バートル
【ゼファー視点】
俺は朝食のあと、浅黒い肌の青年と執務室で会う事にした。
執務机の椅子に座って待つ。朝の静けさが執務室に満ちている。窓からは街の様子が分かり、早朝から働く住民たちの姿が見えた。
やがて部屋の扉がノックされ、浅黒い肌の青年がヒューゴに連れられて、部屋に入って来る。
青年は物珍しそうに周りをキョロキョロしていたが、俺の姿を見ると……
「こんにちは……」
青年がたどたどしく口を開いた。
「おお、言葉を覚えたのか! 久しぶりだな!」
俺は椅子から立ち上がり、青年の前に歩み寄ると握手を求めた。
文化が違うからだろうか?
青年は一瞬とまどっていたが、俺の手を握り返してきた。
「俺はゼファー、君の名前は?」
「バートル!」
おお、会話が成立しているぞ!
平原で身振り手振りでコミュニケーションを取ろうとしたっけ。
俺は昔を思い出して、ちょっと感動していた。
「バートルは、誰から言葉を教わっているんだ?」
「グリータ! ゴブリン、グリータ!」
輝きのゴブリン亭の看板娘じゃないか!
(あ~、あの娘、コミュニケーション能力高そうだもんな~)
バートルの表情が一変、険しいものになった。
「敵、来る! 羊、取られる! 助けて!」
「敵? どこから来るんだ? どんなやつだ?」
『ドンドンドンッ!』
部屋のドアが荒々しくノックされた。
「入れ!」
入って来た兵士は、息が荒かった。
「た、大変です! 南門が襲われています! 不審な騎馬隊が、羊を奪おうと……!」
「騎馬だと? 数はどれぐらいだ?」
ヒューゴが緊張した声を出す。
「騎馬の数、およそ二十騎!」
俺は少し冷静に考えてみた。
オーロラハイドには、作りかけの城壁がある。
城壁をいったん土で作り、固め、周囲に石垣を積んでいくと言う工法で作っている。
まだまだ基礎工事の段階だが、それでもしゃがむと兵を隠せるぐらいの高さはあった。
「おい、ヒューゴ、オーロラハイドの騎兵はどれぐらいになった?」
「はい、やっと二十騎になったばかりです。ただ、半数が新兵で、戦闘経験は全員がありません」
これは不利だろうな……
地形を利用するか……
「ヒューゴ、作りかけの城壁の陰にエルフの弓兵を隠しておけ! 指揮はお前が執れ!」
「閣下はどうなさるおつもりで?」
ヒューゴが心配そうな声を出す。
「打って出る。俺たちが逃げ出して、敵が追ってきたら、エルフの弓兵に仕留めさせろ!」
「はっ! 了解しました! お気をつけて!」
「バートル、お前は見学でもしてろ!」
「わ、分かった……」
俺たちは、羊を奪うやつらを撃退するため、行動を開始した。
南門の前には、既に十名ほどの騎兵が集結していた。若いロイドの姿も見える。彼は前回の西方遠征でお腹を壊した兵士だ。
「全軍、聞け! 今から敵を誘き出す! 彼らが追ってくるようにして、城壁の前まで連れてくるのだ! ヒューゴの合図で、全員が左右に分かれて逃げろ! そうすれば、エルフの弓兵が敵を射落とす!」
騎兵たちは緊張した面持ちで頷いた。俺は馬に飛び乗る。手綱を強く握る手に汗が滲んだ。
南門が開かれ、二十騎の騎兵隊が出撃した。俺は先頭に立ち、風の平原へと馬を駆けた。
俺はトーリン王に作ってもらった槍を高く掲げる。太陽の光を浴びて、槍身が白銀の輝きを放った。
「オーロラハイド騎兵隊、突撃……!」
俺の号令一下、騎兵隊は楔形の隊列を組み、一斉に襲撃者たちに向かって駆け出した。
乾いた大地を蹴り上げる馬蹄の音が轟き、風が頬を叩く。心臓の鼓動がさらに激しさを増す。
(準備はよし、勝算はある……)
これが俺たち若きリベルタス公国の初めての戦いになる。
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