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背負うもの

【ゼファー視点】



『リベルタス歴16年 7月9日 夜』



「今なら俺のほうが強いかもなぁ! オマエが卒業してからも稽古を続けていたんだ!」


 ドワーフのバーリンくんは、カイルを挑発する。


 剣を振る真似もしていた。



「あたしも勉強頑張ったんだから! 今はも~っと点数上がったのよ!」


 ゴブリンのグリシーちゃんは、カイルに向かって右手をぶんぶん振る。


 やっつけてやると言う意味なのだろうか?


「あわあわ……あわあわ……」


 俺の娘のエルフのエリュアは、一人あたふたしていた。


 この子は争いごとに向かない性格だ。



 当のカイル本人は黙って聞いており「ふうっ」と深呼吸した。



(おっ、カイルのやつ思ったより落ち着いてるな。仕事してる大人だから余裕ってか? まっセンパイだしな)


 俺たち親世代は、子供たちの口ゲンカの様子を見守っていた。


 レベルの低い争いではあるが、各種族の代表の子供である。


 代理戦争と言えなくもなく、興味深く見守っていた。


 親世代で慌てているのはリリーで、同じく『あわあわ』している。


 エドワード王だけは「カイルきゅん負けるな~」と、旗色を明らかにしていた。



 カイルは、まずグリシーちゃんを指さした。


「だいたいよぉ、グリシー! お前が残した給食! ぜんぶ食ってやったのは俺だったよな? 忘れたとは言わせねえぜ!」


 グリシーちゃんは「はっ」とした表情になり、『トトトト』とカイルの方へ走り寄っていった。


「わ、忘れてない! 覚えてる! うん決めた! あたしカイルにつく!」


 彼女はあっさりとバーリンくん(反皇帝派?)を裏切り、カイル(皇帝)に組した。



「あっ、きったねーぞ、グリシー! さっきまで、皇帝なんてナマイキよね~とか言ってたクセに!」


 グリシーちゃんはバーリンくんに向かって『べ~っと』舌を出す。


 ちょっと可愛い。


「ふ~んだ! カイル先輩は優しかったもんね~! アンタなんか、授業中たまに寝てたじゃない!」


「なにを~! 男は剣が強けりゃいいんだよ!」



 バーリンくんの実の父親であるトーリン王が、息子(バーリン)の肩に手を置いた。


(おっと、トーリンのやつ助け舟でも出す気か?)



「はっはっは、バーリンよ。力押しだけではイカンぞ。こういう時のための魔法の言葉を教えてやろう」


 バーリンくんが後ろを向き、トーリン王を見る。


「な、なんだよオヤジ。なんか策でもあるのかよ」


 バーリンくんは半信半疑のようだ。


 だが彼には他に味方がいない。


 父親をすがるように見つめる。


「ドワーフ族は、金や鉄の供給を絞ると脅してやれ……」



 それを聞いた一同に戦慄が走る。



(あっちゃ~、トーリン王のヤツ、一線を越えやがった)



 俺は見ていて頭を抱えた。


 なんとか仲裁に入ろうかと思ったとき、先に口を開いたのはカイルだった。



「へえ、トーリンのおっちゃん、そんな事言うんだ? それなら人間族はライ麦の供給を減らすぜ? ドワーフだけで食っていけるのかよ?」


 カイルは軽い口調で挑発した。


 当のカイルとトーリン王はニヤニヤしているが、場の空気は明らかに冷え込んだ。



「カイルお兄ちゃん、それは言い過ぎだよ~確かに主食の麦を握っているのは人間だけどさ~」


 弟のレオンが兄をいさめる。


 いつもの赤いシャツを着た、ゴブリンのグリーングラス王もカウンター席から立ちあがる。


(おっとグリーングラスのヤツも参戦か。こりゃ本格的になってきたな)


「ほう、さすがはカイル皇帝陛下、お見事ですな。ドワーフが金や鉄をしぼるなら、ゴブリンに族とっても死活問題! ゴブリンの養鶏場もニワトリや卵の供給をストップしましょうかなぁ! ハハハハハハ!」


 グリーングラス王は豪快に笑った。


(どこまで冗談か分からねぇけどよ、少し本気も混ざってやがるな)


 俺はもう少し静観することにした。


 かわいそうなのは子供世代のバーリンくんとグリシーちゃんだった。


「麦とニワトリが食えなくなる……俺のせいだ……オヤジ、みんな、ごめんよぉぉぉ」


 バーリンくんが泣き出す。


 それにつられて、グリシーちゃんも泣きだした。


「うわぁぁぁぁぁぁん! アタシが皇帝なんてナマイキよね、とか言ったせいだ~許してカイル先輩~! ちがうわ、皇帝陛下~っ!」



 二人が泣き出したので、皇帝(カイル)のほうが慌てだした。


 カイルはバーリンくんとグリシーちゃんを優しく抱き寄せる。



 今まで壁にもたれかかっていた商人のシドが、ゆらりと子供たちのほうへ歩み出た。



「……フッ、分かったか。このように各種族は微妙なバランスで成り立っている。今度、授業で教えてやろう。あとエルフを怒らせるのもやめろ。野菜や果物を食べられなくなるぞ……」


 シドはいつもの冷たい口調だったが……


(あら~シドゃん、すっごく優しいじゃ~ん。ちゃんとセンセイやってるのね!)


 俺は、ちょっと嬉しくなり、グリーングラス王、トーリン王、シド、そして子供たちの肩をバンバンと叩いて回る。



「まあ、そういうワケだ! ケンカするなとは言わねぇが、その前によく考えたほうがいいって事だな!」


 俺は場の空気を和ませようと、なるべく明るい声を出す。


 グリーングラス王は「ふふふふ」と、トーリン王も「クククク」と笑っている。


 ああ、こいつら、この場を自分たちの子供の教育に利用しやがったな。



 だが、それを言っても野暮ってもんだ。


「おーい! ゴルゴン! ヤキトリ全種類! 大皿で持ってきて~」


 ゴルゴンは店のマスター兼シェフだ。


 いや、ヤキトリを頼んだのだから、タイショーと呼ぶべきか?



 店の奥の方から「あいよ~」と言う声が聞こえてきた。


 『ジュウ~ッ』と言う音と共に、鶏肉の焼ける香ばしい匂いが漂ってくる。


 やがて、ヤキトリが運ばれてくると、場は一気ににぎやかになった。


 うん、やっばり、ハラが減ってるとロクなことが無い。



 皇帝就任祝いとかなんとか言ってるけど、結局みんな飲んで食って騒ぎたいだけ。


 ここはそういう店なのだ。



 出てきたヤキトリのメニューはこんな感じだった(夜間閲覧注意!)



・もも

 しっとりとした旨みとジューシーさが魅力の部位。


・むね

 脂肪分が少なく、あっさりとした味わいが特徴。


・ささみ

 低脂肪で柔らかく、淡白な味が楽しめる部位。


・ねぎま

 鶏ももやむねの肉と、ネギを組み合わせた定番の串。


・せせり

 首周りの肉で、独特の歯ごたえとコクが魅力。


・皮

 焼くことでパリッとした食感になり、脂の旨みを楽しめる。


・砂肝

 カリカリとした食感と、しっかりとした歯ごたえが特徴。


・ハツ

 鶏の心臓部分で、噛むほどに旨みが広がる人気の部位。


・レバー

 独特の濃厚な味わいがあり、ファンも多い部位。


・ぼんじり

 尾の部分で、脂がのっており、しっかりとした風味が楽しめる。


・手羽先

 骨周りの肉と皮が絶妙なバランスで、香ばしく焼き上がる。


・なんこつ(軟骨)

 カリカリとした食感が人気で、歯ごたえを楽しむ一品。


・つくね

 鶏肉を細かく刻んで練り合わせたもので、タレや塩で味付けされる肉団子状の串。



 味付けは、それぞれ塩とタレの二種類だ。


 みんな笑顔でカイル皇帝をイジる。


 大人連中は、カイルの頭をぐりぐりと撫でまわす。


 女性陣や子供たちも、気軽にカイルをペタペタ触る。


「皇帝って言っても、学校の先輩のカイルだもんね!」


 グリシーちゃんの言うことはもっともだった。


「そうね、あたしにとっては、ただのカイルお兄ちゃんよ!」


 娘のエリュアはブレないな。


 戦う力は無くてもこういうところは強い。


 そう、皇帝とは言っても、俺の息子だ。


 釣りのライバルでもある。


 結局、皆で騒ぎに騒ぎ、飲んで食って、明け方近くにようやくお開きとなった。


 まあ、一番うるさかったのは「カイルたん、すごい~!」と騒いでいたエドワード王だったような気がする。


 俺は先に寝てしまった皇帝(カイル)をおんぶしながら城へ帰る。


 衛兵が「運びましょうか?」と尋ねてきたが、自分で背負いたい気分だった。


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