グラナリアへの道
【カイル視点】
親父との別れの宴の翌日。
俺、宰相バートル、軍務大臣ヒューゴ、商人シドの四人は、城の会議室に集まっていた。
円卓には、オーロラハイドからグラナリアまでの地図が広げられている。
(地図はスマートフォンでは横表示推奨)
〇オーロラハイド
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| 北海
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風の平原 \
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\海岸線
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森林地帯
〇グラナリア
穀倉地帯
俺たち4人は地図を凝視していた。
「基本的には、海沿いを進軍しようと思う」
俺はオーロラハイドから、グラナリアへ海沿いに指を動かす。
沿岸部には細い道がある。
各地に点在する漁村が使う道で、大きな交易路ではない。
「理由を、お聞かせ願いますか?」
宰相のバートルが質問する。
当然の質問だろう。
「なあ、親父はどうやって殺された?」
俺の脳裏を、あの時の光景がよぎる。
「グラナリアの軽騎兵にやられましたな。投槍騎兵隊の仕業です」
ヒューゴが顔をしかめて言う。
そうだ、憎きヴィレム率いる、グラナリアの投槍騎兵隊だ。
「……フム……真っ先に補給隊が狙われそうだ」
補給担当のシドらしい意見だ。
食料などの軍需物資を失えば、撤退するしかない。
しかも、途中の村々から食料を強制徴収しながらの撤退となる。
あまりにも後味が悪い。
「そうだ。軽騎兵の強みは機動力だ。現にオーロラハイドの重装騎兵の追撃は失敗している」
機動力が全く違うのだ。
ドワーフたちの作った武具や鎧をまとった重装騎兵は強い。
一撃の衝撃力なら、おそらく周辺国でも一二を争うだろう。
だが、動きが遅いのだ。
歩兵相手なら十分な速度があるが、軽騎兵相手では、機動力で分が悪い。
「そこで、海沿いを、こういう陣形で進もうと思う」
俺は新しい紙に、陣形を描き始めた。
海 海 海 海 海
海岸線 海岸線
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歩 補給隊 補給隊 補給隊 歩 →
歩歩歩歩歩歩歩歩歩歩歩歩歩歩歩歩歩歩 →進行方向
歩 重装騎兵 重装騎兵 重装騎兵 歩 →
歩歩歩歩歩歩歩歩歩歩歩歩歩歩歩歩歩歩 →
(歩は歩兵隊)
「なるほど、一方を海に預けるわけですな?」
ヒューゴがポンと手を叩く。
この陣形のメリットに気が付いたようだ。
「……なるほど、これなら補給隊としては安心できる」
シドも納得したようだ。
そう、海からは騎兵隊は襲ってこない。
「これは一種の背水の陣ですね」
バートルがうなった。
背水の陣と聞くと『もう後が無い、追い詰められた必死の状態』というイメージがあるかも知れない。
だが、背後を狙われないと言う利点がある。
一番の弱点の背中をとられない、合理的な陣形だ。
「しかし、重装騎兵を中に配置するのはなぜですかな?」
バートルが当然の質問をする。
通常であれば、騎兵はもっと動きやすい位置に置かれる。
例えば陣形の両翼だ。
「グラナリアの軽騎兵が、投げ槍や短弓を使い切るまで、悪いが歩兵隊には耐えてもらう。もちろん、盾は持たせる」
全員が黙る。
歩兵隊を指揮するのは至難の技となる。
突出したり反撃する部隊が出ては困るためだ。
今回は、陣形に穴を開けるわけにはいかない。
「投槍騎兵隊の戦い方は、槍を投げたら、大きく後方へ下がり、また予備の槍を構えて突進してくる」
俺は槍を投げるフリをする。
「確かに何度も繰り返すと、人馬ともに疲れて動きが鈍るでしょう」
バートルは納得したようだ。
ヒューゴも頷いている。
「今回の作戦のキモは、歩兵を抑えられるかどうかと、重装騎兵の突入タイミングだ。間違えば……負ける」
俺が作戦を締めくくった。
その後もいくつかの案が議論されたが、これ以上の案は出なかった。
特に、交易路を通る案が最後まで残った。
正規の交易ルートを使える利点がある。
だが、グラナリアの軽装騎兵に、何時どこから襲われるか分からないと言う点で却下となった。
こうして、軍議はおわった。
俺は、軍議で出されたヤキトリ(ねぎま)片手に廊下を歩く。
すっかり、日も暮れた。
城内には、夏特有の湿気が満ちている。
自室へ戻ると、暑いと思い、コップへ水をそそぐ。
置いてあったジンジャーの粉末をコップに入れて混ぜる。
「ふうっ」
飲むと、一瞬だが暑さを忘れられた。
『コンコンコンッ』
俺がくつろいでいると、ドアがノックされる。
「す、すみません、ユリアです。あの……その……来ました……」
「わっ……分かった……入ってくれ……」
ユリアは、ピンクのパジャマ姿だ。
何をしに来たのかは聞かない。
俺の額を、夏の暑さとは別の種類の汗が流れていった。
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