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ガウェイン将軍

【レオン教皇17歳視点】


『リベルタス歴18年、フェリカ歴146年 10月15日 夕刻から夜にかけて』


 村の広場に土煙を上げて止まったチャリオットから、あの岩のような巨漢……フェリカ王国のガウェイン将軍が飛び降りてきた。そして、僕の目の前に来ると、いきなりその大きな体を折り曲げ頭を下げた。


「レオン教皇殿! この度の我が主君ヘンリーの非礼、まことに申し訳ねぇ! この通り、心より謝罪申し上げる!」


 言葉と共に、ガウェイン将軍は、その巨体でなんと地面に額を擦り付けんばかりの勢いで土下座をした。将軍の服が土で汚れるのも構わずに。


「わわわっ! ガウェイン将軍! どうかお顔を上げてください! そんな……! 確か、以前お父様……ゼファー公がご存命だった頃に、オーロラハイドでお会いしましたよね?」


 僕は慌てて将軍に駆け寄り、その肩に手をかけた。


「おお……レオン教皇殿。覚えていてくださったか。……すまねぇな、こんな見苦しいところを。だが、こういうけじめは、キッチリつけておかねぇと、国と国との体面に関わる」


 将軍は、少しだけ顔を上げて、バツが悪そうに言った。


「あっ! あの、ガウェイン様! お召し物に土がついていますわ!」


 僕の後ろにいたステラちゃんが、小さな悲鳴を上げて駆け寄り、持っていたハンカチで将軍の服についた土を払い始めた。


「おお、ステラか……。お前にも、本当にすまないことをした。我が主君に代わり、深く謝罪する。許してくれ」


 ガウェイン将軍は、今度はステラちゃんに向かって、再び深く頭を下げようとした。


「はううううっ! い、いえ! とんでもございません! ガウェイン将軍様は、何も悪くなどないのですぅ! どうか、お顔をお上げくださいぃぃ!」


 ステラちゃんは、涙目でぶんぶんと首を横に振った。


 その時、夕食の席から様子を見ていたシドさんが、静かに僕たちのそばへすっと歩み出てきた。隣には、ファリーナちゃんとカルメラさんも心配そうに立っている。


「……ガウェイン将軍。貴殿が謝罪されるのは結構だが、そもそも、この件における最終的な決定権は貴殿にあるのか? レオン教皇とステラ嬢の入国を拒否し、追放を命じたのは、フェリカの新国王ヘンリーのはずだが?」


 シドさんは、いつもの冷静な、それでいて相手の心を見透かすような鋭い目で、将軍に問いかけた。


 シドさんの言葉に、ガウェイン将軍はぐっと言葉に詰まり、その大きな体がその場に固まったように見えた。図星だったのだろう。


「ぐっ……そ、それは……お主の言う通りだ。現在のフェリカ王国において、最終決定権はヘンリーにある。……だが、ここは、この老いぼれの顔を立てて、少しばかり時間をくれねぇだろうか? 必ず、ヘンリーを説得し、この事態を収拾させてみせる。そうだな……まずは、一ヶ月! 一ヶ月だけ待ってほしい!」


 ガウェイン将軍は、悔しそうに顔を歪めながらも、必死に訴えかけてきた。


「……分かりました、ガウェイン将軍。将軍のお立場も、お気持ちも理解できます。ですが、本当に一ヶ月で、ヘンリー国王を説得できるのですか?」


 僕は、少しだけ心配になって尋ねた。フェリカ王国の内情は、エドワードおじいちゃんから聞いて、ある程度は知っている。


「ぐぐっ……そ、それは……確かに、あのヘンリーが、そう簡単に変わるとも思えねぇ……。すまない、レオン教皇殿! やはり、三ヶ月! 三ヶ月、猶予をくれぃっ!」


 将軍は、額に汗を浮かべて懇願した。その姿は、国の未来を憂う忠臣そのものだ。


「……分かりました、ガウェイン将軍。三ヶ月ですね。その間、僕たちはリベルタス帝国として、フェリカ王国への公式な抗議や行動は控えましょう。その旨、兄であるカイル皇帝陛下にも、僕から責任をもって伝えておきます」


 僕は、将軍の真摯な眼差しを見て、そう答えることにした。


「かたじけない……! レオン教皇殿、そしてリベルタス帝国の寛大なるご配慮、このガウェイン、生涯忘れませぬ……。必ずや、このご恩に報いてみせる。頼む……!」


 ガウェイン将軍は、再び深く頭を下げた。


 そして、将軍は名残惜しそうに、しかし急いで自分のチャリオットへと再び乗り込んだ。


「あの、ガウェイン将軍! もう日も暮れましたし、せめて、お食事だけでもご一緒にとっていかれてはいかがですか?」


 僕は、長旅で疲れているだろう将軍を気遣って声をかけた。


「いや、そのお心遣いは大変ありがたいが、今は一刻も早くヴェリシアへ戻り、ヘンリーを諫めねぇと! こうしてはいられねぇ! レオン教皇殿、ステラ嬢、そしてリベルタス帝国の方々! 今回のこと、感謝する! この恩は、決して忘れねぇ!」


 ガウェイン将軍はそう言い残すと、手綱を強く引き、馬に鋭く鞭を入れた。二頭立てのチャリオットは、土煙を上げて、ヴェリシアへと続く交易路を、夜の闇の中へと猛然と走り去っていった。


 僕たちは、その勇ましい後ろ姿が見えなくなるまで、黙って見送っていた。フェリカ王国も、色々と大変そうだ……。


 その夜。


 村長さんのお言葉に甘えてお借りした家の一室で、僕はいつものように、ファリーナちゃんとカルメラさんと、三人で川の字になって寝ていた。今日の出来事で、心も体も少し疲れていた。


 うとうとと眠りに入りかけた頃、そっと部屋の扉が開いて、ステラちゃんが遠慮がちに入ってくる気配がした。


「あ、あの……レオン様……。夜分遅くに、申し訳ございません。一つ、お願いがあるのですぅ……」


 ステラちゃんは、小さな声で、でもどこか決意を秘めたような声で言った。


「うん……なんだい、ステラちゃん?どうしたの、こんな夜中に。何か困ったことでもあった?」


 僕は、眠い目をこすりながら上半身を起こした。隣では、ファリーナちゃんとカルメラさんが、すやすやと気持ちよさそうに寝息を立てている。


「あ、あの……その……もし、もしご迷惑でなければ……わ、わたしも、ここで、一緒に寝かせていただいても、よろしいですか……? メイドの務めですぅ……」


 彼女は、顔を真っ赤にしている。


 その手は、緊張からか、ギュッと握りしめられていた。


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