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交易路の守護者!~理想の国づくりと貿易で無双したいと思います~  作者: 塩野さち
第二章 交易路の守護者

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陰謀のグラナリア

【赤熊のヴィレム・ディ・スピーガ・グラナリア公王視点】


 我、ヴィレム・ディ・スピーガ・グラナリアは、重厚な執務室の椅子に深く腰かけると、『ふうっ』と重いため息を一つ漏らした。


 この執務室は、グラナリア城の中でも特に堅牢な厚い石造りで、外の喧騒はほとんど聞こえてこない。


 だが、狭い窓から眼下に目をやれば、黄金色に輝く広大な麦畑が地平線まで広がっているのが見える。我がグラナリアの力の源泉だ。


 ……まずは、ここまでの忌々しい経緯を、改めて整理せねばなるまい。


 我は、机の引き出しから分厚い革表紙の日記帳を取り出すと、重々しくそのページを開き、自らの筆跡を追い始めた。


 まず、忘れてはならぬのは、南に位置するフェリカ王国が、長きにわたり我らにとって強大な壁であったという事実だ。


 我らがグラナリア公国の北方と東方は、荒れ狂う『北の海』と『東の海』に面している。


 そして、陸続きの南方と西方は、その全てをフェリカ王国に完全に包囲されていたのだ。


 我がグラナリアが、どれほど豊かな穀倉地帯を抱えていようとも、これでは周囲に進出できる余地は皆無。


 軍事力においても、国力においても、フェリカ王国に完全に押さえ込まれていたと言ってよい。


 このままでは、我がグラナリアに将来性などありはしない!


 そんな閉塞した状況の中に、ある日、一条の光とも言える朗報が舞い込んできた。


 フェリカの北方の辺境地、オーロラハイドが独立するというのだ!


 それは、長年フェリカ王宮に忍ばせておいた我が間諜からの、確度の高い報告であった。


 間違いあるまい。


 我は、その報せに狂喜した。


 我らを抑圧する巨大な敵国が、勝手に内側から分裂するというのだからな!


 しかし、その喜びも束の間であった……。


 オーロラハイドは、ゼファーとかいう男を指導者としてリベルタス公国を名乗り、あろうことか、独立したはずのフェリカ王国と、早々に軍事同盟を結んでしまったのだ!


「……これでは、まるで茶番ではないか。最初から仕組まれた出来レースのようだ……」


 我は、日記のその箇所を読みながら、再び苦々しく呟いた。


 それ以前に仕掛けた、フェリカ国内のルシエント伯爵を煽っての反乱は、実にうまくいった。


 はずだったのだ……あの時までは。


 しかし、かのルシエント伯が、我らの予想を遥かに超える無能であったため、フェリカ王国にはほとんど打撃を与えることができなかった。


 それどころか、反乱鎮圧後はルシエント領がフェリカ王家の直轄地となり、かえって彼らの結束を強める結果となってしまった。


 我らの描いた筋書きでは、混乱したルシエント領へ軍事介入し、漁夫の利を得るはずであったというのに……。


 だが、どれほどの強国とて、完璧ということはあり得ない。


 必ずや、突くべき弱点があるはずなのだ。


 そう、常に弱点を探し、好機を待つ……それこそが、グラナリアの生きる道。


 フェリカ国王エドワードは、老齢。そして、その後継者である息子のヘンリー王子は、救いようのない放蕩者だと聞く。国政にも、民のことにもまるで興味を示さず、日々女と酒に溺れていると。これぞ、付け入る隙だ。


 一方、リベルタス公王ゼファー。奴自身は、戦以外はからっきしの無能者だという評判だが、その息子カイルは、父とは似ても似つかぬ才器であるらしい。勉学も武術も、既に人並み以上のものを持っているとか。


 オーロラハイド独立から、早や十年近くが経つか。あの時の赤子が、カイルも今年で十五歳になったという。時が経つのは早いものだ。


「……カイル、か。これは将来、間違いなくグラナリアの脅威となるな……。我の代で、この閉塞した状況を打破し、アーサーのためにも盤石な礎を築かねばならぬ……!」


 我は、日記から顔を上げた。


 さらに忌々しいことに、リベルタスは、製塩法を改良し、質の良い塩を安価に大量生産しているという。


 我がグラナリアも海に面し、古くから製塩を行ってきた。


 だが、奴らのせいで塩の価格が暴落し、我が国の製塩業は大打撃を被っているのだ!


『ドンッ』


 こみ上げる怒りに任せ、我は思わず樫の机を力任せに叩きつけた。


 ならばと、今度は西方の交易都市メルヴに調略を仕掛けてみた。


 メルヴ周辺の遊牧騎馬民族に多額の金品を贈り、そそのかしてメルヴを襲撃させ、弱体化を試みたのだ。


 ここでも、我の策はうまく運ぶはずであった。


 手筈通り、騎馬民族はメルヴに大規模な攻撃を仕掛けた。


 しかし、かのメルヴには、『狐』の異名を持つ総督ハッサンと、『銀の』ロスタームという、恐ろしく有能な者たちがおり、寡兵ながらも巧みな戦術でメルヴの城壁を守り切ったのだ。


 そればかりか、救援に駆け付けたリベルタスのゼファーと、まだ若いカイル親子によって、騎馬民族の主力はあっけなく蹴散らされ、壊滅した。


 そして、機を逃さずメルヴ城内から守備兵が出撃し、退路を断たれた騎馬民族を挟撃したというではないか。見事な連携よ。


「むう……リベルタスめ、ことごとく我が策を邪魔しおって……」


 我は唸るしかなかった。


『コンコンコンッ』


 その時、執務室の扉を叩く音がした。


「陛下、ルーロフにございます」


「うむ、入れ」


 我ながら、重苦しく、そして憂鬱な声が出たものだと自覚した。


 扉が開き、我が腹心、『北海の狼』ルーロフ将軍が静かに入室してきた。


 ルーロフは、その小柄な体格に似合わず、まさに狼のごとく獰猛で勇敢な男だ。


 長年、フェリカ王国との国境で起こる数々の小競り合いを、ことごとく退けてきた、我がグラナリアきっての猛者である。


「陛下、ご報告申し上げます。またしても、フェリカ国王エドワードの輩が、リベルタスへ向かったとの報せにございます」


「ふん、またか。名目は何だ?」


「はっ。表向きは、孫であるカイル王子の誕生日祝い、とのことですが……」


 そういえば、カイルが生まれた頃、エドワードがその誕生祝いにかこつけて、我がグラナリア公国へ攻め込もうと画策していたという、忌々しい話も我が耳に入っていた。


 あれは、もう十四、五年前のことであったか。


 あの時から、我の中で、フェリカは不倶戴天の敵となったのだ。


「ルーロフ……今回も、例の道化芝居であろうが、油断はならん。引き続き、奴らの動向の監視を続けてくれ」


「はっ、御意に」


 ルーロフは、深く一礼すると音もなく退出していった。


 必ずどこかに隙はあるはずだ……必ず……。我はその時を待つ。


「そして、その時が来れば……我が『投槍』を食らわせてやるぞ……!」


 我は、固く拳を握り締めると、日記帳を音を立てて閉じた。


 だが、胸の奥に燻るこのもやもやとした感情は、どうにも晴れることなく、憂鬱な日々が続いたのであった。


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