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ベルーナ

【ゼファー視点】


 オーロラハイドの西門前。冬空の下、見渡す限りのドワーフたち。その中でも、今回は女性が主役だった。


 ずらりと並んだ彼女たちの数は百や二百ではきかない。ざっと見積もって千人はいる。彼女たちの背には大きな荷物、腕には鮮やかなスカーフや宝石、腰には誇らしげな道具袋。どの顔にも山で鍛えられた自信と誇りが刻まれている。


 隣でトーリン王が深く息をつく。


(これがドワーフの女たちか……キレイなお姉さんが多いな)


「俺はリベルタス公国の王、ゼファーだ。ようこそオーロラハイドへ!」


 一言、声を張って歓迎すると、女たちの間から「お世話になります」「ありがとうございます」といった礼儀正しい声が次々と返ってくる。その雰囲気は硬派でありながら、どこか温かい。


 と、その群れを割って一人の美女が駆け寄ってきた。

 豪快にトーリン王へ飛びつく。


「アンタ、会いたかったよ!」


「ああ、ベルーナ。すまんな、ずいぶん待たせた」


 彼女(ベルーナ)はトーリンの妻にして、女たちのリーダー格だ。

 その再会を皮切りに、周囲では次々とドワーフの男女が固く抱き合う姿があちこちで見られる。

 誇り高い山の民も、再会の時は感情を隠さない。


 ドワーフの女たちは皆、凛とした大人の美しさを持つ。

 エルフの少女的な美しさとは違い、芯の強い逞しさと気品をあわせ持つ“姉御”といった風情だ。


(邪魔するのも野暮だな。トーリンにあとは任せるか。街の人口も大幅に増えるな、これは)


「トーリン王、あとは任せた。俺はひとまず執務に戻るよ」


 そう言って背を向けかけた瞬間、ベルーナが俺の前にすっと出てきた。

 落ち着いた口調で、深く一礼する。


「ベルーナと申します。いつも主人がお世話になっています。今後ともよろしくお願いいたします」


「あっ、こちらこそトーリン王のおかげで街の建設が順調です。本当に助かっています」


 思わず姿勢を正し、同じく頭を下げる。


「実は、お願いがありまして。街で食料と交換してもらいたいものがあるんです」


 そう告げると、背後でドワーフ男女が大きな木箱をずるずると運んでくる。かなりの量だ。


(これは……中身はなんだろう? それにしても多いな! こっちの倉庫がパンクしそうだ)


「わ、わかりました! 街の商人・シドの倉庫へ運びましょう」


 てきぱきと誘導すると、ベルーナの号令で女たちが一糸乱れず荷物を搬入していく。

 夫婦や恋人同士で手をつないで戻っていく姿が微笑ましい。


 やがて倉庫前には俺、トーリン王、ベルーナ、そして商人シドが顔を揃えた。


「……大口の取引があると聞いてきた。品物は?」


「もう全部倉庫に入ってるよ」


「……ふむ。手間が省けて助かる」


 シドは無表情のまま、品目リストをひとつひとつ確認していく。


・金:貨幣鋳造にも使えるインゴット、細工用の金糸や金箔も。

・銀:食器や装飾品、銀貨鋳造用。

・その他:銅、鉄、宝石類、水晶、アメジスト、ガーネット、石炭、耐火煉瓦、ストーブ一式……


 どれもドワーフたちの誇る技術と努力の結晶だ。


「……戦略物資も含まれている。王としてサインが必要だ」


 シドがリストを差し出すので、俺は覚悟を決めてペンを走らせる。

 正直、自分の領主としての責任がずしりと重くなる瞬間だ。


「これが全部ドワーフの国じゃありふれたものなんだ。だからさっさと食べ物をくれ!」


 ベルーナが遠慮なく言い切る。

 その率直さに、俺もつい苦笑いを浮かべる。


「了解! じゃあ、輝きのゴブリン亭で一緒にメシでも食いながら相談しよう」


 交渉の末、金属類・宝石・燃料と引き換えに、街で増産中のライ麦と各種食料品をまとめて引き渡すことで合意。


 ベルーナは最後までニワトリと交換するか迷っていたが、「また次の機会に」と笑っていた。


 その晩は、トーリン&ベルーナ夫妻と遅くまで宴となり……

 気がつけば、俺は屋敷のベッドで目覚めていた。


(うっ、頭が痛い……飲みすぎたな)


 まだ夜明け前の薄暗さの中、冷たい水をあおっていると、妻のシルクが慌ただしく駆け込んできた。


「大変よ、あなた!」


「すまん、ちょっと飲みすぎて……どうした?」


「商人のハッサンたちが、南門で倒れてるの! 急いで来て!」


 緊急事態の予感に、二日酔いも吹き飛ぶ。


 俺は服を着ると、急いで部屋を出た。


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