表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
41/145

朝の目覚め

【ゼファー視点】


『チュン、チュン……』


 朝が来て、小鳥が鳴き始めた。薄いピンク色の朝日がカーテンを照らし、窓ガラスには朝露がついている。東の空は少しずつ明るくなり、金色に輝き始めていた。


『コケコッコー……』


 鶏が大きな声で鳴き、その声は鶏小屋から広がっていく。遠くからは牛車の音、薪を割る音、井戸から水をくむ音が聞こえてきた。これらの音が混ざり合って、オーロラハイドの朝を告げている。


(う、朝か……)


 庭からは雪解け水を吸った草の匂いがして、窓の隙間から入ってくる風は、昨夜食べたヤキトリの香りとも混じっていた。炭の焼ける甘い匂いと、庭で育てた香草の香りが、まだかすかに残っている。


(……ん? いい香り、それに柔らかい……? これは……女か?)


 何かいい香りがして、ぼんやりした頭のまま手を伸ばしてみた。触れたのは、冷たくて温かい肌。目を開けると、薄紫色の寝間着を着たエルフの女王エルミーラが、長い緑色の髪を枕に広げて寝ていた。


(キレイだな……)


 昨晩、みんなで決めた当番で、公王の寝室に誰かが付き添うことになっていた。シルクは息子カイルの夜泣きに備えて、リリーはお腹の子どものことを考えて断った。だから、最後に残ったのは気品のあるエルフの女王だった。


(使いを送ったら、顔を赤らめながらやってきたっけ)


 指で彼女の頬に触れると、まつげが震えて、青い瞳が朝の光を映した。


「……おはよう、ゼファー……って呼び捨てでもいいかしら?」


「おはよう、エル。もちろんいいよ。でも、初めての相手が俺で良かったの?」


 誇り高いエルフの女王は、純潔を守ってきたのだ。


「し、仕方ないでしょ! エルフの男は怠け者で昼間から酒を飲んでばかり。ヒモ……人間の言葉でそう言うのよね?」


 彼女は溜まっていた不満を一気に話し始めた。


「わたしたちエルフは女が多いの。だから男は大事にされすぎて、気がついたら『女が働いて男を養う』種族になっていたわ……」


 彼女はため息をついて、肩を落とし、尖った耳も少し下がった。


「その点、人間の男は良いわ。働き者で責任感がある。ああ……この街に来て本当に良かった」


「それは光栄だよ」


 優しく抱き合った後、朝の冷たさに背中を押されるように寝室を出た。


 城の南側にある訓練場では、朝日が赤い土や砂利を金色に照らし、兵士たちが歩くと埃が霧のように舞い上がっていた。遠くの山に反射した光が武器の刃を照らし、まぶしい光が飛び散る。


 訓練場の中央では、商人のシドと軍司令官のヒューゴが向かい合っていた。二人の足跡は地面に深く刻まれ、汗で槍の柄がぬれていた。


 シドは、計算に慣れた頭で相手を読んだ動きをしている。風を切る槍の軌道を見極め、ぎりぎりで避けていた。だが最後には、ヒューゴの強い槍がシドの手甲を弾き飛ばし、高い金属音が空に響いた。


「そこまで! ヒューゴ様の手甲あり!」


 見ていた兵士たちから拍手が湧き、俺も近づいていった。


「シド、すごいな。ヒューゴ相手によく頑張ったじゃないか」


「これは我が王、朝早くから視察とは恐れ入ります」


 ヒューゴが膝をついて頭を下げ、シドも同じようにした。


(固いなあ……肩書きは鎧より重いぜ)


「あ~いいよ、気楽にしてくれ。俺にとってお前たちは戦友だから」


「承知! では閣下とお呼びしましょう」


「……フッ、分かった。オマエのことは、これからもオマエと呼ぶ」


(うん、それがしっくり来る)


 ヒューゴの目が俺のお腹を上から下まで見た。


「閣下、筋肉が落ちていますな。王都で太りましたか?」


「ぐっ……その通りだ。稽古をつけてくれ」


 合図とともに激しい稽古が始まった。ヒューゴの槍は雷のように速く、俺の防御は柔らかい木の枝のようだった。同じ訓練用の槍でも、持ち主が違うと全く別物に感じる。地面に倒されるたび砂利が背中に刺さり、息をするのも苦しかった。


「はっはっは! 閣下、以前は互角でしたが、もう終わりですかな?」


「コノヤロウ! もう一本!」


 朝食の鐘が鳴るまで、俺たちは強がりの笑顔を交わしながら、槍で戦い続けた。


「伝令です! 南門からの報告です! ゼファー陛下にお会いしたいという方が到着しました!」


「どんな人だ?」


 兵士は息を整えて、胸を叩いた。


「浅黒い肌の若い羊飼いです。南門の外にテントを張り、百頭以上の羊を連れて待っています!」


「分かった。朝食を食べてから時間をとろう」


 浅黒い羊飼い……あの純粋な笑顔と、乾いた草原の風を思い出す。


(あの草原で会った不思議な青年だな……)


 雲一つない空には、もう陽の光が明るく輝き、城壁の向こうでは「メエェ」という羊の鳴き声が波のように重なっていた。


「とても面白い」★五つか四つを押してね!

「普通かなぁ?」★三つを押してね!

「あまりかな?」★二つか一つを押してね!

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ