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西方への興味

【シド視点】


 俺は商人のシド。

 

 最近は西方にあると言うバザールに興味がある。塩の取引で動きのあるエルフやドワーフよりも、むしろ牧草地に住んでいる遊牧民とその市場に目が向いていた。


 俺は長く語るのは好きではない。言葉を無駄に使うより、数字や事実を並べるほうが性に合っている。


 かいつまんで要点だけ話そう。


 ゼファー率いる騎兵隊が馬賊を撃退した数日後のことだ。


 そう、蒸し暑い夏の日。汗が背中を伝う暑さだった。


 よく覚えている。その日は朝から湿度が高く、街の空気はどんよりと重かった。夕立が来そうな、そんな天気だった。


 俺の店に何者かが大量の羊毛を持ち込んで来た。毛糸や織物の原料にする羊毛だ。


 買い取って欲しいと言う。予約無しであり、通常なら断るところだが、量が尋常ではなかった。


 最近の商売は部下に任せてあったが、大量というのが気になり、久しぶりに取引に出てみた。薄暗い倉庫に積まれた山のような羊毛袋を見て、商売人としての血が騒いだ。


 店の応接室へ行くと、浅黒い肌の青年、バートルがいた。彼は少し緊張した様子で、窓の外を眺めていた。


 こいつは良く知っている。今では名の知れた羊飼いだ。


 最近は毎朝、稽古にも来ていた。ゼファーと一緒(いっしょ)に汗を流す姿は、見ていて清々しい。


 羊飼いであることも知っている。草原からやって来たバートルは、言葉の壁を乗り越え、今ではすっかりリベルタスの住人として溶け込んでいた。


 だから単刀直入に聞いた。


「……オマエの羊の毛か?」


「そ、そうだ! 買い取ってほしい!」


 バートルの目は真剣だった。初めての大きな商談に、少し緊張しているようだ。


(……なかなか上質な羊毛だな。これは悪くない)


 指で羊毛の質感を確かめる。弾力があり、光沢もある。俺は適正価格を提示してやった。相場より少し高めだが、質を考えれば妥当な値段だ。


 バートルは嬉しそうに目を輝かせた。彼の表情が明るくなるのを見て、少しだけ満足感を覚える。


「ここでは、ちゃんとした値段で買い取ってくれる! メルヴのバザールの連中にも見習ってもらいたい!」


 バートルが思わず漏らした言葉に、俺の商人としての勘が反応した。未知の市場の匂いがしたのだ。


「……メルヴ? バザール? 何のことだ。酒でも飲みながら話そう」


 自分で言うのも何だが、話は得意ではない。むしろ嫌いなほうだ。


 だから、いつもこうする。人に話をさせる環境を作るのだ。


 俺がパチンと指を鳴らすと、店の奥から奇麗な女性が出てくる。黒い髪が腰まで伸び、歩く姿は優雅そのものだ。


 こいつはレイラ。俺の商売パートナーでもある。


 エキゾチックな緑の瞳をしている。エメラルドのように美しい色だ。


 最近はエルフが街に増えたので、話題にされなくなったが、人間でこの色は珍しい。彼女の存在そのものが商売の道具だった。


 俺とは違い、接待のプロだ。言葉を操るのが上手く、相手の心を開かせる術を知っている。


「レイラです。お客様、よろしくお願いします」


 レイラの声は蜜のように甘い。その声に引き寄せられるように、バートルの態度が変わった。


「よっ……よ、よ、よ、よろしくです!」


 バートルの反応は予想通りだ。彼の目がレイラの姿を追っている。


 レイラのスカートは短く、足首から膝にかけての曲線が美しい。口紅ががつややかに光り、その赤さが彼女の白い肌をより引き立てている。


「お隣、失礼します。ワイン、お注ぎしますね」


 レイラがバートルの隣に座り、ワインを注ぐ。彼女の香水の匂いが、応接室に広がる。


「はっ、はい!」


 レイラがジョッキにワインを注ぐ。動きの一つ一つが計算されていて、バートルの視線を釘付けにしていた。


 彼女は俺たちの話を店の裏で聞いていたはずだ。いつも通り、手際よくメルヴとバザールについて聞き出してくれた。


「メルヴのバザールってどんな所なの?」


「えっと、大きな市場だよ! 色んな商人が集まって……」


 バートルの言葉が弾み始めた。レイラの質問に答えるうちに、緊張も解け、西方の草原の都市について詳しく語るようになった。


 俺は話は好きでは無いが、情報は好きだ。それも正確で、数値化できる情報が良い。


 だからデータで示そう。レイラから聞き出した情報を、俺は頭の中で整理した。


・西方の草原の街:メルヴ。

 リベルタスからさらに西へ進んだ草原地帯の中心都市。

 周囲を草原に囲まれた交易の中心地。


・特徴:交易都市。

 定住民と遊牧民が混在する独特の文化。

 羊、ヤギ、馬などの家畜が豊富。


・バザール:いわゆる市場の大規模なもの。

 常時開催されている。

 周辺地域から様々な商人が集まる。


・入手可能な品目リスト:


 上質な羊毛から作られた、フェルト、織物、絨毯、衣類、帽子、靴下など。

 羊の毛は特に品質が高く、滑らかで弾力がある。


 羊、ヤギ、ラクダ、馬、狼、狐などの毛皮。敷物、防寒具、帽子、装飾品など。

 冬の寒さから身を守るための必需品。


 羊乳、ヤギ乳、馬乳などから作られた、チーズ、ヨーグルト、バター、乾燥乳、発酵乳(馬乳酒など)

 長期保存が可能な乳製品が多い。


 乾燥肉、燻製肉、ソーセージ、ジャーキーなど。

 遊牧民の知恵から生まれた保存食。


 羊、ヤギ、牛、ラクダなどの革から作られた、鞍、鐙、鞭、水筒、ブーツ、ベルト、バッグ、テントなど。

 草原の生活に欠かせない皮革製品。


 銀、銅、真鍮などを使った、装飾品、食器、馬具、武器など。

 遊牧民の間で富の象徴とされる金属製品。


 弓、矢筒、食器、楽器、家具、彫刻など。

 草原に生える丈夫な木を使った工芸品。


 平原や山岳地帯で採掘された、宝石や貴石の原石、及び加工品。

 遠方からの交易品として価値が高い。


 平原に自生する、薬草、香草、香辛料。乾燥させたもの、粉末状にしたもの、オイルなど。

 独特の香りと効能を持つ植物が多い。


 野生の蜂の巣から採取した、天然の蜂蜜。

 甘味料として重宝される。


 岩塩など、内陸部では貴重な塩。

 草原の民にとって、命を繋ぐ重要な調味料。


「……なるほど、塩が貴重品なのか」


 口に出して呟いた。塩はオーロラハイドの塩の村でいくらでも作れる。


(明らかなチャンスだ……)


 俺は珍しく気分が高揚するのを感じた。頭の中では既に、西方との交易ルートが描かれ始めていた。塩と羊毛の交換、さらにはその先にある未知の市場へ向けた布石。


 このバザールという場所を見てみたい。感覚ではなく、自分の目で確かめたい。


(西方交易か……面白そうだな)


 俺はワインを口に含むとゆっくり飲む。


 口元には笑みが浮かんでいた。


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「普通かなぁ?」★三つを押してね!

「あまりかな?」★二つか一つを押してね!

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