ケモ耳少女は見た!
【ケモ耳少女ファニルちゃん15歳視点】
『リベルタス歴18年、フェリカ歴146年 11月16日 夜』
ふわりとした温かさに包まれて、わたしは目を覚ましたニャ。誰かが掛けてくれたのだろう、上質なウールの毛布が、冷たい夜気からわたしを守ってくれている。窓の外はもう真っ暗だけど、部屋の中は小さなランプの灯りでほんのり明るいニャ。
くんくんと鼻を鳴らすと、食欲をそそるいい匂いがする。サイドテーブルの上を見ると、木の器に何やら食べ物が用意されていたニャ。
「よく分からないけど、さっき意識が朦朧としている時に食べたのも、すごく美味しかったニャ。きっとこれも美味しいに違いないニャ。うん、きっとこれはアタシのための夜食だニャ」
お腹がぐぅと鳴る。わたしは我慢できずに、器の横に添えられていた木のスプーンを手に取り、そっと中身をすくって口に運んだニャ。
「ニャッ! ただの麦のスープかと思ったら、ほんの少しだけど魚の身が入っているニャ! この香りと味は……干したシャケだニャ! なんて気が利くニンゲンなんだニャ!」
わたしは夢中でスープをかき込んだニャ。あっという間に器は空っぽになり、お腹もポカポカと温かくなったニャ。
でも、ここは一体どこなんだニャ?
わたしが覚えているのは、故郷の山を下りて、食べ物を探してさまよった挙句、どこかのニンゲンの村のそばで力尽きて倒れたところまでニャ。
わたしたち猫人族のリュミャラ王国が、人間のヴァルクランド王国とかいう国に戦争で敗れてから、もう二百年も経つと聞いているニャ。それ以来、アタシたち猫人は、ニンゲンたちの目を逃れて、人里離れた深い山奥で、肩を寄せ合ってひっそりと暮らしてきたニャ。
でも、そんな生活ももう限界だったニャ。ニンゲンに負けた二百年前の戦争のことなんて、今ではもう誰も覚えていないニャ。
アタシは、長老やみんなの制止を振り切って、一人で山を下りることを決めたニャ。だって、今年の山はひどい不作で、もう食べるものがほとんどなかったんだニャ。このままじゃ、みんな飢え死にしちゃう。
でも、このニンゲンの村には、なんだか美味しそうなものがたくさんありそうだニャ。うん、アタシ、しばらくここに居座ることに決めたニャ。
「それにしても、こうして寝てるだけっていうのも、なんだかヒマだニャ。よし、ちょっとだけ村の様子でも探ってくるニャ」
アタシたち猫人は、夜目が利くのニャ。多少暗くても、ニンゲンよりずっとよく周りが見える。完全に真っ暗闇だとさすがに困るけど、今夜は綺麗な月が出ているから、月明かりだけでも十分に外の様子が分かるニャ。
そっと部屋を抜け出し、村の中を歩いてみる。ニンゲンの村の家々からは、夕食の良い香りが漂ってくるニャ。きっと、どこの家も暖かいご飯を食べているのだろう。食べるものがたくさんあって、本当にうらやましい限りだニャ。
その中で、ひときわ大きな家を見つけたニャ。他の家よりも少し立派で、窓からは明るい光が漏れている。何やら、楽しそうな話し声も聞こえてくるニャ。
「レオン! 今宵は妾といたすのじゃ!」
(はっはーん。あの家の窓から聞こえてくる、甘えたような女の声……。それに応える、若い男の声……。あの浅黒い肌の女の子は、きっと発情してるんだニャ。まあ、生きものなら、そういうこともあるニャ。仕方ないニャ)
それにしても、家の中には女の子がいっぱいいるみたいだけど、男の子の声は一人しか聞こえないニャ。ということは、あの少年が、この家のボス……いや、このメスたちのリーダーってことかニャ?
興味本位で、そーっとその大きな家の窓に近づき、中の様子を覗き込んでみたニャ。
そして、アタシはとんでもなく恐ろしい光景を目撃してしまったのニャ!
あの赤毛の少年……レオンとか呼ばれていた男の子の体から、いきなり青白い光が溢れ出したかと思うと、それが浅黒い肌の女の子をふわりと包み込んだのニャ! すると……!
「はあああああああっ! き、きもちいいいいいいいいいっ!」
な、なんと、その女の子が、恍惚とした表情で白目をむいたかと思うと、そのまま糸が切れたように、床にばたりと倒れてしまったニャ!
あ、あれは……間違いないニャ! 長老様から聞いたことがある、ニンゲンの貴族が使えるっていう、恐ろしい『権能』の力だニャ!
お、恐ろしいニャ! こ、こんな力を使うなんて、あの少年は一体何者なんだニャ!
そ、そういえば、アタシが森の中で倒れて、意識が戻った時に、一番最初に顔を覗き込んできたのが、あの赤毛の少年だったニャ! い、今思い出したニャ! ま、まさかアタシ、とんでもないニンゲンに拾われちまったのかニャ!?
その後も、恐怖に震えるアタシの目の前で、あの少年は次から次へと、その場にいた女の子たちに、例の青白い光る手で触れては、『いたして』いくのニャ!
「えっ!? レ、レオン様の癒し……ああっ、なんだか、体の奥から、深く、深く、沁みてきますぅ……んんっ……!」
また別の、綺麗な金髪の女の人が、うっとりとした声を上げながら倒れたニャ! 今度の人は、手足がビクンビクンと痙攣しているニャ! な、何をされてるんだニャ!?
「はううっ! こ、この言いようのない快楽は……まさに国家機密級の癒しですぅ……!」
こ、これがニンゲンの国の国家機密!? た、確かに、こんな恐ろしい力は、絶対に秘密にしておかないと大変なことになるニャ! こ、これを見てるのがバレたら、アタシ、絶対に消されてしまうニャ!
で、でも……怖いけど、なぜか目が離せないニャ!
「やめっ……やめるのですぅ! そんな強いので癒されたら……はあああああんっ!」
今度のメイド服の女の子は、口からよだれを垂らしながら、幸せそうな顔で倒れているニャ……。
「ああっ……と、とけるぅ……。こんな癒し、初めて……」
最後の、褐色肌のキリっとした顔立ちの女の子に至っては、なんだか最初から全てを諦めているような顔で、でもどこか嬉しそうにも見えたニャ。
少年が、その場にいた全ての女の子を倒し終えると、一人一人抱きかかえて、どこかへ運び出して行ったニャ。
(な、な、なんてものを見てしまったんだニャ……! い、いや、アタシは何も見てないニャ! これは国家機密なんだニャ! 早く部屋に戻って、寝たふりをするニャ!)
アタシは、心臓をバクバクさせながら、急いで自分の寝床へと戻ると、毛布の中に潜り込み、ガタガタと震えが止まらなかったニャ。
しかし、急に走ったり、緊張したりしたせいか、急激な眠気が襲ってきたニャ。
(き、きっとバレてないニャ……。うん、アタシは何も見てない。知らないフリをして、明日も美味しいご飯をいただくのニャ……)
恐ろしいものを見てしまったけれど、今はとにかく眠い。アタシは、無理やり何も見なかったことにして、そのまま深い眠りへと落ちていったニャ。
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