表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
53/171

狐のハッサンの受難

【狐のハッサン視点】


『時は少し遡る』


 ワシは狐のハッサン、メルヴの商人だ。


 いま、リベルタス公国の首都オーロラハイドから、草原の交易都市メルヴへと帰る途中だった。


 ワシの心は、幸せで満たされていた。

 キャラバンのラクダの背に積んだ海塩を見るたび、うれしさがこみ上げてくる。


(これでワシがメルヴ一の商人になれる!)


 その思いがあったから、二十五日間の旅も全く苦ではなかった。

 荷物を見れば、どんな疲れも吹き飛ぶ。

 家族や部下の商人たちも同じ気持ちらしく、みな笑顔であふれていた。


「ハッサン様、メルヴが見えてきました!」


 部下の一人が声を上げた。

 キャラバンの仲間たちからも歓声が上がる。


「これからは、この道を行き来するだけで大きな利益が出るぞ!」


 ワシはその言葉を皆に伝え、商人としての勝利をかみしめる。

 まさに必勝の道だ。


 やがて、メルヴの東門が見えてきた。

 ここで税金を納めねばならないのは、いつも気が重い。


「むう……ゼファー王が本気を出してくれたらいいのだが」


 ワシが見たところ、ゼファー王は家族思いで、とても優しい『良い人』だ。

 強さも感じたが、根は正直者で、まっすぐな男に見えた。

 あの王に、覇道を進めとはワシには言えない。


 逆に、そんなことを言ったら反感を買ってしまうだろう。

 それでも自分の国のために軍馬を欲しがるあたり、為政者としては及第点だと思う。


 オーロラハイドの城壁も見事だった。

 まだ工事中と言っていたが、立派な石垣だ。


 ヤキトリも食べてみたが、どれも格別の味だった。


 正直、ニワトリの内臓や皮なんて食べ物じゃないと思っていたが、黄金のゴブリン亭で食べたヤキトリは絶品だった。


 きっと、絶妙な焼き加減と塩が決め手なのだろう。


(いかんいかん、思い出しただけでヨダレが出るわい)


 思わずチーズをかじって空腹をまぎらわす。


 そうしているうちに、ついにメルヴの東門に到着した。

 街に入るための列に並び、何とか日が暮れる前に順番が回ってきた。


「おい、お前は狐のハッサンだな。この荷物は何だ?」


 皮の鎧を着て槍を持った役人が、偉そうに詰め寄ってくる。


「ヘイ、これはリベルタス公国はオーロラハイドの都で仕入れた海塩でございます」

「海塩だと? おい、誰か、ジャムルード王に知らせろ!」


(ジャムルード王だと……? あのメルヴの暴君、欲のジャムルードか!?)


 幸いワシの心の声は誰にも聞こえないが、あやうく口に出しそうになる。

 兵士が城の中へ走っていくと、銀色の鎧を着た背の高い武人が現れた。


(げっ、ジャムルード王の懐刀、銀のロスターム将軍ではないか……!)


 ロスターム将軍はゆっくりと重々しい口調で言う。


「海塩はすべて没収する。狐のハッサン、お前はメルヴから追放だ」

「な、な、何と……あんまりだ! ロスターム将軍、どうかお慈悲を!」


(冗談じゃない。こんなところで終われるものか!)


 ロスターム将軍は苦しそうな顔でつぶやいた。


「すまぬ、これも王の命令ゆえ……早く行け、王の気が変わらぬうちに」


 将軍は長剣を抜く。その目には、どこか悲しみが浮かんでいた。


「……くっ、分かった。だが覚えておけ。このままでは済まさんぞ!」


 ワシと部下たちは、馬とラクダを駆って草原へと戻る。


「このままでは終わらん……ゼファー王に、ゼファー王に伝えねば……」


 ワシは皆を急がせると、わずかな休憩を取りながら、オーロラハイドへ向かった。


 遠ざかるメルヴの街が、はかなげに見えた。


「とても面白い」★五つか四つを押してね!

「普通かなぁ?」★三つを押してね!

「あまりかな?」★二つか一つを押してね!

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ