


 女がヴィレムに抱き着いてきた。


 その様子を、小さい男の子が心配そうに見つめている。


「これが、我が妻ルクレツィアだ……権能の呪い返しをされたのだろう。ずっとこんな感じだ」


 俺は吐き気を感じた。


 一緒に居たバートルもシドも引いている。


(うげぇ、この甘え方、仕草……リリーママみたいだな……)


「このルクレツィアさんが、魔女伯なのか?」


「そうだ……」


(権能をはじき返したのは、親父とレオンだ。もしかしたら……)


 そうだ。


 権能の危険性について、親父はよく口にしていた。



「なあ、もしかしたらなんだが、俺の弟のレオンなら治せるかも知れない」


「なぬっ! それは本当か?」


 ヴィレムが俺の話に食いついてきた。


 彼は俺に向かって跪くと、頭を深く垂れる。



「ああ、ルクレツィアさんをオーロラハイドに連れて行ってもいいか?」


「分かった、カイル殿に託そう」



 他に、麦の販売価格の調整や、流通量、塩の販売価格、関税など、細かい事はシドが交渉してくれた。



 こうして、俺たちリベルタス軍は帰路に就く。


 お土産と戦後賠償として、大量の麦を貰って帰った。


 兵士たちもたくさんの麦をもらい、ホクホク顔だ。


(この麦は、亡くなった兵士の家族への補填に使おう……)


 俺たちリベルタス軍は、秋の間にオーロラハイドへと到着した。


 秋風は冷たかったが、皆の心は温かかった。


(親父、これからも見守っていてくれよ……)



【第二章 交易路の守護者編 完 ・ 第三章 熱砂の姫君編 へと続く】


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