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交易路の守護者!~理想の国づくりと貿易で無双したいと思います~  作者: 塩野さち
第二章 交易路の守護者

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ゼファー思索する

【ゼファー視点 輝きのゴブリン亭へ行く少し前】


「……そうか。あのカイルが、自分から皇帝になると言い出したのか……」


「はい、ゼファー様。左様でございます。その場でフェリカのエドワード陛下も、カイル様を皇帝として承認なさいました。いやはや、めでたいことでございますな」


 リリーの看病で疲れて、少し横になっていた俺は、ベッドに腰掛けたまま、宰相バートルの報告を、どこか他人事のように聞いていた。


 あのカイルが、ねぇ……皇帝、か。


 まあでも、剣術バカの俺が皇帝になるよりは、よっぽどマシだったんじゃないのか? うん、きっとそうだ。


 そもそも、エドワードのじいさんとの交渉は、最初から息子(アイツ)に任せたんだ。どんな結果になろうと、俺がとやかく言う筋合いはねぇ。


 まあ、後で会ったら、よくやったと頭でも撫でて褒めてやるか。


「では、私は宴の準備に戻りますので、ゼファー様もごゆっくりお支度を」


 そう言って、バートルは静かに一礼すると、部屋を出て行った。


 一人残された俺は、ベッドに腰掛けたまま、窓の外の夕焼け空をぼんやりと眺め、物思いにふけっていた。


 俺の人生ってやつは、どうも、自分でもよく分からねぇ、おかしな方向に流れちまったらしいな。


 特に、あの西方の交易都市メルヴを陥落させてからは、その流れがますます加速しているような気がするぜ。


 俺が、一部の連中……まあ、具体的に言やぁ、商人とか、街道を行き来する旅人たちから、『交易路の守護者』なんて呼ばれてるのは知っていた。


 だがなぁ……俺としちゃ、別にそんな大げさなことをしたつもりはねぇんだ。ただ、街道を作って、そこで悪さをする馬賊だの盗賊だのを、片っ端から追っ払ってやっただけだぞ?


 だってよ、安全な道があった方が、みんな便利に決まってるだろ? 俺だってそうだ。


 だから、オーロラハイドからメルヴまで、馬車でも楽に通れるような立派な街道を、作っただけなんだ。


 それに、捕まえた盗賊どもは、男も女も関係なく、一人残らず北の『塩の村』送りにして、みっちり働かせてる。


 オーロラハイドで捕まえた、たちの悪い犯罪者も同じくだ。


 ついでに、奴隷商人から、定期的に売れ残った奴隷も安く買い取って、塩の村へ送っている。労働力はいくらあっても困らねぇからな。


 まあ、そんな『塩の奴隷』たちにも、いちおう真面目に働いた分だけの給料は払ってやってる。


 だってよ、いくら奴隷だって、一文無しじゃあ何も買えなくて困るだろ?


 だから、本気でやろうと思えば、その給料をコツコツためて、自分を買い戻して奴隷から抜け出すこともできる仕組みにはしてある。


 奴隷代金を自分で払えば、それで自由の身だ。簡単だろ?


 ところが、だ。どういうわけか、その制度を使おうとする奴隷が、あんまり居ねぇんだよなぁ……


 みんな、オーロラ教の教えを守りながら、『塩の村』の住人として、なんだか妙に落ち着いちまっているみてぇだ。


(もともとは、ただの貧しい塩作りの村を、ちょっとでもマシにしようってところから始めてるんだ。俺が村長みたいなもんだしな。結果的に、みんながそれでいいなら、まあ、いいのか……?)


 あそこじゃあ、一日の仕事が終わったら、ちゃんと酒も飲めるようにしてある。安酒だけどな。


 一日の終わりに美味い酒を一杯やるってのは、次の日の仕事の効率を上げるためにも大事だからな。俺の経験上、間違いない。


 ただし、飲み過ぎて次の日に響くのは困るから、一人につき二杯まで、ってことにしてあるがな。


 あと、肉も食いたくなるだろ?


 だから、ヤキトリだって腹いっぱい食べさせてやってる。もちろん、これも塩の村で飼ってるニワトリだ。


 まあ、こっちも一応、一人五本まで、って制限はつけてるけどな。食いすぎは体に悪い。


 雨風をしのげる家だって、冬の寒さを乗り切るための分厚い毛布だって、ちゃんと全員に与えている。


 何せ、このオーロラハイド周辺の冬は、シャレにならねぇくらい寒いからな。凍え死なれちゃあ、元も子もねぇ。


 ただし、家は長屋みてぇな集合住宅だけどな。管理が楽だから。


 それから、主食のライ麦パンと、畑で採れる野菜だけは、腹が減ったら好きなだけ食えるようにしてある。


 だって、奴隷たちが汗水たらして作ってくれる『オーロラハイドの塩』の方が、麦や野菜なんかより、ずっと高い値段で売れるんだからな。


 つまり、確実に儲かってるってわけだ。


 俺はただの剣術バカで、難しいことはよく分からねぇが、それぐらいの計算はさすがにできる。


 まあ、金の計算とか、交易とか、そういうもっと細かいところは、商人のシドちゃんに丸投げしてあるんだけどな。あいつは、そういうのが得意だから。


(こうさ、普通の人間なら、もっとこう、野心みてぇなもんがあるだろ? 自分だけの家が欲しいとかさ、もっと偉くなって出世したいとかさ。自由になりてぇとか……)


 ところが、どういうわけか、塩の村の奴隷たちは、今のその生活に満足しちまっているようなんだよなぁ。


(サラリーねぇ……たしか昔、どっかの本で読んだが、給与みてぇな意味だったっけか? これじゃあ、奴隷っていうより、なんだか『サラリーマン』とかいう、よく分からん新しい生き物みてぇだな)


 それに、ここ十五年くらいで、奴隷同士で好き合って結婚するなんてケースも、結構出てきている。


 その結果、生まれた時から塩の村が故郷だっていう子供たちも多い。


 さすがに、その子供たちは奴隷じゃなくて、普通の自由民として扱ってやってるんだが、不思議なことに、大きくなると自分から親と同じ塩田で働きたいって言い出すヤツが多いんだよな。手に職がつくから、とか言って。


 もちろん、中には真面目に金を貯めて、奴隷の身分から抜け出した者も、ごく少数だがいる。


 だが、そういうヤツらも、結局は塩の村に残って、相変わらず塩づくりを続けたり、それに関連した仕事に就いたりしてるんだ。不思議なもんだぜ。


 ちなみに、塩の村には、息抜きのために、いわゆる『夜の店』みてぇなものも、いくつか作ってある。もちろん、経営はシドちゃんだ。


 どうも、奴隷の中には、そこの店の女性といい仲になって、そのまま所帯を持っちまうヤツもいるらしい。人間ってのは、たくましいもんだな。


 まあ、その辺のことは、あの女神官のアウローラがやけに詳しかったから、きっとそうなのだろう。


 塩の村での結婚式だの、子供の命名だのっていう儀式は、全部あいつの神殿が取り仕切ってるからな。


 彼女は、いちおう、オーロラ教のリベルタス公国における大司祭様、ってことになってる。まあ、俺にはよく分からんが。


(だが、あのアウローラのヤツ、何か一枚噛んでるっていうか、何か隠してるような気がするんだよなぁ。今度、美味い酒でもおごって、カマかけてみるか。あいつ、酒には目がねぇからな)


 まあ、アウローラ自身は、普段は全く怪しい素振りなんて見せやしねぇ。


 強いて何か変わったところを言えば、やけに男好きだってことくらいか。


 それも、とびっきりの年下好きだ。


 聞くところによると、相手は若ければ若いほどいい、なんて公言してるらしい。とんでもねぇ女だ。


 実際、ウチのカイルやレオンも、しょっちゅうあいつに狙われてるみてぇだしな。


(だが、そうじゃねえ、そうじゃねえんだよな。何か、もっと根本的なところで、俺は見落としてる気がするんだ……)


 それから、これは親としてのカンだが、カイルのヤツ、何か俺に隠してるような気がするんだよなぁ。


 なんつうか、あいつ、時々アウローラに対して、ただの神官に対するのとは違う、妙な敬意を払ってるような素振りを見せる時があるんだよなぁ。


 最初は、カイルが信心深い性格なのかとも思った。


 だが、カイルだって、普段のアウローラのあの酒好きで男好きな、だらしねぇ姿は百も承知のはずだ。


 だとしたら、やっぱりあの態度は、どうにもおかしい。


(考えすぎか……? まあ、カイルももう十五だ。親に言えねぇ秘密の一つや二つ、あってもおかしかねぇか。そのうち、分かる時も来るだろ)


『コンコンコンッ』


 物思いにふけっていると、不意に寝室のドアがノックされた。


「あなた、私よ。入ってもいいかしら?」


 それは、我が妻シルクの声だった。


「おう、シルクか。ああ、もう起きてるぜ。入ってこい」


 俺がそう言うと、ドアの外に控えていた衛兵が、恭しくドアを開けた。


「シルク、お前、もう宴の着替えは終わったのか? 早いな」


 シルクは、夜会にでも出席するかのような、美しい青いシルクのドレスを身にまとっていた。よく似合ってるぜ。


「もう、あなたったら、いつまでぼんやりしているの? あなたが最後よ。さあ、着替えを手伝ってあげるから、早くしないと『輝きのゴブリン亭』での宴に遅れてしまうわ」


 シルクは、優しく微笑みながら俺の手を取った。


「そうだな、もうそんな時間か。わりぃ、わりぃ」


 シルクが俺のために選んでくれたのは、シンプルな白い麻のシャツと、動きやすい黒い革ズボンだった。


 飾り気はねぇが、襟元や袖口にはさりげなく金糸の刺繍が施されていて、なかなか洒落ている。


「よし、準備万端だな! 行くか、シルク! カイルの皇帝即位の前祝いだ!」


 俺はシルクと軽く腕を組むと、意気揚々と寝室のドアから踏み出した。


 シルクと二人で、月明かりが差し込む静かな夜の廊下を歩いていると、不思議とさっきまでの悩みや考え事が、すうっと消えていくような気がして、心が落ち着いてくる。


(まあ、なんだ。悩んでも解決しねぇことは、世の中にはたくさんある。なるようにしか、ならねぇんだろうさ。今は、カイルの門出を祝ってやろうじゃねぇか)


 窓の外に目をやると、目に染みるほど鮮やかな夕焼けが、空いっぱいに広がっていた。


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