ケモ耳少女の朝
【ケモ耳少女ファニルちゃん15歳視点】
『リベルタス歴18年、フェリカ歴146年 11月17日 朝』
カチャリ、と控えめな金属音がして、部屋のドアが開く気配でわたしは目を覚ましたニャ。薄暗い部屋に差し込む朝の光の中、清潔な白い衣をまとった人間の女性が、お盆に載せた食事を運んでくるのが見えるニャ。そのお盆の上からは、香ばしい匂いが漂ってくる。
「ニャッ!? もしかして、ご飯かニャ?」
お腹がぐぅと鳴る。わたしは勢いよく毛布を跳ね除け、ガバッとベッドから飛び起きたニャ。
「うふふ、それくらいお元気でしたら、もう今日にでも退院できますね」
白衣の女性は、わたしの元気な様子を見て、優しく微笑みながらサイドテーブルに食事を置いてくれたニャ。今日の朝ごはんは、昨日食べた麦のスープ以外に、こんがりと焼けたシャケの切り身と、ふっくらとした白パン、それから色鮮やかな野菜の漬物までついているニャ。なんて豪華なんだニャ!
「ニャッ? た、退院って……も、もしかして……ここを、出ていけってことなのかニャ?」
美味しいご飯を前にして喜んでいたのも束の間、わたしの耳は不安でピーンと立ってしまったニャ。
「ええ、ここは病気の方や、お怪我をされた方が治療を受けるための施設ですので……。ファニルさんのように、お元気になられた方には、お部屋を空けていただかないと」
女性は申し訳なさそうに眉を下げたニャ。
「そ、そんなの困るニャ~! アタシ、故郷の山へ戻ったって、食べるものが何もないニャ~! ううっ……ひっく……」
思わず、ポロポロと涙がこぼれ落ちてきたニャ。せっかく美味しいご飯にありつけたと思ったのに、またあの飢えた生活に戻らないといけないなんて、あんまりだニャ。
白衣の女性は、わたしの様子を見て、少し困ったような顔をしながらも、優しく声をかけてくれたニャ。
「まあまあ、泣かないでください。よろしければ、詳しくお話を聞きましょうか……」
わたしは、出された朝ごはんをゆっくりと食べながら、自分のことをぽつりぽつりと話したニャ。
わたしたち猫人族のリュミャラ王国が、ずっと昔に人間のヴァルクランド王国という国に戦争で負けてしまって、故郷を追われ、険しい山の中へと逃げ込んだこと。
それから二百年もの間、わたしたちの一族は、ニンゲンたちに見つからないように、山奥で息を潜めるようにして暮らしてきたこと。
でも、今年の山はひどい不作で、蓄えていた食料も底をつき、今のリュミャラ王国は、飢饉で非常にまずい状況に陥っていること。
だから、わたしは一族のみんなを助けるために、長老たちの制止を振り切って、たった一人で食べ物を探しに、このニンゲンの村まで下りてきたこと……。
そこまで話すと、白衣の女性が、そっと木のコップに入った水を差しだしてくれた。わたしは、水をぐいっと一気に飲んだニャ。
「あの、ファニルさん。その、ヴァルクランド王国ですが、もう百年以上も前に、南のフェリカ王国という大きな国に滅ぼされてしまってますよ……」
「ニャッ!? い、今なんて言ったニャ? ケホッケホッ! ゴホッ!」
飲んでいた水が、変なところに入っちまったニャ! わたしは激しくむせてしまったニャ。
白衣の女性が、わたしの背中を優しくさすってくれる。
ようやく咳が落ち着いたところで、わたしは信じられないという気持ちで、もう一度聞き返したニャ。
「ほ、本当に……ヴァルクランド王国は、無いっていうのかニャ……?」
「はい、間違いありません。もうありませんよ。強いて言うなら、ヴァルクランド王国の血筋を引く国は、グラナリア公国しか残っておりませんでしたが……そのグラナリア公国も、リベルタス帝国との戦に敗れています」
わたしは、口をポカーンと開けたまま、何も言えなかったニャ。
少しだけ時間をかけて、頭の中で情報を整理する。
わたしたちを追い出した、ヴァルクランド王国は、もう無い……。
ということは、わたしたち猫人族が、二百年もの間、ニンゲンを恐れて山奥に逃げ隠れていた意味は……もう、とっくの昔に無くなっていたということニャ……。
それなら、長老様も、みんなも、ここに食べ物を探しに来るべきだニャ! 美味しいものがたくさんあるんだから!
そこまで考えた時、部屋のドアがコンコンとノックされたニャ。
「往診です、ファニルさん、入りますよ~」
こ、この声は! ま、間違いないニャ! 昨日、あの恐ろしい権能で、女の子たちを次から次へと『いたして』いた、ヘンタイ権能男の声だニャッ!
心臓がドキドキと大きく鳴り始める。自分でも、耳としっぽの毛が逆立つくらい、緊張が高まっていくのが分かったニャ。
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