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エルフの女王

【ゼファー視点】


 グリーングラス王が旅立ってから数日が経過した。


 俺は毎朝の日課通り、訓練場で鍛錬に励んでいた。今日の相手はヒューゴだ。


 俺たちは柔らかい布で包んだ木剣を手に持ち、互いに向き合っていた。布のおかげで、万が一当たっても大きな痛みを感じることはない。周囲では兵士たちも訓練に参加していた。


 リリーはシドと組んでいる。シドは旅の間、自分が足手まといになるのではないかと気にしているようだった。


(シドは商人だから、そんなことを気にする必要はないのにな)


 そんな俺たちの訓練を、シルクは微笑みながら見守っていた。


「伝令でーす! 伝令でーす! 西門にエルフの一団が現れたとの報告があり、現在門を閉鎖中です!」


 俺は訓練を中断し、声高らかに命じた。


「よし、訓練は中止だ。全員、武装して西門へ向かえ!」


「はっ!」


 俺の号令に応じて、兵士たちは完璧とまではいかないものの、まとまりのある動きで行動を開始した。


 俺とヒューゴは城壁(じょうへき)へと急ぎ、ドワーフたちが新しく建設した城壁から森の方向を眺めた。材料不足のため、相変わらず土で作られた城壁ではあったが、以前よりも高くなっていた。


 確かに、エルフの一団が見える。不思議なことに、全員が女性だった。


(なんでだろ? もしかして、エルフって女性のほうが多い種族なのか?)


 西門へとゆっくりと近づいてくるエルフの一団。およそ三十名ほどだろうか。


 その集団から、二人のエルフの女性兵士が城門へと駆けてきた。彼女たちは以前捕らえたエイルとリーリアという女性エルフだった。


「あの二人、確か以前捕まえた者だよな」


 俺は目を細めて遠くを見つめながら呟いた。


「そうですね、閣下」


 ヒューゴが頷きながら答える。


 二人のうちエイルが城壁のすぐ下まで来ると、俺たちの方を見上げて声を張り上げた。


「エルフの女王、エルミーラ・リーフウォーカーと護衛の一団です! ゼファー卿、どうか門を開けてください!」


 俺は驚きの表情を隠せず、大声で応えた。


「分かった! 今、門を開けさせる!」


(えっ、いきなりエルフの女王が来るのかよ……今日はフルコース用意できるかな……)


 エルフの一行は静かに西門から街へと入ってきた。


 俺たちは城壁を降り、エルフの一団の前に立った。


「初めまして、ゼファー・オーロラハイド子爵と申します。この地を統治する領主です」


 俺が名乗ると、エルフの一団が左右に分かれ、その奥から緑色の髪と瞳を持つ、二十代後半くらいの女性が歩み寄ってきた。


「私はエルミーラ・リーフウォーカーと申します。エルフの女王です。この度はグリーングラス王のお誘いで参りました。どうぞよろしくお願いいたします」


 女王は優雅に一礼した。俺も丁寧に頭を下げる。


「こちらこそ、よろしくお願いします」


 彼女は本当に美しい女性だった。俺は前々から疑問に思っていたことを尋ねてみた。


「あの、エルフは長寿という話は本当なのですか?」


 女王は不思議そうな表情を浮かべた。


「おとぎ話にはそういった伝承もありますね。でも実際は人間と同じくらいの寿命ですよ。見た目通りの年齢です」


 女王は微笑みながら答える。そのとき、突然リリーが割り込んできた。


「ちょっと、ゼファー! 初対面の女性に年齢のことを聞くなんて失礼よ!」


「いたっ!」


 リリーが俺の後頭部にチョップを入れた。


 エルミーラ女王は楽しそうに笑い声を上げる。


「あはは、楽しい滞在になりそうですね。この街の名物料理は、ゴブリン料理と人間料理が融合したものだと聞いていますが」


 俺はリリーに向かって眉をひそめる。


「おい、リリー、いきなりツッコむなよ。はい、その通りです。ゴブリン風の料理が名物なんです。早速食べに行きましょうか?」


 エルミーラ女王は両手を軽く合わせ、嬉しそうに頷いた。


「ぜひそうしましょう! 急いで里から来たものですから、お腹が空いていました!」


 そのとき、シドが息を切らしながら駆けつけてきた。


「領主様! エルフの一行様のための宿の最上の部屋を確保いたしました!」


 街の人々はエルフたちの到来に驚き、あちこちで噂話をしていた。


「見て、エルフだ……」

「本当だわ、長い耳を持つ人を初めて見たわ」

「あの方が女王かしら? とても美しい方ね~」

「女性ばかりだな!」


 俺たちは女王の手を取り、できるだけ堂々と店へと向かった。


 店内に入ると、相変わらず活気に満ちていた。最近流行しているヤキトリの良い香りが店内に漂っていた。


「こんにちは~! グリータちゃん、急で悪いけど、今日はフルコースできる?」


 店内を見回しながら声をかける。グリータは俺たちを見るとすぐに笑顔で迎えてくれた。


「あっ、領主様とエルフの皆様、いらっしゃいませ! フルコースですか? マスターに確認してきます! 奥の個室でお待ちください」


 彼女は慌ただしく奥へと走っていった。


 オーロラハイド側からは、俺とリリー、それにシドとヒューゴが個室に入った。エルフ側からは、エルミーラ女王とエイル、リーリアが入室した。


 しばらくして、グリータが足早に戻ってきた。彼女は息を整えながら報告する。


「現在ある材料でよろしければ、フルコースをご用意できます!」


「おお、そうか。じゃあフルコースをお願いする。今日のメニューは何かな?」


 グリータは胸を張り、誇らしげに朗読するように告げた。


「はい!


・季節のフルーツとハーブのミニサラダ仕立て

・妖精の羽を模した、軽い食感のパイ

・森の恵み 彩り野菜のテリーヌ

・キノコとハーブのキッシュ

・スモークサーモンとクリームチーズのカナッペ

・カボチャの冷製ポタージュ

・きのこクリームスープ

・白身魚のソテー ~ハーブバターソース~

・鹿肉のロースト ~ベリーソース~

・三種の森のベリーのムース

・木の実のタルト

・蜂蜜のクリーム

・ワイン

・ハーブティー

・フルーツジュース


以上でございます!」


 エルミーラ女王は両手で口を覆い、驚きの表情を見せた。


「まあ、驚きました。知らないメニューばかりですわ……」


 俺は思わず笑みがこぼれる。


「はは、俺も知らないうちにメニューが増えていくんだよな」


 俺たちは食事をしながら楽しく談笑した。エルミーラ女王はワインがとても気に入ったようで、すでに何本も空けていた。


(すげぇな、こんなに飲めるとは。マジ酒豪だ)


 俺も付き合って飲んでいたが、もう限界に近づいていた。頬が熱く、視界がほんのり揺れている。


 エルミーラ女王は頬を赤らめながら、艶やかな声で言った。


「こんなにたくさんの美味しいものをいただいて、お礼をしないわけにはいきませんわ。ねえ、今晩はどうかしら?」


(まさか誘われてる? ヤバい、頭が回らねぇ……)


 俺が戸惑っていると、突然リリーが横から抱きついてきた。


「だーめ、これは私のなんだから。あなたにはあげないよ!」


 リリーは頬を膨らませ、エルミーラ女王を睨みつける。女王はくすりと笑い、肩をすくめた。


「ちぇっ、ケチね。せめて、私のことはエルって呼んでよ、ゼファー殿」


 俺は酔いのせいで言葉がもつれる。


「わ、わかりました、エルさん……」


 そのまま俺は酔いつぶれて意識を失った。


 その後、エルフたちは連日、飲んで食べての繰り返しだった。不思議なことに、彼女たちは太る様子がなかった。それがエルフという種族の特性なのだろうか。


 ある日の昼食時、エルは俺に提案してきた。彼女は輝く目で熱心に語りかける。


「ねえ、街にエルフ地区を作ってほしいの!」


 俺は少し考えてから答えた。


「え、まあ、ドワーフ地区もあるし、いいですよ!」


 エルは喜びに満ちた表情で手を打ち鳴らした。


「やったわ! さすがゼファー殿、話がわかるわ!」



 こうして街にエルフ地区を作ることになった。ドワーフに頼らないとばかりに、エルはエルフの人材を大量に動員して、エルフ地区の開発に着手した。


 エルフ地区には、多くの木の苗が植えられていた。よく見ると、様々な種類の木が植えられている。種類に偏りがないようにしているのだろうか。


(森でも作る気かな。緑の都、オーロラハイド、悪くねぇな!)


 俺がエルと二人で工事の様子を眺めていると、ドワーフのバルドが走ってきた。彼はエルを見ると、一瞬「うっ」と顔をしかめる。


「ゼファー卿、ご報告があります。ドワーフ王とグリーングラス王がもうすぐ出発なさるとのことです」


 バルドは胸を張り、誇らしげに報告する。俺は頷いて答えた。


「わかった。バルド、報告ありがとう。どれくらいで到着する予定だ?」


「はっ、およそ三日後かと……」


「そうか……」


(いよいよ会談が始まるか。気を引き締めねぇとな……)


 よく晴れた昼下がりの出来事であった。

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