女たち
【ゼファー視点】
「今、オーロラハイドで一番売れてる物は何だと思う?」
(リリー、最近はよく怒ったり泣いたりしてたけど……今日はご機嫌だな)
リリーと二人きりで、彼女の部屋にいた。昼下がりの窓から差し込む光が、部屋の中をほんのり暖かくしている。テーブルの上には黄金色のチーズ。キャラバンが運んできた最高級品だ。女神官のアウローラから勧められて取り寄せたものだが、リリーに食べさせてみると途端に機嫌が良くなった。
そのチーズは宝石のように輝いて、香りも格別だった。俺もつい、一口食べてみる。
とろける舌ざわり、まろやかなミルクの風味。ほどよい塩気と濃厚なコク、口の中いっぱいに広がる旨味。どこかナッツのようなクセもあり、思わず笑みがこぼれた。
「もしかして、チーズが一番人気かな?」
「ぶっぶー、はずれ! 答えは炭と薪でした!」
リリーが無邪気に笑う。その横顔を見て、少しほっとする。
(たしかに、最近リリーはシルクやアウローラとよく話し込んでいたな。あの三人だと女子会ってやつになるのか)
「ああ、そうか。もう秋だからな。昼は過ごしやすくても、朝晩は冷え込む。暖房用の炭や薪が売れる時期か」
「うん。女の人たち、すごく気にしてたよ」
「そうか。じゃあ、そろそろ仕事に戻るよ」
「ええ、もう行っちゃうの?」
ついさっきまで笑っていたリリーが、急に寂しそうな顔になる。
(……女の子には女の子の悩みがあるんだよな。俺じゃ分からないことも多いけど、なるべく一緒にいてやりたい)
「分かった。仕事が片付いたら、また来る」
「約束だよ。ヤキトリも買ってきてね」
「ああ、約束する」
リリーの柔らかな髪にそっとキスをして、部屋を出る。
長い廊下を抜けて執務室へと向かった。最近はキャラバンから仕入れた絨毯が敷かれて、少しだけ居心地がよくなっている。
執務室に入ると、そこにはドワーフ王トーリンが椅子に腰掛けて待っていた。
トーリンは人間の男と同じくらいの背丈で、分厚い筋肉と豊かなヒゲが印象的だ。今日はいつもより丁寧に三つ編みにしてある。
「おう、トーリン。ヒゲの編み方、今日は気合が入ってるな?」
「まあな。山にいる女房から手紙が届いてな。ドワーフの女たちも、この街に移り住みたいと言い出したんだ」
(そういえば、まだドワーフの女性は見たことがないな)
「来るのは構わないが、家のほうは大丈夫か?」
「ああ。外側はもうほぼ完成だ。いま内装を急ピッチで仕上げている。住居が仕上がれば、作業員たちを城壁の建設に回す予定だ」
トーリンは自慢げにアゴヒゲを撫でる。
(さすがドワーフ、やることが早い)
「助かるよ。仕事の早いチームには、俺から酒をおごるって伝えてくれ」
「おお、それはありがたい。みんな人間の酒が好きだからな。だが、一週間ほど待ってくれ。女たちを迎えに行かなくちゃならん」
「分かった。でも、ドワーフの鉱山はどうする?」
「冬の間は閉山するしかない。寒さが厳しくなれば、鉱石は掘れん。春になったら、また鉱夫を送り込むつもりだ。これからは家族ごと、この街に住むことになる」
「そうか。こっちも助かる。ドワーフが増えれば、きっと街も活気づく」
話を終えて、俺とトーリンは並んで市場に向かう。目的はヤキトリ。もちろんリリー用の持ち帰りも忘れない。
香ばしい匂いが立ち込める屋台で、串焼きを何本も買い込んだ。トーリンは酒のつまみにと、特大サイズをいくつも平らげている。
「やっぱり人間の料理は面白いな。こういうのは山じゃ味わえない」
「この街はこれからもっと面白くなる。お前の女房や女たちも、すぐ馴染むさ」
トーリンが笑いながら頷いた。
それから一週間後、オーロラハイドの西門に、ドワーフの女性たちの姿が現れた。
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