オーロラハイドの盟約
【ゼファー視点】
ドワーフ王『頑固な』トーリン・ストーンハンマーが、オーロラハイドに来た。西門の警備兵たちも、来客に慣れてきたようで、以前ほど緊迫感は無い。連絡もスムーズになっている。俺も落ち着いて、西門で出迎えた。
トーリン王は、三十代ぐらいの頑強そうな戦士と言った感じがする。筋骨隆々とした、いかつい顔つきのドワーフだ。長く伸びた髭は丁寧に編み込まれ、ドワーフの伝統と誇りを感じさせる。
グリーングラス王も一緒だ。相変わらず赤いシャツと緑の肌である。気に入っているんだろうな。
(きっとあのシャツ、何着も持ってるよな)
トーリン王は俺の前に進み出て、深々と頭を下げた。
「オーロラハイドの領主ゼファー・オーロラハイド殿。私はドワーフの王、トーリン・ストーンハンマーと申します」
トーリン王は低い声で厳かに名乗り、俺も敬意を表して応える。
「ようこそ、トーリン王。私は、ゼファー・オーロラハイド子爵です。オーロラハイドへようこそ」
そのまま、トーリン王と握手を交わす。
「館で食事でもしながらお話をしましょう」
続いて、トーリン王とグリーングラス王を館の会議室へと案内した。会議室の円卓には、すでにエルフのエルミーラ女王が座っていた。
彼女はトーリン王を一瞥すると、プイッと横を向いてしまう。
「ドワーフ王トーリン・ストーンハンマー殿をもてなすための、フルコースを用意いたしました」
できるだけにこやかな表情で、優しく言葉を添える。
手を叩くと、輝きのゴブリン亭から応援で呼んでおいたグリータちゃんが入ってくる。
彼女は一礼すると、本日のメニューを読み上げ始めた。
「力強いドワーフのイメージと、繊細なエルフの好みに合うように、そしてオーロラハイドの特産品である塩を活かすように工夫してみました。
ドワーフ王をもてなすフルコースです!
前菜として、
・海塩で焼き上げた季節の野菜の盛り合わせ
・燻製肉の盛り合わせ ~マスタードと蜂蜜添え~
・チーズの盛り合わせ ~ドライフルーツとナッツ添え~
スープですが、
・濃厚なミネストローネ
・きのこポタージュ
魚料理には、
・塩釜焼きにした白身魚 ~レモンとハーブの香り~
肉料理は、
・骨付き肉のグリル ~特製スパイスソース~
主食として、
・ドワーフ風柔らかパン
デザートには、
・濃厚なチョコレートケーキ
・季節のフルーツタルト
・プリン ~キャラメルソース添え~
ドリンクは、
・厳選されたワイン
・濃厚な黒ビール
・フルーツジュース
と、なっております!
デザートのプリンは、シルク王女のリクエストということで、特別に用意しました」
俺たちは、そのまま食事をしながら会議となる。館の厨房では、ゴブリンと人間の料理人たちが、美味しい料理を作っているに違いない。この日のために、輝きのゴブリン亭からも応援を呼んでおいた。
料理が運ばれてくると、皆がごくりと喉を鳴らす。肉の上にバターが乗せられ、トロトロと溶けだす。
「ほう、これは美味いな」
一口食べたトーリン王は思わず笑みをこぼすが、エルミーラ女王と目が合うと、真顔に戻ってしまう。
「まずは、ゼファー卿に食料支援の礼を述べさせてもらう。ありがとう」
トーリンが食事の手を止めて頭を下げた。
「そんな、お礼なんていいですよ。ドワーフのみなさんは、街にお金を落としてくれますし、お互い様です」
俺は笑顔で返す。
「あら、このプリンってデザート、美味しいわね」
エルミーラも満面の笑顔だ。
場が和やかになってきたところで、話を切り出す。
「なあ、エルフとドワーフがいきなり仲良くしろとは言わない。そのかわり、両種族ともオーロラハイドと盟約を結ぶ気はないか?」
「盟約かしら?」
エルミーラはこちらにチラリと視線を送る。
「ほう、盟約とな?」
トーリンは長いアゴヒゲをなでる。
「ああ、同盟を結ぶんだ。すでにゴブリンとも結んでいるしな。エルフとドワーフがお互いを信じられなくても、オーロラハイドの事は信じてくれてもいいんじゃないか?」
「そうね……」
「そうだな……」
トーリンとエルミーラは考え込んでいる。
心が動かされているようだった。
「グリーングラス王もそれで構わないよな?」
気さくに聞いてみる。
「ゴブリン族はすでにオーロラハイドと同盟を組んでいる。異論はない」
腕組をしたグリーングラスは「フッ」と息を吐きながら答える。
「よーし、決まりだなー。それじゃ盟主を誰がやるかなんだが……」
「お前以外考えられまい」
グリーングラスが重々しく言う。
「お主がやれ」
トーリン王も乗り気だ。
「あたしは、ゼファー卿がいいなぁ~」
エルミーラ女王も当然のように話す。
結局、全員が俺に視線を送る。
(ええっ、おっ、俺ですかァ~!? どうしてそ~なるの!?)
こうして、オーロラハイドの盟約は成立した。
人間、ゴブリン、エルフ、ドワーフ。四つの種族が手を取り合い、新たな時代を切り開く。
俺は盟主として、その重責を担うことになったのだった。
会議室の大きな窓からは夕陽が差し込み、テーブルを囲む四つの種族の影が壁に長く伸びていた。空気は期待と緊張で満ちている。
テーブルの上に置かれた盟約の書には、それぞれの種族を代表する印が並び、新たな始まりを告げるように輝いていた。
未来への希望を映し出すかのように、夕焼けの光が部屋全体を包み込んでいた。
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