落ちた琥珀
【ゼファー視点】
俺たちは、メルヴからオーロラハイドに帰還することにした。
本当は軍馬の調達もしたかったのだが、当然ながら軍馬は軍事物資である。
バザールで売っているような駄馬は買う気がしなかった。
お土産に、大きな宝石の原石を何個か買う。
(これをドワーフ王トーリンに加工してもらおう。それから、シルクとリリーとエルミーラと……ついでにアウローラさんの分も買っておこう)
宝石売りの商人によると、これは琥珀という宝石らしい。
オレンジアンバーというそうだ。
夕焼けのような、温かみのある色合いが特徴で、気に入った。
お代を払おうとすると、宝石売りの商人に声をかけられる。
「旦那、もしかして海塩というものをお持ちではないでしょうか」
俺は少し驚いた顔で答えた。
「へえ、噂が広まるのは早いもんだな。まだ少しならあるぞ」
「海塩と交換で、どうでしょう」
「うーん、帰りに舐める塩以外なら渡してもいいぞ」
俺が海塩の小袋を取り出す。
中身を見た宝石売りはニンマリと笑った。
「はい、お代はこいつで結構です。ありがとうございました」
お土産を買うと、狐のハッサンにも挨拶しようと思い、彼の店へ行く。
「やあ、狐のハッサンはいるかい」
俺もメルヴの言葉に大分慣れてきた。
「はい、こちらへどうぞ」
シドとバートルを伴って、客間へ行くとハッサンが来た。
「ハッサンさん。俺たちオーロラハイドへ帰ります。本当は軍馬が欲しかったけど手に入らなかったんで」
ハッサンは目見開く。
「えっ。もうお帰りになるので? それに軍馬が欲しいですと? 最初に言ってくだされ! おい! 番頭を呼べ! 軍馬を集めてオーロラハイドへ届けさせろ! あと、ワシの旅支度だ! 馬の常足で十五日と聞いたが、念のため三十日分の用意をしろ! 急げ! 他にも売れそうな若い家畜を集めろ」
ハッサンがバタバタと指示を飛ばし始めた。
彼の部下たちが忙しく走り回る音がする。
「……やはり、ついてくるのだな」
シドはこうなる事を予想していたらしい。
(まあ、同じ商人だから気持ちが分かるのかな)
「オーロラハイドは良い街だよ」
バートルが得意げにしている。
(バートルくん、君は最近来た子でしょうが)
俺たちは待っている間、またもザクロジュースをごちそうになる。
軍馬や家畜の代金は、オーロラハイドに着いてから渡すことになった。
メルヴの城門を出て、オーロラハイドへ向かう。
帰りは順調であった。
ハッサンがえらく興奮していたのが印象的だ。
なかなかタフなやつである。
この風の草原にも慣れてきた。
(要は草原を長期間移動するときの、食べ物と飲み物が大事ということだな)
ヨーグルトを飲んだり、果実やチーズを食べたりしながら移動する。
夏が終わりかけていたのか、途中から肌寒くなってきた。
(そろそろ秋か、カイルは元気かなぁ。いつかお父さんって呼んでほしいな。まだ喋れないかな? リリーのお腹は大きくなっただろうか? エルミーラは元気にしているかなぁ)
やたらと家族に会いたくなってきた。
野営の時に、シルク、リリー、エルミーラの夢を見た。
内容はよく覚えていない。
十五日後、我が家であるオーロラハイドに到着した。
南門の衛兵が顔パスで俺たちを通してくれる。
ハッサンは建築中の石の城壁に驚いているようだった。
俺やドワーフたちから見ると、まだまだ完成には遠い。
何年かかかるだろう。
今もドワーフたちがせっせと城壁を組み上げていた。
日々発展を続けるオーロラハイドの街を通る。
至る所で住宅や店舗が建築されていた。
そして、我が屋敷へついた。
敷地の入口で白い神官服のアウローラが出迎えてくれる。
「やぁ、アウローラ、お土産買ってきたぞ」
俺はのんきな声でアウローラに話しかけた。
「あっ、ゼファー様、大変です! カイル様が熱を出されました」
思わず持っていた、琥珀を落とす。
琥珀は、夕日を受けながら、静かに転がっていった。
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