千客万来
【レオン教皇17歳視点】
『リベルタス歴18年、フェリカ歴146年 11月21日 昼』
僕は、いつも通り往診を終えて家へ帰る途中だった。
不意に、前方から交易騎兵隊のアスターさんが、息を切らせてこちらへ駆けてくるのが見えた。たしか、ファニルさんと一緒にリュミャラ王国へ向かったはずだ。彼がこんなに慌てているなんて、何かあったのだろうか。
「レオン教皇猊下! リュミャラ王国の移住希望者を、お連れいたしました!」
アスターさんの隣では、ファニルちゃんが嬉しそうに尻尾を振っている。
「ニャニャ~ッ♪ レオン~♪ これからお世話になるニャ~♪ 一生懸命働くニャ~♪」
「わあっ! こんなにたくさん!」
アスターさんたちの後ろに目をやると、そこにはおよそ三千人近くの猫人族の人々が、期待と不安の入り混じった表情でこちらを見ていた。
その時、今度はシドさんが、いつもの黒いマントを翻し、どこからともなく静かに現れた。彼は滅多に走ったりはしない。だが、いまは早歩きだ。彼にしては急いでいる。
「……レオン、グラナリアのルーロフ将軍が、寄贈の小麦を持ってきているようだ。先ぶれの騎兵が、先ほどリバーフォード村に到着した……」
「ええええ~っ! 小麦の寄贈? いいの!?」
「……フッ、小麦があれば、貸し借りはナシだな」
シドさんが口の端を吊り上げて笑う。その表情は、まるで何か悪巧みでもしているかのようで、僕には悪役にしか見えない。だけど、これがいつものシドさんなのだ。感情を表に出すだけ、まだ優しい方なのかもしれない。彼がその気になれば、まったくのポーカーフェイスを貫き通せるのだから。
と、そこに、今度はファリーナちゃんが息を切らせて元気に走ってきた。
「レオン~っ! 大変じゃ! また南の方からチャリオットが来ておるぞ~っ!」
「えっ、えっ、ええ~っ! きっとガウェイン将軍だよね~っ? こんなにいっぱいお客さん、家には入らないよ~っ!」
僕が悲鳴に近い声を上げると、シドさんが冷静に提案した。
「……ならば、オーロラハイドのヤキトリスタイルはどうだ? 広間で火をおこして、肉を焼こう……」
「うん、それがいいね! 手のあいてる人で、テーブルとかイスとか持ってきて! 僕はお客さんをお迎えしないといけないから!」
秋晴れの空のもと、キュアリエ騎士団の兵士さんや村の人たちが協力して、広場に即席の宴会場の準備を始めた。炭火をおこし、近くの農家から分けてもらった鶏をさばいて串に刺していく。ヤキトリ文化は、ここリバーフォード村にもしっかりと伝わっているようで、村の人たちも手際よく手伝ってくれた。大きな樽で運ばれてきたエールやワインも並べられ、まるでお祭りの前夜のような賑やかな雰囲気になっていく。
「みんな~! お肉を焼いたりお酒を飲んだりするのは、お客さんが来てからだからね~!」
「「「あっはははははは!」」」
僕の少し間の抜けた声に、準備をしていたみんなから、どっと笑い声が起こった。
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