第二次オーロラハイド拡張計画
【ゼファー視点】
オーロラハイドの盟約が結ばれた翌日。俺は盟約の内容を書いて急いで王都へ届けることにした。ちょうど、王都から行商人が来ていたので、商人に託すことにした。
朝の仕事を終えると、ドワーフのトーリン王が街を見て回りたいと言うので案内することにした。一緒にエルフのエルミーラ女王もついてくる。トーリン王とエルミーラ女王は、仲が良くなったわけでは無さそうだったが、一緒に居る程度には関係が良くなっていた。
途中、商人のシドと軍司令官のヒューゴが、エルフの女性と一緒に歩いているのを目撃した。どうやらデート中らしく、楽しそうな声が聞こえてくる。お相手は、エルフのエイルとリーリアのようだ。
二組のカップルは俺に気づいていないようだったので、そっとしておくことにした。
(がんばれよ、シド、ヒューゴ……シド、お前たちもホントは彼女欲しかったんだな……)
「こんなに沢山の麦が売られているのか……おお、こっちは肉屋か!」
トーリン王は、市場で売っている食べ物の多彩さと量に驚いていた。
「あら、トーリン王。私、しばらくこの街に居ましたけど、ここではこれが普通ですわよ。まぁ、私も最初は驚いたんだけどね」
エルミーラ女王が、売られていたリンゴを見つめている。俺はリンゴを一つ買うと、エルミーラに渡した。
「あら、ありがと」
市場は場所が足りないのか、ギッチリと露店が並んでいるように見えた。
「のう、ゼファー卿、この街は人が多くて少々手狭になっているようだな」
「ええ、実はそうなんですよ。この前、ドワーフの皆さんに拡張工事をしてもらったばかりなんですけどねぇ……」
俺は汗を拭きながら答えた。
「なあ、良かったらワシらドワーフに工事を発注してくれんか? お代は食料でいい」
(なるほど、食料目当てに工事か。ドワーフは金遣いもいいから悪くないかもな)
あれから特産品の塩の売り上げもいいし、夜のお店もちゃっかり儲かっている。
「ええ、ウチの財務担当と早速相談しましょう。とりあえず、昼食をとっていきませんか?」
「賛成じゃ!」
「あら、優しいのね!」
三人とも輝きのゴブリン亭の方へ足を早めた。エルミーラが庶民的な料理を食べたいと言うので、ヤキトリにする。
俺たちは、個室に入って料理を待つ。ヤキトリの山盛りを頼むと、トーリンとエルミーラがガツガツと食べだす。二人とも、とても王には見えない。そのへんのオッサンとお姉さんみたいだ。
二人の食欲がおさまったのは、追加注文を二回した後だった。
食後のワインを飲んだ後、皆で館に戻る。館では、デートが終わったのかシドが待っていた。
「……お三方、お帰りなさいませ」
シドが不愛想に出迎えた。
(デートの後だから機嫌良さそうだな……)
シドは普段は挨拶などしない男である。新たにシドとグリーングラス王を加えて、五人で会議室へ入った。
円卓にオーロラハイドの地図を広げる。地図は軍事情報のため機密ではあるが、もう盟約を結んだ仲だし工事の計画を練るためにも必要だ。
「シド、悪いが、お二人にオーロラハイドの現在の人口の説明をしてくれ」
「……承知いたしました。固定で住んでいる住人は、人間四千人、ゴブリン五百人、ドワーフが二百五十人、エルフが二百五十人ほどでございます……これに旅人や行商人など、流動的な人が五百名程度おります」
合計で五千人を超えているが、最近の人口増加の傾向を見ると、すぐに一万人を超えそうな勢いであった。
「のう、いいかの? ドワーフの城を建てたいんじゃが……」
「し、城ですか!?」
一番驚いたのが俺だった。ハーブティーを思わず吹き出しそうになる。
「おお、城じゃ。その代わり、城を建てる事を許可してくれたら、ゼファー卿の城も建ててやってもええ」
俺はトーリン王の言葉に、キョトンとなる。
「……え、いいんすか?」
思わず素で返事をしてしまう。
「あら、それだったら、エルフ風の宮殿も作っちゃうわよん~」
エルミーラ女王も乗り気だ。
「ふむ、それならゴブリン風の城も作らねば、ゴブリン魂がすたりますな!」
グリーングラス王も対抗意識を燃やしている。俺は完全に呆けて、魂が抜けたような顔をしてしまう。
「……悪くない。それなら予算と段取りは……」
呆けてしまった俺の代わりに、シドが会議を仕切りだす。
「みなさ~ん、おやつの差し入れですよ~」
そこへ、シルクがおやつの差し入れを持ってきて、さらに会議が盛り上がり、前代未聞の城が四つある都市の計画が持ち上がった。会議は俺抜きにエスカレートしていく。
「なんかこう、城壁も三重にして、強くしよう! もちろん石垣で作る!」
トーリン王が興奮したように話す。みんなでキャッキャと、理想の街づくりについて語る。
(どうしてこうなった……)
会議は深夜まで続き、最後には『第二次オーロラハイド拡張計画』の契約書にサインさせられ、前代未聞の城が四つある街の建設計画がスタートした……
(え、ほんとにいいのコレ?)
俺の心の声だけが、会議室の参加者たちには響いていなかった。
会議室のテーブルには、四つの城の粗い設計図が並べられていた。エルフの宮殿は優美な曲線、ドワーフの城は頑強な石造り、ゴブリンの城は奇抜な形状、そして人間の城。
街を囲む三重の城壁の図面も広げられ、あかあかと灯るランプの明かりの下、エキサイトした表情の面々の中で、俺だけが現実感を失いかけていた。
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