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交易路の守護者!~理想の国づくりと貿易で無双したいと思います~  作者: 塩野さち
第一章 勃興

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誕生!

【ゼファー視点】


『フェリカ歴128年 7月10日 晴天 昼頃』


 俺が率いる探検隊は無事にオーロラハイドへと帰還した。

 緑豊かな平原を越え、険しい山道を抜けてきた十名の隊員たちの顔には、安堵の表情が浮かんでいる。砂埃を被った馬たちは疲れきっていたが、故郷の匂いを嗅ぎ取ったのか耳を小刻みに動かしていた。


 オーロラハイドでは拡張工事が開始されており、至る所でドワーフたちが働いている。

 金槌の音と石を削る音が響き渡り、大きな声で指示を出すドワーフの親方の声が聞こえる。彼らは丸太の上に石材を乗せると、地面を滑らせるように運搬していく。


 計画では土壁ではなく石壁になる予定だ。

 石材はドワーフが食料と交換してくれる。かつては食料が不足していたこの地域だが、塩の輸出により食料が手に入るようになった。


 工事が行われているとは言え、まだまだ基礎を作っている所だ。

 計画では何年もかかるだろう。だが、完成すれば頑丈な防壁となるはずだ。


「おい、誰か飲み水を持ってきてくれ~! 喉がかわいた~!」


 俺は軍の宿舎に着くなり、情けない声を上げた。

 多めに持って行ったはずの水が、帰りには腐ってしまっていたのである。皮袋に入れていたが、途中で雨に打たれた後の暑さで、中の水が悪くなったようだ。風の平原での一か月、水の管理は大きな課題だった。


「ゼ、ゼファー閣下。や、やっと着いたっすね……」


 探索隊の一人であるロイドは腹を痛め、ゲッソリしていた。

 彼は探検隊の中では一番の若手で、まだ十八を過ぎたばかり。金髪で細身の体つきだ。今回が初めての長距離探索だったが、水の管理に失敗した責任を感じているようだった。昨夜から下痢が続き、今は青白い顔で馬から降りるのさえ苦労している。


 水が腐らないように対策が必要だ。


 それとも、あの風の平原での過ごし方には秘訣があるのだろうか?

 あの羊を飼っていた若い男と、もっと話ができていればと悔やむ。

 だが、あの時は最善の行動を取ったと信じている。


「閣下! 水です!」


「おおっ、すまんなヒューゴ!」


 留守組だった軍司令官のヒューゴが持ってきた水を飲む。


「ぷはぁっ! うめぇ~! 新鮮な水の味がこんなに素晴らしいとは!」


 一息つくと、馬を厩舎に戻しながらヒューゴと立ち話をする。

 周りには帰還を祝って集まってきた人々がいる。中には子供たちの姿もあり、探検隊の武具や装備に好奇心いっぱいの目を向けている。


「閣下、おめでとうございます。シルク夫人のご出産は無事におわったそうです。母子ともに健康だとのことです」


「おおっ! そうか! 男の子か、女の子か? 早速行こう!」


 走り出そうとすると、ヒューゴに腕を捕まれる。

 その顔には「待て」と言う表情が浮かんでいた。


「閣下、神官が言うには、赤子に悪い気がつくかも知れぬとの事で、先に風呂で身を清めて着替えて下さいと……あと、少々言いにくいですが、臭いですぞ?」


(おおぅ、一か月も着替えてないしな。臭いか! 虫がついていたら嫌だしな)


「わかった! すぐに風呂を用意しろ。あと、ヤキトリ買ってきてくれ! 野菜も食べたい……肉と野菜が交互にはさまっているやつ大至急!」


 俺は半泣きでヒューゴに頼んだ。

 オーロラハイドでは風呂と言ったら普通に浴槽にお湯をはるが、ドワーフに言わせると風呂は蒸し風呂が最高らしい。彼らの住居には必ず石を熱した蒸し風呂が備え付けられている。


 念入りに体を洗い、浴槽につかり蒸し風呂にも入った。

 一か月分の疲れが溶け出すような心地よさだ。身体の芯から温まり、筋肉の疲れが癒えていくのを感じる。


 風呂から出て、黄色い果実入りの水を飲む。

 これは南方から運ばれてくる高級品で、普段はなかなか口にできない。


(すっぱいな……なにこれ? でもうまいっ! 確かオレンジとか言うやつだな)


 ヤキトリを食べた後で、塩をつけた毛のブラシで口も洗う。

 最近出来た新商品らしい。ドワーフの発明らしいが、使ってみると確かに口の中がさっぱりする。


 ブラシの部分がコンパクトになっている。

 以前のものはもっと大きく、口に入れにくかった。改良を重ねた成果なのだろう。


 そして、気合を入れて、シルクの部屋へ向かった。

 心臓が高鳴る。出発前、シルクのお腹はまだ大きかったが、無事に出産できただろうか。初めての子供だ、緊張する。


 部屋に入ると、ベッドにシルクが座っており、赤子を抱いて微笑んでいる。

 彼女の金色の髪は肩まで伸び、穏やかな笑みを浮かべていた。小さな赤子は白い布に包まれ、時折小さな手を動かしている。


 横には若い女性の神官が居た。

 彼女はこの地域の神殿から派遣されてきた産婆で、出産後の母子ケアを担当しているようだ。


「あなた、おかえりなさい。無事で何よりです」


「ただいま、それでっ! 男の子か? 女の子か?」


「男の子ですよ。あなたが名前をつけて下さいな。元気な子です」


「えっ? 二人でつけるんじゃないの?」


 とりあえず、椅子に座る。

 いろいろな人からの差し入れが、部屋に置かれている。

 花束が多いようだ。隅には果物のバスケットや、絹の布など高価そうな品々も並んでいる。みな、新しい命の誕生を祝福しているのだろう。


「やーねー、男の子の名前はよく分からないわ。今度女の子が生まれたら、私がつけるわ」


「ははは。そうか。そうしよう。そうだなぁ、じゃあ、カイルで!」


 なぜかスッと名前が出てきた。


「カイルね! いい名前だわ。なにかしら? 海と風のさわやかなイメージがするわ! きっと素敵な男の子に育つわ」


 その時、カイルがいきなり泣き出した。

 小さな体から信じられないほど大きな声が出てくる。真っ赤な顔で全力で泣き叫ぶ姿に、思わず身を引いてしまった。


「おっ、おい、どうすればいい? 何かしたか?」


 俺がオロオロしていると、女の神官に部屋から追い出されてしまった。

 どうやら赤ん坊を泣き止ませるのは専門家の仕事らしい。


「えっ? どうして? 俺の子だぞ?」


「授乳です! この国の風習では女の仕事です! そうなっています! いくら閣下でも譲れません。と、言うか男は出ていけ~っ!」


(なんか、この神官さんの素が見えた……柔らかそうな見た目とは裏腹に気が強いな)


 部屋から追い出され、廊下をトボトボと歩く。

 せっかく会えたと思ったのに、あっけなく別れることになってしまった。でも、健康そうで何よりだ。シルクも元気そうだった。


(ベッドで寝たいな。ずっと相棒は馬だったからな。柔らかいベッドが恋しい)


 自室に戻りベッドに入ると、そのまま深い眠りに落ちた。

 久しぶりの安眠だった。


「……おい、起きろ……」


 翌朝、誰かに起こされる。

 重いまぶたを開けると、商人のシドが部屋に立っていた。いつもの渋い顔で俺を見下ろしている。


「うん? シドか? 俺の部屋に来るなんて珍しいな。太陽もまだ昇ったばかりじゃないか」


 次第に頭がはっきりしてくる。

 窓から差し込む朝日が眩しい。どれだけ寝ていたのだろうか。


(そうだ、カイルに会いたいな! 今日はゆっくり抱っこさせてもらおう)


「……祭りを開くぞ、お前も来い。皆がまってる。お前の息子の誕生祭だ」


 シドの口調はいつも通りだが、有無を言わさぬ迫力があった。

 いつもなら商売の話しかしないシドが、こんな朝早くに祭りの準備とは珍しい。


「お、おう。すぐに行く」


 紺色の貴族風の服に着替えると、街の広間へ向かった。

 朝の空気は冷たく清々しい。街は既に活気づいていた。


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