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交易路の守護者!~理想の国づくりと貿易で無双したいと思います~  作者: 塩野さち
第五章 フェリカ王国動乱

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狼狽

【ステラちゃん17歳視点】


『リベルタス歴18年、フェリカ歴146年 9月22日 昼』


 重たいまぶたをこじ開けると、まず目に飛び込んできたのは、空になった酒瓶が転がる豪奢な天蓋付きの寝台と、その隣で大の字になって眠るヘンリー王子でした。はぁ……ゆうべもメチャクチャだったのですぅ。


「ひぐっ、えぐっ……口とか顔とか後ろとか、ヒドいのですぅ……抱くならせめて普通に抱いて欲しいのですぅ……」


 乱れた寝間着の合わせをそっと直しながら、私は小さく嗚咽を漏らしました。王子のお相手はメイドの務めとは言え、最近の王子は特に手荒で…… 朝、鏡を見るのが本当に怖いですぅ。でも、私には他に頼れる人もいないし、ここで生きていくしかないのです。


 不意に、寝室の重厚な扉がドシドシと叩かれ、返事をする間もなくガウェイン将軍が入ってきました。ヘンリー様は相変わらず高いびきで、起きる気配もありません。はわわわ、私が対応しなくちゃです!


「あっ、はーいっ! あっ、ガウェイン将軍!」


 慌てて寝台から降りようとすると、足がもつれてしまいました。昨夜のあれこれで、腰がまだ痛むのです。


「んあ? まーだヘンリーは寝てるのか……おい、ステラ。お前には教えてやる。誰にも言うんじゃねぇぞ?」


 ガウェイン将軍のいつもより低い声と真剣な眼差しに、私はゴクリと唾を飲み込みました。な、なんでしょうか……


「えっ、あっ、はっ、はいぃぃっ! なにかご用でしょうか? ま、まさか、今日こそヘンリー様に鉄槌を?」


 思わず、心の声が漏れてしまいました。だって、最近のヘンリー様の素行は本当に目に余るものでしたから、ついにガウェイン将軍が……なんて。


「バーカ、ステラ、そんなんじゃねぇ。エドワード王が亡くなったぞ……」


 ガウェイン将軍の言葉に、一瞬、時が止まったように感じました。え……? エドワード陛下が……?


「えっ? そんな……ああ……フェリカはどうなってしまうのでしょう? 私が言うのもなんですが、ヘンリー様ではフェリカは……ううっ……」


 悲しみと不安で、涙が溢れてきました。エドワード陛下は、厳格な方でしたけど、それでも国のことを一番に考えていらっしゃる立派な王様でしたから……。ヘンリー様が王位を継がれるなんて、考えただけでも……ひぐぅ。


 ガウェイン将軍は、そんな私をじっと見つめると、懐から羊皮紙を二枚取り出しました。


「いいか? ステラ、お前は文字読めるか?」


「あっ、はっ、はい。最近、夜にこっそり勉強して覚えましたですぅ」


 少しでもお役に立てればと、侍女頭様に教えていただいていたのです。


「今のうちに読んでおけ。それはエドワード王の遺書だ。だがな、ヘンリーが読んだら破いて燃やしてしまうかもしれん。だからお前も読め。俺も読んだ」


 ガウェイン将軍から手渡された羊皮紙は、ずっしりと重く感じられました。遺書……エドワード陛下の最後の言葉……


「ひぐっ、そ、そんな大事な遺書読めませんですぅ……」


 ポロポロと涙がこぼれ落ちて、羊皮紙を濡らしてしまいそうでした。私なんかが、陛下の遺書を読むなんて……


「いいから、ヘンリーの味方をしてくれるヤツは極端に少ない。お前(ステラ)を見込んでいる。読んでほしい」


 ガウェイン将軍のいつになく真剣な顔に、私は震える手で遺書を広げました。


 一通は、リベルタス帝国のカイル皇帝陛下へ。フェリカの未来を憂い、万が一の時には国を託すという内容…… そして、もう一通はヘンリー様へ。いざという時は、リベルタスを頼れと……


 読み終えた時、私は言葉を失っていました。エドワード陛下は、こんなにも国のこと、そしてヘンリー様のことを案じていらっしゃったのですね……


「はい、覚えましたですぅ。それで、どうすればよろしいでしょうか?」


 涙をぐっとこらえ、私はガウェイン将軍を見上げました。私にできることがあるのなら、なんでもする覚悟でした。


「馬車を用意する。お前はそのままオーロラハイドへ行け。そしてカイル皇帝かレオン教皇にこのことを伝えるんだ! 急げ、ヘンリーが起きる前に!」


 ガウェイン将軍の迫力に押され、そしてヘンリー様なら本当に遺書を破りかねないと思い、私は力強く頷きました。


「わっ、わかりました! オーロラハイドってリベルタスの首都ですよね? いっ、行ってきますですぅ!」


(はわわわわわ~! 大変なことになってしまいましたわ~!)


 私は昨夜のあれこれで汚れてしまったメイド服を急いで着替えると、ガウェイン将軍に手渡された小さな革袋を握りしめ、オーロラハイドへと向かう馬車に飛び乗りました。


 動き出した馬車の窓から見える王都ヴェリシアの街並みは、いつもと変わらないように見えましたが、私の心の中は不安と、そしてほんの少しの使命感でいっぱいでした。空はどんよりと曇っていて、今にも雨が降り出しそうでした……


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