ユリアとカイルの朝
【ユリア視点】
『チュン、チュン……』
『チチチチチチ……』
朝の鳥たちがさえずる声がする。
「はわっ、はわわわわ! メイドのお仕事しなきゃなのです!」
私はがばっと飛び起きた。
カイル様より早く起きて支度するのがメイドの務めだ。
「すぅ、すぅ……」
隣ではカイル様が寝息をたてていた。
ええっと、こういう時は、エルミーラママさんは『眺めて起きるのを待つ』って言ってたわね!
お互いの初めてを交換した男ですもの。
これからは、私が愛していかなきゃいけないのだわ。
そう思うと、なんともいえない優しい気持ちになった。
「うっ、ううう、オ、オヤジッ……」
カイル様が苦悶の表情を浮かべている。
彼は額にうっすら汗をかいていた。
ゼファー様は投げ槍で、体を貫かれて戦死したという。
ここ、オーロラハイドでは有名な話だ。
(わ、私がなんとかしなくちゃ!)
私は全身にオーロラの光をうっすらと纏う。
バサッと天使の羽を出すと、優しくカイル様の頭をなでる。
「う、ううっ……ユ、ユリア……お前やっぱり天使だったんだな……」
カイル様がゆっくりとまぶたを開いた。
私は、すっと天使の羽を消す。
「はい、そうですカイル様。もしかして、お聞きになられていましたか?」
「ああ、オヤジが死ぬ間際に言い残した……」
私はサイドテーブルの上にあったハンカチで、カイル様の汗をぬぐう。
カイル様は微笑んでいた。
「すまないな。ときどきオヤジの夢を見るんだ。一緒に釣りをした楽しい夢のときもある。でも最後は、必ずあの場面になるんだ……」
私はカイル様を抱きしめた。
彼の耳元に口を近づける。
「大丈夫、大丈夫です……そんな時は、私を抱いてください……」
「ユリア……済まない」
『コンコンコンッ』
誰かが、カイル様の部屋をノックした。
「カイル~、入るわよ~」
ドアがガチャリと開いて、シルクママが入ってきた。
その表情は、すぐに驚きに変わる。
裸の私とカイル様が、ベッドの上で抱き合っていたからだ。
「あら、あらあらあら! まあまあまあ!」
シルク様は胸の前で手を合わせると、嬉しそうな表情をする。
そのまま『スススス』と、扉のほうへ後ずさりする。
「お邪魔だったわね。お二人とも、ごゆっくり!」
「おいっ! シルクママ、変な気を使わないでくれ! そうだ、せっかくだから、ユリアの服と、誰か代わりのメイドをよこしてくれ!」
「うふふ、分かったわ!」
シルクママは、左手で口元を隠して、小さく右手をこちらにふった。
バタンと扉が閉められる。
「チッ、いい雰囲気だったけど、さすがにママに見られたら萎えたぜ!」
「あっ、あははははは……」
私は笑うことしかできなかった。
それから、私はメイドを外されて、待っていたのは妃教育だった。
午前中は読み書き、計算、貿易、内政、外交、人事、語学。
午後は各種武術に、乗馬、軍学、時にはダンスもあった。
「はわっ、はわわわわわ~っ!」
メイドとは違った忙しさがある。
(そう、そして、夜はカイル様の部屋で寝るようになったのよね)
彼は優しく、ここが、一番の安らぎ……
彼に包まれていると落ち着く。
愛に溺れると言う感覚を、初めて知ったような気がした。
でも、それが怖かった。
もしも失ってしまったら、もう生きていけない気がする。
そんな夜も、優しく抱きしめてもらえた。
(うれしい……)
自分が必要とされることが嬉しかった。
あれから、カイル様は夢でうなされる事が少なくなっていった。
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