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成長の兆し

【カイル15歳視点】


『リベルタス歴16年 7月9日』


「うひょ~、いいぞ~いいぞ~、カイルたん! 皇帝陛下の誕生を祝って、今宵はとことん飲もうではないか! おい、宰相どの! 軍務大臣どの! もっとだ、もっと酒と肴を持ってまいれ!」


 すっかり酔っ払ったエドワードおじいちゃんが、上機嫌で俺の頬に自分の顔をすりすりしてくる。うわっ、やめろって。


(うげぇ……酒くせぇぜ、おじいちゃん。一体どんだけ飲んでるんだよ! このままだと会議室で寝ちまいそうだ。いったんお開きにさせねぇと……)


「あ、ありがとう、おじいちゃん! わっ、分かった、分かったから! その、お祝いの続きはさ、『輝きのゴブリン亭』を貸し切りにして、そこで盛大に飲み直さないか? あそこのヤキトリとか、すっげぇ美味いんだぜ?」


 俺は、おじいちゃんの肩を叩きながら、なんとか提案してみた。


 すると、エドワードおじいちゃんは、突然「ぶわっ」と涙を流し始めた。ええっ!?


 そして今度は、さっきよりも強く、俺の体をがしっと抱きしめてきた。う、苦しい……


「おおお~、カイルきゅん! このおじいちゃんのために、わざわざ別席を設けてくれるというわけじゃな! なんという気が利く孫であろうか! これが、いわゆる庶民の言うところの『ハシゴ酒』というやつじゃな! うむ、よかろう……よかろうとも……ぐぅ……」


 あ~あ、おじいちゃん、俺に抱きついたまま、とうとう寝ちまったよ。


 でも、その寝顔は、なんだかすごく幸せそうな顔してやがるぜ!まあ、いっか。


「ヒューゴさん、わりぃけど、おじいちゃんを客間のベッドで寝かせてきてくれ」


「承知いたしましたぞい! カイル陛下!」


 相変わらずムキムキのヒューゴさんは、エドワードおじいちゃんをまるで赤ん坊みたいにヒョイッと軽々抱き上げると、恭しく一礼して部屋を出ていった。


 確か、俺がまだ赤ん坊の頃に、ヒューゴさんに与えたっていう俺の王の権能は、すごく単純明快なやつだった。


 その名も『剛力』。


 効果は、そのまんま、体がムキムキの筋肉質になる、というもの。おかげでヒューゴさんは、リベルタス最強の戦士の一人だ。


 ヒューゴさんは、この権能を持っているということで、領地はないけど名誉男爵の位を与えられている。


 俺は、残ったバートルさんに向き直った。


「バートルさん、悪いんだけど、今晩の『輝きのゴブリン亭』の予約をお願いできるかな? 人数が多いから、店ごと貸し切りで。それから、念のため、あそこのフルコースと、一番いい酒を多めに用意させておいて。あと、ヤキトリ用のいいニワトリも、急いで仕入れさせてくれ」


「はっ。我が皇帝陛下のご命令とあらば。直ちに手配いたします」


 うわっ! バートルさんまで、もう俺のこと『皇帝』って呼んだよ……


 なんかこう、背中がゾワゾワするっていうか、むず痒いっていうか、変な感じだぜ!


 バートルさんは、俺の言葉が終わるか終わらないかのうちに、『シュッ』と風を切るような音を残して、姿を消した。本当に早えぇ。


 バートルさんが宰相になった時に、彼にも貴族の権能を与えておいたんだ。


 だから、バートルさんもヒューゴさんと同じく、名誉男爵だ。


 彼に現れた権能は、『俊敏』。


 その名の通り、めちゃくちゃ動きが速くなる。それだけなんだけど……


 でも、この『それだけ』が、とんでもなく厄介なんだ。


 バートルさんが本気で動くと、剣の稽古でも、その剣筋がまったく見えないことがある。


 俺も、親父も、何度も模擬戦で打ちのめされて、それを骨身に染みて実感している。


 やっぱり、どんな権能でも、使い方と使うヤツ次第で、とんでもない強さになるもんなんだな。


(それにしても、リリーママに権能を仕掛けたヤツ……一体誰なんだろうな。絶対に許せねぇ。見つけ出して、ぶっ飛ばしてやる!)


 そういえば、思考に影響を与えるような権能は、親父(ゼファー)も、弟のレオンも持っている。


 使い方によっては、リリーママがやられたみたいに、人を洗脳したり、魅了したりすることもできるはずだ。


 だけど、親父やレオンが、そんな風に自分の権能を使ったなんて話は、一度も聞いたことがない。


 せいぜい、親父が酔っ払って騒いでる兵隊に「さっさと家に帰れ!」って命令して、無理やり家に帰らせた、なんていう笑い話を聞くくらいだ。


 俺は、一人残された会議室を後にして、自分の執務室へ向かった。


(そうか、俺は皇帝になるのか……。なんだか、まだ全然実感が湧かねぇけど……。親父は、なんて言うかな? 驚くかな? それとも、笑い飛ばすかな……?)


 自分の執務室へ戻ると、とりあえず山積みになっている書類仕事を片付けながら、夜の宴の時間になるのを待った。


 いつものように、宰相のバートルさんが傍らで俺の仕事ぶりを見張っていたけど、なんだかその雰囲気が、以前よりも少しだけ柔らかくなったような気がする。


 もちろん、仕事の内容に対しては、相変わらず厳しいダメ出しをされるんだけど、前みたいに烈火のごとく怒って、机を『バァン!』と叩くようなことはなくなった。


(これも、俺がちょっとは成長しているってことなのかな? だとしたら、ちょっと嬉しいかもな)


 やがて、机の上の書類の山も少しずつ低くなり、窓から差し込む光の色が、オレンジ色に変わってきた。もう夕刻だ。


 いつの間にか戻っていたバートルさんが、声をかけてきた。


「カイル陛下。そろそろお時間です。『輝きのゴブリン亭』へ参りましょう。先ほど、ゼファー様とレオン様もお目覚めになったそうです。今宵の宴には、オーロラハイドに滞在中の各種族の王たちも、お祝いに駆けつけてくださるとのことですぞ」


「そうか、分かった。……なあ、バートルさん。エドワードおじいちゃんも、もう起きたかな?」


「はい。先ほど侍女が様子を窺ったところ、スッキリとしたお顔で、冷たいお水を所望されていたとのこと。今頃は、湯浴みでもされている頃かと存じますよ」


 俺とバートルさんは、まず親父とレオン、それから妹のエリュア、シルクママ、そしてすっかり元気になったリリーママ、エルミーラママと合流した。その後、エドワードおじいちゃん、軍務大臣のヒューゴさん、そしていつの間にか戻ってきていた商人のシド先生たちとも合流して、皆で『輝きのゴブリン亭』へと向かった。


 俺が『皇帝』になった話は、さすがにまだ内密だけど、この宴に参加する親しい人たちには、バートルさんが伝えてくれていたらしい。


 気のせいかもしれないけど、皆が俺を見る目が、なんとなく昨日までとは変わったような気がした。なんだか、すごく期待されているような、それでいて、ちょっと心配されているような……。


 やっぱり、背中がむず痒いぜ。


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