表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
78/147

ライトピンクのバラ

【カイル視点】



『リベルタス歴16年 7月10日 昼前』



(う~ん、ちょっと飲み過ぎたか~?)


 俺は額に手を当てる。


 コップに水を注ぐと、ぐいっと飲む。


(ふぅ~水がうまい)


 パジャマ姿のまま、サンダルを履きベッドを降りると、窓から外を見る。


 晴れた良い天気だった。



 俺たちのいる、この人間の城は、通称『黒の城』


 オーロラハイドで一番の高層建築だ。


 その名の通り、黒っぽい石で作られている。



 頑強に作られている、ドワーフの石造りの灰色の城。


 華麗さ重視の、エルフの白い石を使った城。


 防御力のみ重視の、ワナだらけのゴブリンの雑多な石で作られた城。


 それぞれの種族の地区は、低めの壁で区切られていた。



 万が一、敵が三重城壁を超えてきた場合、市街戦を想定してのものだ。



 そして、中央広間では、木札を配っているシド商会の人たちがいた。


 シド商会は、単なる商人組織を超えて、半民半官の役人のような仕事もしている。



(まっ、こういうことも、公王になってから分かるようになったんだけどなっ!)



 黒の城の前では、人間の年頃の女の子が、同じく人間の男の子に花束を渡しているのが見えた。



 二人が何を話しているのかまでは分からなかったが、男の子が照れくさそうに花束を受け取っていた。


 おそらく、花の祭りの愛の告白に成功したのだろう。


 二人は手をつないで、広間の方へ歩いていった。


(俺も花束ほしいな。だが、相手は一人でいい。一人でいいんだ……)



 三人のママに囲まれて、親父が土下座しているのを最近見た事がある。


 一体、あれは何だったのだろうか?



 親父に聞いても「そのうち分かる」としか言ってなかった。



 そういえば、昨夜の宴会は、なぜか親父の隣に、ずっとアウローラさんが居たな。



(怪しい……)



 これは息子としてのカンだ!


 親父は分かりやすい生格だ。


 何か隠し事があっても、三人のママが見逃すわけが無い。



 いつもなら、アウローラさんは酔っぱらって、俺に胸をぐいぐい押し付けてくるはずだ。


 だが、ゆうべターゲットされていたのはオヤジだった。


(まあ、いっか。そのうち弟か妹が増えるかもな!)



『コンコンコンッ!』



「ユリアです、カイル様、入って良いですか?」


「ああ、起きてるよ。どうぞ」


 俺の部屋に、金髪でメイド服姿の少女が入って来た。


 この子はユリア。


 俺と同じで15歳だ。


 公王になってから、オヤジがつけてくれたメイドさんなんだけど……


(オヤジったら、ユリアを好きにしていいぞって言うんだもんな。どんなつもりだよ!)


 ユリアは、ライトピンクのバラを一輪持っていた。


「こっ、これをどうぞカイル様! 私のお給金では、これしか買えませんでしたっ!」



 ユリアは頭を下げると、俺にライトピンクのバラを差し出す。


「ありがとう、ユリア! 実は花をもらえるか不安だったんだよね! ママたちからもらっても義理みたいなもんだし」



 俺は『あっはっは』と声に出して笑った。


「えっと、あの、そのう、カイル様。これ義理じゃないです……」


(えっ、いま何て言った?)


 ユリアは顔を真っ赤にしている。


 うるんだ瞳をしていた。


 彼女の唇が、太陽に照らされて、ピンク色に輝いている。



「ユリア、本気なのか? いいのか? その、もらっても……」


「はい……」



(ふう、とりあえず、落ち着こう)



「ユリア、こっち来て」


 俺がソファーに座ると、ユリアは向かい側にちょこんと座る。


 彼女はかなり緊張しているのだろうか?


 動きがぎこちない。


「いいか、ユリア。俺は、好きになる人は一人でいいと思っている。だから、とりあえずお付き合いする所から始めないか? 最近知り合ったばかりだし……」


 ユリアの顔が、少し明るくなった。


「そっ、それは、つまり、私を女にしてくれると言うことですかっ? さっそく湯を浴びてきますっ!」


 彼女の声のトーンが上がる。


 今にも走り出しそうだ。


「だから、順番を飛ばしすぎなんだよっ!」


 そういえば、このユリアはアウローラさんの神殿で育てられたんだった。


 なるほど、これはアウローラさんから、変な影響を受けているな。


「つっ、つまりっ! OKということなんですよねっ!」


「わかった、わかった。OKだからOKだから、とりあえず時間をくれっ!」


 ユリアは立ち上がると「ふんふんふ~ん♪」と謎の鼻歌を歌いだす。


 機嫌良さそうにくるりと一回転する。


 ヒラリとスカートがなびく。


「あっ、カイル様。それでですね、午後一番から、フェリカ国との恒例の模擬戦があるそうです! エドワード王が、対戦相手として、カイル様をご指名されているって聞きましたよ!」


「あれ? いつもの祭りなら、オヤジがリベルタス側の指揮官のはずだけど?」


 ユリアはふるふると、小さく首をふった。


 花をもらったせいか、変に意識してしまう。


 こういう小さな仕草も可愛い。



「あっ、えっと、エドワード王は、皇帝陛下と剣を交えてみたいそうです!」


「あ~、おじいちゃんなら、確かに言いそうだな! よし、軍服に着替えるか!」



 俺はユリアに手伝ってもらい、黒い軍服に着替える。


 着替えると、廊下へ出て、外へ向かう。


 後ろをユリアが付き従う。



「うわ~ん! バートルさんの鈍感~っ!」


 妹のエリュアが泣きながら廊下を走っていく。


 手には花束を持っていた。


 受け取ってもらえなかったのだろう。


(あ、これはフラれたな……)


 俺は、詳しいことをあえて聞かない事にして、三重城壁の外へ向かった。


(妹よ、男なら他にもいるさ)


 たまには兄らしいことをしてやりたい気分になった。


 妹のことも気になったが、対戦相手のおじいちゃんの事も気になる。


 戦ったことのあるオヤジに聞きたかったが、寝てるだろうからそっとしておくことにした。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ