表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
55/145

メルヴの暴君

第55話 メルヴの暴君


【ゼファー視点】


『リベルタス公国歴元年 10月22日 昼』


 俺たちリベルタス公国軍が、交易都市メルヴの東門に姿を現した。


 リベルタスの軍旗は、四本の剣を基調としたデザイン。人間、エルフ、ドワーフ、ゴブリンの団結の証だ。


 旅の商人たちは急いで門の中に逃げ込む。やがて、重い音とともに城門が閉じられた。


 まず俺たちは行軍の疲れを癒すことにした。


「敵の出陣に備えてゴブリン隊は警戒を続けてくれ。交代で見張りだ。残りは休憩」


 もちろん、警戒は怠らなかった。



『リベルタス公国歴元年 10月23日 朝』


 一日が経過し、兵たちは体力を回復していた。警戒していた夜襲も奇襲もない。


「私が敵の司令官なら、到着直後の疲れている所で一戦しかけたでしょうな」


 副将のヒューゴが私見を述べる。


「うん、そうだねヒューゴ。俺もそう思うよ」


 だが、敵は亀のようにメルヴに籠もったままだ。


「全軍、東門を中心に半包囲だ。ドワーフ工兵は急いで投石器(カタパルト)の準備と、何カ所か穴掘りも頼む。まともに攻めると味方の損害が出すぎる」


 ドワーフたちは荷物からカタパルトを組み立て、同時に工兵たちが城壁の足元に集まり、土の下へと潜っていく。


 地中で支柱を抜いて城壁を崩す“モグラ作戦”だ。トーリン王がその先頭に立つ。


「モグラ作戦開始だ。慎重に、静かに進め!」


 屈強なドワーフ工兵たちが、手際よく土を掘り、太い丸太で支柱を組む。



「エルフ弓兵はカタパルトの準備ができるまで城壁の敵を牽制! 人間の歩兵は盾でエルフたちを守れ」


 俺の指示で、エルミーラ女王が前に出た。銀髪を風になびかせる女王は、長弓を高々と掲げる。


「見ていなさい。これがエルフの矢よ」


 エルミーラが軽やかに弓を引く。その指先に魔力が宿る。ひゅっと空気を切る音とともに、矢が城壁上の敵将校の喉元を正確に貫く。


「さすがエルミーラ女王!」


 味方からどよめきが起こる。


 人間の歩兵が盾で弓兵を守り、矢の雨が敵の頭上をたたく。



「グリーングラス王、頼むぞ!」


 俺が声をかけると、グリーングラス王がニヤリと笑う。


「応ッ、任された!」


 ゴブリン王は、小ぶりな投げナイフを数本抜き、見張り台にいる敵兵の胸元へ、次々と投げ込む。敵兵が叫び声を上げて崩れ落ちる。


「この程度造作もないですな!」



「ゴブリン隊と騎兵は予備戦力として待機。昨晩はご苦労だった。バートルは本陣に柵を作り防御を固めろ」


 バートルと歩兵たちが、慌ただしく作業を始める。


「シドは長期戦に備えて追加の補給物資を手配しろ」


「……任せろ。そのあたりは抜かりない」



(各種族の頑張りに期待したい)


「ハッサン! メルヴの住民や兵士に降伏勧告を頼む。俺たちの正義と、メルヴの暴君の非道を説いてくれ」


「わかりましたわい!」



『リベルタス公国歴元年 10月26日 昼』


 ドワーフ工兵がカタパルトを組み終え、投石器が三基並ぶ。木と縄で作られたそれらが次々と石弾を放ち、土壁や門をたたく。


 地面では、トーリン王が掘り抜いた地下道で支柱を最後に一本だけ残していた。


「支柱抜きの準備! 今だ、引け!」


 ドワーフたちが一斉に支柱を引き抜く。


 ゴゴゴゴッ……!


 城壁の一角が内側から大きく傾き、やがてドサアアアッ! と音を立てて崩れ落ちた。


 土煙が舞い、敵兵が悲鳴を上げて逃げ惑う。


「穴が開いたぞ! 突撃用意!」


 俺は叫び、ヒューゴが軍勢に号令を飛ばす。


「歩兵隊、突撃! エルフ隊、援護射撃!」



 敵も負けじと弓で応戦する。エルフ弓兵がすかさず応射し、味方の損害は最小限に抑えられていく。


 その日は一進一退の膠着状態のまま、夜を迎えた。



『リベルタス公国歴元年 10月27日 朝』


 この日は、朝からハッサンが城壁前で演説していた。


「メルヴの民衆よ! このまま暴君、欲のジャムルードの支配を許していいのか? ワシは塩を没収され、メルヴを追放された! 民衆よ、門を開けて降伏するのだ!」


 彼の周囲をエルフ弓兵と人間の盾持ちが固めている。


 城壁上の敵兵たちは、黙ってその声を聞いているだけだ。


「リベルタス公王は、メルヴの民を案じている。公王がメルヴを統治したら、税を下げる事を約束しよう!」


 ハッサンの説得は続く。



 その時、城壁上に、縄で縛られた一人の女性と、強く腕をねじられた初老の男が連れて来られた。横には、豪華な皮のコートに黒いマント姿の男、(よく)のジャムルード王。


「あっ、あれは! アルマさん! もう一人はバートルのオヤジさんか?」


 俺は叫ぶ。バートルの両親だ。


「おふくろっ、親父ーっ! 俺のおふくろと親父に何をするつもりだ!」


 バートルも絶叫する。


「バートル! アタシのことはどうでもいい! このクソ王を倒しちまいな!」


 アルマさんが叫ぶ。


「息子よ、心配するな。お前のやりたいようにしろ!」


 親父さんも、ふらつきながら声を上げる。


「わが名はジャムルード。このヨルグとかいう男、まだ逆らうか! 逆らうやつはこうしてくれるわ!」


 ジャムルードが剣を抜き、アルマの首筋に刃を当てる。


「やめろ! やめてくれ!」


 バートルが絶叫する。


「バートル、見ていておくれ。母ちゃんも、父ちゃんも、お前を誇りに思ってるよ!」


 アルマさんが涙をこらえて息子を見つめる。


「悪いが、見せしめだ!」


 ジャムルードの剣が振り下ろされ、アルマの首が落ちる。


「ああああああああっ! おふくろーーーっ!」


 バートルは泣き叫ぶ。


「この卑怯者め! 必ず報いを受けるぞ!」


 ヨルグが叫ぶ。


「望みどおりにしてやる!」


 ジャムルードはヨルグの胸を無造作に刺し貫いた。


「父さん!」


 バートルが膝から崩れ落ちる。



「民に手をかけるようでは、終わりだな」


 秋風の中、ジャムルードの背後に銀色の鎧を着た長身の男……ロスターム将軍が現れる。


「おお、銀のロスターム将軍! 防衛ご苦労である、たった今、ゴミを……」


 ロスタームはゆっくりと長剣を抜き、主君に向き直る。


「長い事お仕えしましたが、ここまでです。御免ッ!」


「ロスターム……お前まさか!? やめっ、やめろー!」


 ロスターム将軍の剣が振り下ろされ、ジャムルードの首が城壁に転がった。



「降伏する……リベルタス公国のみなさん、剣をおさめてください……」


 ヒューゴの合図で味方の突撃も止まる。



 こうして、貿易都市メルヴは陥落する。


 草原地帯にしては珍しく、秋雨がポツリポツリと降っていた。


「とても面白い」★五つか四つを押してね!

「普通かなぁ?」★三つを押してね!

「あまりかな?」★二つか一つを押してね!

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ