商人シド
【シド視点】
俺はシド。元は軍の酒保で働いていた男だが、今やオーロラハイド随一の商人を名乗っている。爵位を得たゼファー男爵の片腕として、この街の経済を支えるのが俺の役目だ。
ゴブリンとの戦火を乗り越えた街には平穏が戻った。だが、次は『交易』で領地を豊かにしなければならない。
乾いた風が石畳を撫でる午前、俺は広場の倉庫前で帳簿を閉じた。先日、王都の商人との輸出契約がまとまったのだ。
「……よし。塩、麦、薬草、魚介類。これで次の商隊は完璧だ」
思わず口角が上がった。俺が見込んだのは、王都でも評判になりつつある、白く輝くオーロラハイドの塩。ゼファーが専売権を持つこの塩を、王都の市場に流し込むのだ。交易路を確立し、他の交易品と交換すれば、オーロラハイドに必要な物資が手に入る。
街の南門で見張りをしていた衛兵隊長のヒューゴが、忙しなく歩み寄ってきた。
「シド、すまんが次の王都行き商隊は明後日だ。馬車の手配は済んでいるか?」
「……任せておけ。鹿肉の干し肉も積み込む予定だ。あとは相手先に連絡するだけだ」
ヒューゴは満足げに頷き、鋭い眼光を俺に向けた。
「お前の手腕にはいつも助かっている。だが、今回は少し余裕を持って動いてくれ。領民が塩を待ち望んでいるんだ」
その言葉を背に、俺は市場のほうへ足を向けた。馬車が行き交い、人々の話し声が活気よく響いている。
店先に立つ俺の脳裏には、契約の瞬間が蘇っていた。王都の大商人……銀髪を後ろで束ねた壮年の男が、塩の結晶を掌に載せて感嘆の声を上げた。
「これは……まさに幻の塩だ! オーロラの光を閉じ込めたかのような白さ。ぜひ王都で売りましょう!」
その熱意に、俺は内心ほくそ笑み、契約書に署名した。あの日を思い出す度に、背筋が伸びる思いがする。
ふと足元に目を落とすと、小麦袋を肩に掛けた少女がこちらを覗き込んでいた。
「シドさん、今日の薬草はいつ届くの?」
市場の片隅で薬屋を営む親父を手伝う彼女は、目を輝かせていた。
「……ああ、明日の朝一番だ。待っていてくれ。新しい治療薬もできるって噂だからな」
子どもたちの将来のためにも、俺は交易の先にある『安心』を売っているのだ。
午後になり、俺はシド商会の事務所に戻った。木製のカウンター、壁に掛けられた大きな地図。俺は地図を指さしながら、次のプランを練る。
(……南のフェリカ王国はワインが豊富だ。塩と交換し、さらに途中の街へ……)
帳簿のページをめくるたび、未来が開ける気がした。しかし同時に、肩の重みも感じる。ゼファー男爵の信頼、領民の期待、王都との約束。失敗は許されない。
「シド!」
呼び声に振り返ると、リリーが立っていた。元女騎士だが、今や俺の良き相談相手だ。
「次の交易路の候補地について、相談があるの」
俺は微笑み、リリーに椅子を勧めた。
「……よし、聞こうか。次は君の眼で、市場を攻略する手助けをしてもらおう」
リリーは小さく頷き、俺が差し出した地図を受け取った。
……こうして俺たちは、次の商機へ向けて歩み出す。
商人シドの物語は、まだ始まったばかりだ。
シド商会の取り扱い商品例
資源:小麦、オーツ麦、海塩、薬草、魚介類、毛皮、鉱石
加工品:塩漬け肉、乾燥キノコ、織物、薬品
贅沢品:ワイン、香料、宝飾品、砂糖
その他:奴隷、価格がつくものなら何でも……
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