表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
8/171

側仕えリリー

【リリー視点】


 私はリリー。かつては騎士の家に生まれ、誇り高き名を持っていたけれど、今はただのリリー。身分は奴隷上がりで、平民ということになるのだろうか。でも、そんなことはどうでもいい。今はオーロラハイド男爵、ゼファー様の側仕えをしているのだから。


 朝一番、執務室から声がかかる。


「おい、リリー! 今日の警備隊の給料、受け取ってくれ!」


「はい、かしこまりました」


 今日もまた、ゼファー様からのお使いだ。日払いの給料を届けるのは、金遣いの荒い衛兵たちが財布を空にしてしまわないように、という配慮らしい。命懸けの兵士なら、酒や賭け事に走りたくなる気持ちも、少しは分かる。


 私は受け取った給料袋を抱え、階段を駆け下り、坂道を抜けて小さな詰所へと向かう。兵士たちが列を作り、受け取った銀貨を大切そうに懐に収めている。彼らの「ありがとう」という声に、私の胸は少しだけ温かくなる。


 午後、丘の上に建つ屋敷の中庭で、ゼファー様と二人きりになった。


「リリー、お前はよく働く」


「ありがたいお言葉です」


 彼の素顔を間近で見ていると、かつて逃亡奴隷だったとは、とても信じられない。今日は思い切って、過去の話を聞いてみた。


「そういえば、昔のゼファー様は、どのような方だったのですか?」


 ゼファー様は一瞬驚いたように目を見開き、それから、ゆっくりと語り始めた。


「俺か? 俺は……逃亡奴隷だったんだ。奴隷商人が殺されてな。捕まっていた奴隷は、みな逃げ出したんだよ」


 その口ぶりは、まるで遠い昔のことのように淡々としていた。けれど、私の胸は締めつけられる。


「……そ、そうだったのですか……」


 言葉が出ない。彼が今こうして領主の席にいるという奇跡を、改めて噛みしめる。


 次の日、私はシド様と一緒に塩田の見学に出かけた。海水を塩田に引き込み、天日で乾燥させる。広大な塩田には、白い塩の結晶がキラキラと輝いていた。


「……見ろ、リリー。これがオーロラハイドの塩田だ」


 シド様が、どこか誇らしげに説明してくれる。


「へぇー、すごいですね」


 私は、感心して見入ってしまう。


「……まだまだ改良の余地はある。いずれは、このオーロラハイドの塩を、王国中に広める」


 シド様の真剣なまなざしに、私は畏敬の念を抱いた。ゼファー様の信頼を一身に受けている男だ。ゼファー様も、満足そうに頷いている。


「ああ、頼んだぞ、シド。オーロラハイドの経済は、お前にかかっている」


「……任せておけ」


 シド様は、静かに、しかし力強く応えた。


 そこへ、ヒューゴ隊長が現れた。いつものように、立派な口ひげを整えている。


「おや、ゼファー殿とリリー殿。ここが例の塩田ですかな」


「はい、その通りです」


「そうだ、ヒューゴ。オーロラハイドの未来を担う、重要な産業になるだろう」


 ゼファー様は自信に満ちた表情で言った。その言葉に、私の胸も高鳴る。


 私はリリー。ゼファー様の側仕え。


 これでも結構、忙しい毎日を送っている。でも、充実している。


 このオーロラハイドで、ゼファー様と共に新しい歴史を刻んでいく。そう思うと、ワクワクしてくる。


 私は、オーロラハイドの未来を信じている。


 そして、ゼファー様を……。

「とても面白い」★五つか四つを押してね!

「普通かなぁ?」★三つを押してね!

「あまりかな?」★二つか一つを押してね!

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ