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グランヴァル城にて

【赤熊のヴィレム・グラナリア公王視点】



『リベルタス歴16年、フェリカ歴144年 9月15日 昼』



「クソッ、リベルタスめ……クソッ……クソッ……」


 我はグランヴァル城の私室で、テーブルを叩いていた。


 グラナリア公国の首都グランヴァルには、あまり大きな城壁は無い。


 敵はすべてグラナリアに広がる平原にて、騎兵で打ち破るべし。


 そのため、強大な城壁は必要なし。


 これがグラナリアの軍事戦略だった。


 我の国は小国である。


 全てのことに予算を投入する事は不可能だった。



 あと一歩、あと一歩でリベルタス軍の戦列に穴を空けることができたのだ。


 ヒューゴ隊というところに集中攻撃を行い、あと一歩で敵歩兵を溶かすことができるはずだった。


 そこへ、タイミングを見計らったかのようなリベルタス重装騎兵の突撃……


 しかも、陣頭で指揮をとっていたのは、大人になりたての少年と青年の間ぐらいの男子に見えた。


「フッ、あのような小僧に負けるとは……我も衰えたか……」


 落ち延びた兵は、軽騎兵わずか500であった。


 歩兵に至っては散り散りになってしまい行方不明だ。



 妻のルクレツィアと息子のアーサーは、念のため自室に籠もってもらっていた。


 今は一人になりたかった。


 すぅと扉が開くと、北海の狼ルーロフ将軍が入ってきた。


「陛下、申し訳ございません。私が敵軍を突破さえしていれば……」


 跪くルーロフ。


 彼は深く頭を下げていた。


「良い、ルーロフ。お主のせいではない。相手が悪かった」


 我はルーロフの手を取ると、立ち上がらせた。


 実際ルーロフはよくやったと思う。


 ヒューゴ隊をあと一歩というところまで追いつめていた。


「それより、そなたが来たということは、何か火急の用であろう?」


「はい、城外にリベルタス軍が現れました。リベルタス軍は降伏を勧告しております。リベルタス皇帝とグラナリア公王の一対一の会談を望んでおります」


 我は黙って狭い窓から外を見た。


 そして、自分のクビに手を当てる。


(もはや、これまで。この首一つで済むように交渉してみるのも一興か……)



 我はグラナリアが好きだ。


 せめて、民たちが来年も幸せに麦祭りをしてくれればいい。


(そうだろう? ルクレツィア? お前もそう思うだろう?)


 一瞬、ルクレツィアに会いたくなったが『ゼファー』と呼ばれるのが嫌でやめた。


「よし、ルーロフ、会談に応じると伝えろ!」


「ハッ!」



 我は、残った兵500を連れて、城門へ向かった。



 外へ出ると、どこから持ってきたのか、テーブルが置かれていた。


 ご丁寧にテーブルクロスまでひいてあり、上にはワインのボトルとグラスが2つ置かれていた。


 我はテーブルへと近寄る。


 すでに、敵の総大将と思われる男子が座っていた。


 行儀悪く、足を組み、ヒジをテーブルについている。


 口をとがらせ、明らかに不機嫌そうだった。


 これが敵の総大将にして、ゼファーの息子カイルなのだろう。


「ハハッ、最後に酒を飲ませてくれるとは、気が利くな」


 我は最後だと思うと、気が楽になった。


 カイルの正面に席に座ると、できるだけ気楽に話してみた。


「どうだ? ここは一つ、我の首一つで許してもらえんか? グラナリアの民にも兵にも罪はない。ここはどうか……」


 だが、返って来た言葉は意外なものだった。


 カイルは姿勢を正すと、我の目を真っすぐ見る。


「あのな。親父が夢に出たんだよ……天国でヴィレムと酒を飲んでも美味くないだろうから、しばらく地上にいてもらえってな」


「そっ、それでは……」


 我はそれしか言い返せなかった。


 なんと、仇である我を許すというのか?


「グラナリアはリベルタス帝国に併呑される。オマエも王のままでいい。それだけだ」


 我はいつの間にか、深く頭を垂れる。


(我とは度量が……違いすぎる……もっと早く話せていれば……)


 冷たい秋風が、身に染みるようであった。


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