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王の寝室にて

【ゼファー視点】


「そうか、オーロラハイドを国として認めるか、か……」


 王はポツリと呟く。


 エドワード王は俺と合わせていた目を、先に逸らした。


 王は視線を、エレオノール王妃の方に向ける。


「あなた、独立を認めてあげても良いのじゃないかしら? 将来カイルに言うのです。国をあげたのはおじいちゃんなんだよって……」


「だが、しかし……」


 王が渋るが、その声は若干弱い。


「俺も構わねぇと思うがな。先祖伝来の土地、例えば本国の一部を渡すってのなら話は別だが、あそこは元々ゴブリン族の森だろ?」


(よし! ガウェイン将軍も味方についてくれた……うーん、何か忘れているような……あ、これだ!)


 俺はドワーフ王トーリンが持たせてくれた土産を思い出した。


(この箱、やたら重いんだよな。中身はなんだろう?)


「父上、遅くなりましたがドワーフ王トーリンより土産がございます。こちらです」


 一同の目が、俺の横の箱に注がれた。


「おお、土産とな? 気が利くのう。なかなか見事な箱だ。ガウェイン、開けてみよ」


「あいよ」


 エドワード王に促され、ガウェイン将軍が横に長い箱を開ける。


「……こ、これは……」


 ガウェイン将軍が驚いている。


「どれ、ガウェイン、もったいぶらないで余にも見せよ」


 王はベッドから降りると、箱をのぞき込む。


「くっ……なるほど、そういう事か……」


 陛下も苦渋の表情を浮かべる。


「あらまあ、物騒ね……」


 後ろから覗き込んだ王妃も、両手を口に手を当てた。


 中には、見事な剣が三本入っていた。


(剣が入っていたから何だってんだよ? 立派な贈り物じゃないか! まあ物騒なのは認めるけどさ……)


「ねえ、立派な剣じゃない。あたしが欲しいくらいよ。何が問題なの?」


 リリーがのん気な声を出す。


(よし、ナイスだリリー! 俺にも分からん!)


「確かそなたは、ゼファーの側室だったな。女子では意味が分からないか」


「王様! もったいぶらないで教えてよ!」


 リリーが頬を膨らませて、ぷんすかする!


「良いぞ、彼女は知らないだけなのだ。ガウェイン、説明してやれ」


 ガウェイン将軍は、低い声を出し始めた。


「あのな、嬢ちゃん。最近だと滅多にやる事は無くなったが、軍隊同士の正式な決闘……平たく言うと戦争の前に、敵味方の司令官同士が、互いに剣を贈りあうと言う風習があったんだよ……」


 ガウェインが剣を見つめながら話す。


「意味はこうだ。この剣で立派に戦いましょうとな……古い慣わしだ……今回の場合だと一戦も辞さない覚悟があるぞ、と言うニュアンスだ……」


 陛下が、将軍の話を補完してくれた。


「えーっとね、アタシこの三本の持ち主分かるよ! この緑の宝石がはまっている太いのがゴブリン王の剣で、こっちの青の宝石がついてる細いのがエルフの女王の剣。赤い宝石がついているのがドワーフ王の剣だね!」


 事態を重く見てないのか、リリーが剣を指さしながら楽しそうに説明してくれる。


 話したあとドヤ顔までしていた。


(ひええええ、あいつら何て物騒なプレゼントを……)


 俺は一人であたふたし始めた。


「三部族連合か……ガウェイン! お前なら勝てるか?」


 エドワード王が率直に聞く。


 ガウェイン将軍はアゴに手を当てて考えているようだ。


「フェリカ全軍でいきゃあ、ま、勝てるぜ。ただ、その間に他の国が攻めてくるのは確実だな。空っぽになった王都にズドンと攻撃! 俺が他国の将軍ならそうするぜぇ?」


 将軍が意地悪そうに言うと、王が『ハァ~』とため息をつく。


「息子よ、お主にこの剣は返そう。三部族の王には、今度遊びに行くと伝えてくれ。この場合の意味は『戦う意思はない』だ! お主はオーロラハイドを良く統治しているようだな!」


「かしこまりました、父上」


 バタンとガウェイン将軍が箱を閉めた。


「あなた、意地悪しないで独立を認めてあげなさいな。孫に嫌われますよ!」


「うっ、そうだ! カイルに嫌われてはたまらん! 息子よ、独立を認めよう! ちゃんとカイルに家を継がせるのだぞ?」


「はっ! ありがたき幸せ! ところで父上とガウェイン将軍はどういったご関係で?」


 空気が重かったので、話題をそらしてみた。


「ああ~実はワシは一度だけ戦に負けたことがあってな、その時ワシを背負って逃げたのが……」


 陛下が将軍に目配せする。


「俺ってワケよ!」


 将軍が白い歯を見せてニカッと笑った。


 陛下と将軍がガハハハと笑いだす。


(ホント、豪胆な人たちだな~戦って勝てる気がしない……なんか俺の権能もはじき返されそう……)


 ドアがノックされ、王が入室を許可すると、メイドが入って来た。


「陛下、お食事の準備ができております。勝手ながらお客様の分も準備させて頂きました」


「おお、気が利くな! 食べていけ!」


 こうして王の部屋でのプライベートな食事が始まった。


「本日のメニューです。本日は良い牛が入りましたので、牛メインとなっております」


 メイドさんが説明してくれた。


・『雪解け』一口サイズの牛肉タルタル。

・『春の息吹』牛肉のカルパッチョ、春野菜添え。

・『大地の恵み』牛タンの赤ワイン煮込み、フォアグラ添え。

・『王の滋養』牛骨、牛肉、香味野菜などを、長時間煮込んで作る、濃厚なコンソメスープ。

・『川の幸』近くの川で取れた川マスの香草焼き。

・『王者の風格』ステーキ。トリュフとワインで作った、芳醇なソースをかける。

・『熟成の妙』フェリカ国産チーズの盛り合わせ。セミハードタイプ、白カビタイプ、青カビタイプ。

・『ドライフルーツ』ナッツが添えてある。

・『春の訪れ』サクサクのタルト生地に、カスタードクリームを敷き詰め、新鮮なイチゴをたっぷりと乗せてある。

・『食後の飲み物』ハーブティー。

・『水』ミネラルウォーター。


 王と王妃が、食材について色々と説明してくれる。


 その表情は自慢気だ。


 対抗心を燃やしたリリーがオーロラハイドの話を始めた。


「それでね~王妃様、オーロラハイドではヤキトリって言うのが流行ってて~とっても美味しいんだよ!」


「あらあら、まあまあ、それは食べてみたいわね~」


 リリーと王妃はいつの間にか話し込んでいる。


 当然のようにガウェイン将軍もご相伴にあずかっていた。


 陛下は棚の前に立つと、ワインを一本取り出した。


「息子よ、いろいろ話したいこともあるからな、今夜はこれでも飲みながら語り明かそう。皆付き合え!」


「はい!」


 こうして、王都の夜は更けていく。


 楽しそうな笑い声が、王の寝室から響いていた。

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