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交易路の守護者!~理想の国づくりと貿易で無双したいと思います~  作者: 塩野さち
第二章 交易路の守護者

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愛の形

【リリー・リベルタス視点】


 ふわふわと、あたたかい綿に包まれているみたい……

 あたし、いま、とても幸せ……


 これは、夢。きっと、夢の中。


 だって、こんなにも心地いいんだもの。自分でも、これは夢なんだって、どこかで分かっているの。


 でも、それでもいいの。このままずっと、幸せな夢を見ていたい……


 まぶたの裏に浮かぶのは……そう、ゼファーとの、あの日のこと。私たちの、少し変わった結婚式。


 あたしと、優しくてお淑やかなシルクさんと、綺麗でちょっと気の強いエルミーラさんの三人。みんなで一緒に、ゼファーのお嫁さんになったんだっけ。


 ゼファーったら、あの頃は本当に忙しそうだった。戦が終わったと思ったら、今度は子供たちが生まれて、お城の工事も始まって……毎日、目が回るようだったわ。


 だから、やっと結婚式を挙げられたのは、カイルも、レオンも、エリュアも、みんな生まれて、少し大きくなってからだったかしら……順番なんて、どうでもよかったけど。


 みんなで純白のウェディングドレスに身を包んで……うふふ、シルクさんもエルミーラさんも、本当に綺麗だったわ。もちろん、あたしもね? そして、黒のタキシードでビシッと決めたゼファー。ちょっと照れくさそうにしてたっけ。


 そのときの聖職者様が、あのアウローラさんだったのよね。


 ふふっ……今だから言えるけど、ちょっと笑っちゃいけないのが、肝心のアウローラさんが、その頃ちょうどお付き合いしてた男の人に逃げられて、ちょっぴり傷心気味の……バツイチ、だったってことかしら。


 ゼファーったら、からかって「バツローラ」なんて失礼なこと言ってたわよね。ひどいわ。


 だから、みんな、あの時からアウローラさんの前では、その男の人の話は禁句になったの。


 ああ……誓いの口づけ。ゼファーの唇が、そっと触れて……


 あの感触、とても甘くて……


 体がとろけてしまいそうだったわ……


 そうしたらね、不思議なことに、夜空いっぱいに、虹色のオーロラが現れたの。


 まるで、空の女神様が私たちを祝福してくれているみたいだった。とても、とても綺麗で……


 あの光景は、今でも……ずっと、忘れられないわ……


(ゼファー愛してる……)


 ……レオン……そう、あたしの大事な息子、レオン……


 いつの間に、あんなに大きくなったのかしら……?


 ついこの間まで、あたしの腕の中で眠っていたような気がするのに。


 あたしに似て、綺麗な赤毛をしていて……


 でも、あたしにもゼファーにも似なくて、すごく頭がいい子。難しい本ばっかり読んでるの。


 ただ、ちょっと線が細くて、あんまり筋肉もつかないみたい。カイルみたいには、なれないかもしれないわね。


 剣の稽古も、見てるけど、どうもセンスがないみたいで……


 ううん、でも、それでいいの。


 あの子は、あの子の良さがある。頭がいいんだもの。


 あたしの、自慢の息子よ……


 ……あれ……? 誰かの声が聞こえる……レオン……?


「お母さん……この密書を書いたの……リリーお母さんなんでしょ!」


 レオンが、何か必死に叫んでいるみたい……密書って、なあに……?


 どうして……なぜか、レオンは泣いているように見えるの……


 レオン、どうして泣いているの……? あたし、何か悪いことしちゃった……?


 また別の声……これは、シドの声……?


「……おい、ゼファー! リリーの目がおかしい! 焦点が合っていないし、瞳に光もないぞ! これは……まずい……!」


 あら、シドじゃないの。


 なんだか、顔が少し腫れているみたいよ。


 どうしたのかしら、誰かに殴られたの……? 可哀想に……


 ……今度は、ゼファーの声……? すごく、焦っていて……怒っているような……


「くそっ! これは明らかに何かの呪いか、洗脳だ! 権能を使うぞ! リリーを元に戻す! レオン、お前もだ! ブッ倒れても構わん、フルパワーでいくぞ!」


「うん! 分かってるよ、お父さん!」


 ゼファーの、こんなに張り詰めた声、久しぶりに聞いたわ……まるで、戦場みたい……


 レオンも、どうしたっていうの……?


 あなた、まだ戦に出るような歳じゃないでしょうに……


「「貴族神授領域ロード・ミスティック・フィールドッ!」」


 レオンとゼファーの声が、重なって聞こえた。


 目の前が、急に青白い光でいっぱいになる……二人の体から、光が溢れているみたい……


 その眩しい光が、あたしに向かって、まっすぐに……


 ……あ……思い出した……


 そうよ、あの時、グラナリアの魔女伯様が、こっそり教えてくれたの……


 もし、万が一、自分が自分でなくなってしまったら……こういう時は、こうしなさいって……


 霞む意識の中で、あたしは、いつか忍ばせておいた枕の下のそれを手探りで見つけ出す。冷たい、金属の感触……短剣。


 そして、迷わずに……それを、自分の白い喉元へ……


「やめろーっ! リリー! おい、レオン! お前も男なら、ここで根性見せろやぁ!」


 ゼファーの、悲痛な叫び声が聞こえる……


「お父さん! 分かってるよ!」


 レオンの、泣きそうな声も……


 二人の体から放たれる光が、さらに強く、強くなっていく……


 その眩しさに、ほんの一瞬だけ……ほんの僅かな間だけ、霧が晴れるように、あたしの意識がはっきりとしたの。


(あ……い、言わなくちゃ……何か、すごく、すごく大切なことを、伝えなくちゃいけないんだわ……!)


 もつれる舌で、力の入らない唇で、それでも、やっと絞り出せた言葉が、これだった。


「ゼファー……レオン……愛してる……」


 その言葉を紡いだ瞬間、不思議と、喉元へ向かっていたあたしの手の動きが、ほんの僅かに、止まったの。


 その、ほんの一瞬の隙を、シドは見逃さなかった。


「……フンッ!」


 音もなく忍び寄っていたシドの鋭い手刀が、あたしの手から短剣を弾き飛ばした。カラン、と冷たい音が遠くに聞こえたような気がする……


「あ……ああ……」


 小さくうめき声をあげて……あたしの意識は、また深い、深い霧の中へと沈んでいった……


 ふわふわと、どこまでも……


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