建国の決意
【ゼファー視点】
「ふはっ、ふは、ふはははは!」
玉座の間では、エドワード王の哄笑が響き渡っていた。
(エドワード王は気性が激しいお方みたいだな。これは落ち着くのを待つのがいいか?)
「あなた、あなたしっかりして下さい! ああ~もうこの人は、いつもこうなんだから!」
エレオノール王妃が王の肩を揺すりながら、困り果てた表情で嘆いている。
「…………」
リリーが俺の袖を引っ張り、心配そうな眼差しを向けてきた。
「大丈夫だよリリー。なんとかするさ」
「うん、お願い」
(そうだな、ここは一つ王に落ち着いてもらうとするか)
「王妃様、陛下はご乱心されているのでは?」
俺がそっと耳打ちすると、王妃はハッとした顔つきで我に返った。
彼女は勢いよく立ち上がり、パンパンと手を叩く。
「誰ぞ、誰ぞ、おらぬか!? 陛下がご乱心めされた! ガウェイン将軍をここに!」
衛兵が慌ただしく謁見の間の扉を開ける。
どうやら扉の前で待機していたようだ。
すぐに身長二メートルはありそうな大男が姿を現した。
将軍は筋骨隆々として、全身の筋肉が盛り上がっている。
着ている黒い軍服風のボタン付きシャツは筋肉で引き伸ばされ、今にも裂けそうな様子だ。
「王妃様、陛下の笑い声が外まで聞こえてましたぜ。こりゃあ、戦で勝って機嫌が良い時の陛下そっくりですな」
ガウェイン将軍はエドワード王をヒョイッと抱え上げると、ズンズンと重い足音を響かせながら謁見の間から出て行く。
将軍は王の扱いに妙に手慣れた印象だ。
将軍を見送った俺たちに、エレオノール王妃が優しい眼差しを向けてきた。
「ほっほほほ。陛下はガウェイン将軍の言うことだけは聞きますのよ」
(なるほど、よほど信頼されているんだな、将軍)
「二人とも、楽にしてください。そうだわ、陛下が落ち着くまで客間でお待ちになって。後でメイドにオヤツでも運ばせましょう」
「オヤツ!」
「こら、リリーはしたないぞ」
リリーが突然声を上げたので、思わず彼女をたしなめる。
「ほっほっほ、良いのです。婿殿はすでに身内。シルクを大切にしてくれてありがとう」
「はっ!」
俺は深く頭を垂れた。
エレオノール王妃も退室し、本日の謁見はここまでとなる。
俺とリリーはメイドに案内され、客室へと足を運んだ。
部屋には豪華なソファーと品のいいローテーブルが配置されている。
ソファーに腰を下ろすと、想像以上にフカフカとした感触が広がった。
(ちょっと豪華で落ち着かないな……)
俺は根が貧乏性なので、どうも居心地の悪さを覚えてしまう。
どういうわけか、オーロラハイドで食べるヤキトリの味が恋しくなってきた。
メイドが紅茶とクッキーをワゴンで運んでくると、リリーは砂糖を大量に入れて紅茶をすすり始める。
彼女はクッキーもバクバクと音を立てて頬張っていく。
「うん、ゼファー、これおいしいよ!」
リリーが満面の笑顔でクッキーを差し出してくれる。
そんないつもの彼女の様子に、少し心が和らいだ。
(王に提案してみるか……侵略戦争をせず、内乱も起こさない方法を……)
たくさん出されたクッキーがリリーの活躍で半分ほどになった頃、ガウェイン将軍が颯爽と部屋に入ってきた。
「よお、俺も食べていいか?」
将軍はそう言いながら、遠慮なくクッキーへ手を伸ばす。
「これは将軍。初めましてゼファー・オーロラハイドです。陛下のご様子はいかがですか?」
「俺はガウェインだ。陛下なら落ち着いたぜ。正気に戻ったら、恥ずかしがってベッドで丸くなっちまったよ」
将軍はサクサクと音を立ててクッキーを味わっていく。
(この人、王の寝室へ入れるのか。よほど信頼されてるんだな。よし、頼んでみるか)
「少し陛下にお話があるのですが、よろしいでしょうか?」
「んあ? 俺も一緒ならかまわねぇぜ。ついてこい」
長い廊下を進み、いくつもの扉を抜けて、ようやく王の寝室にたどり着いた。
寝室ではエドワード王と王妃がベッドに腰かけており、王妃が優しい手つきで王の頭を撫でている。
「婿殿か。ははっ、これは恥ずかしい所を見られたな。おおっと、膝をつく必要はないぞ。楽にするがいい。君は家族なのだから」
「はっ、恐縮です。それでは僭越ながら、お願いとご提案があります」
「ほう、聞かせてみよ」
俺は王の目をまっすぐ見つめ、決意を固める。
心臓の鼓動が早まり、胸の内で震えるのを感じた。
(ここまで来たんだ。ハッキリと言おう)
「陛下……いえ父上……オーロラハイドを……国として認めて頂けませんでしょうか?」
俺と陛下はしばらく視線を合わせた。
広い寝室の窓からは、夕焼けの赤い光が差し込んでいる。
王都の鐘楼から夕刻を告げる鐘の音が響いていた。
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