女神
【レオン視点】
部屋に残ったのは、アウローラさんとユリアさん、皇帝お兄ちゃん、そして僕の四人だけだった。他のメンバーはそれぞれの部屋へ戻り、静けさが訪れる。ランタンの灯りが壁に揺れる影を作り、どこか厳粛な雰囲気が漂っていた。
「ふふっ、レオンくん。教皇になりなさいな」
アウローラさんが、まるで歌うように言った。その声は普段の彼女とは違い、どこか神聖な響きを帯びている。
「ええ~っ、アウローラさん困るよ~!」
僕は思わず、すっとんきょうな声を上げた。いきなり教皇と言われても、実感が湧かない。
「女神様、いきなりじゃレオンくんも困りますよ!」
ユリアさんが、アウローラさんを優しく嗜めるように言った。その口調は柔らかいが、どこかアウローラさんを敬っているような……
(女神様? ユリアさん、今なんて言ったの?)
「あっ、わたしのことはアウローラお姉さまと呼べって……」
アウローラさんが、少し拗ねたように唇を尖らせる。その仕草は普段の彼女らしいが、先ほどのユリアさんの言葉が頭から離れない。
「お前、天使じゃなかったのかよ。女神だったのか。そういや、俺に皇帝になるように勧めたのも、アウローラ、オマエだったよな!」
カイルお兄ちゃんが、驚きと納得が混じったような声を上げた。
「ええ~っ、聞いてないよぉ~」
僕の混乱は頂点に達していた。天使? 女神? 一体どういうことなんだろう。
次の瞬間、アウローラさんとユリアさんの体が淡いオーロラ色の光に包まれた。そして、ふわりと音もなく、二人の背中から純白の大きな羽が現れたのだ。神々しいまでの美しさに、僕は言葉を失った。
「ふふっ、バレちゃ仕方ないわね……」
アウローラさんは、悪戯っぽく微笑む。その笑顔は、いつもの彼女なのに、どこか人間離れした気品を漂わせていた。
「すみません、アウローラお姉さま、わたしのせいで……」
ユリアさんが申し訳なさそうに俯く。彼女の天使の羽は、アウローラさんのものより少し小ぶりだが、清らかで美しい。
(天使……本当に天使だったんだ……)
目の前の光景が信じられず、僕はただ呆然と立ち尽くす。アウローラさんが天使で、ユリアさんも天使……。オーロラハイドの、いやリベルタス帝国の根幹に関わる秘密を、僕は今、知ってしまったのかもしれない。
「わかったよ、教皇になるよ」
気づけば、僕はそう口にしていた。驚きと混乱の中で、なぜかその言葉はすんなりと出てきた。アウローラさんやユリアさんの正体を知った上で、彼女たちの言葉を無下にはできなかった。
「わあっ、レオンくんいい子ね~」
アウローラさんは満面の笑みを浮かべると、天使の羽をしまい、オーロラ色の光も消えた。そして、いつものように僕に抱きつき、胸をぐいぐいと押し付けてくる。
(うん、やっぱりこの部分はいつも通りだ……)
こうして、僕は教皇になることが決まった。リベルタス帝国の皇帝の弟であり、そしてオーロラ教の教皇レオンの誕生である。
窓の外では、オーロラハイドの街が静かな眠りについていた。だが、この黒の城の一室では、帝国の歴史を揺るがすかもしれない、大きな秘密が共有されたのだ。ランタンの灯りが、壁に掛けられた四本の剣の紋章を照らし、まるで新たな時代の幕開けを静かに告げているかのようだった。雪解けの季節はまだ少し早いが、リベルタス帝国には、確実に新しい風が吹こうとしていた。
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