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交易路の守護者!~理想の国づくりと貿易で無双したいと思います~  作者: 塩野さち
第三章 熱砂の姫君

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中庭の宴

【レオン視点】


『リベルタス歴17年、10月18日 夕刻』


 オーロラハイドの夕暮れは、砂漠とは違い、やわらかな紫色に染まっていた。城の中庭では、炭火の煙が立ち上り、ヤキトリの甘い香りが風に乗って広がっている。


「なんじゃこれは!? こんな美味い食べ物があったのか!」


 ファリーナちゃんが口いっぱいにヤキトリを頬張り、目を輝かせる。彼女は異国の味に驚きと喜びを隠せない様子だった。


 お兄ちゃんの提案で、今日は特別なおもてなしのパーティーを開くことになった。朝から夕方まで、カイルお兄ちゃんとの特訓に明け暮れた僕は、疲れた体にヤキトリの味が染み渡るのを感じる。


「ファリーナさま、これはお好み焼きというものですわよ。オーロラハイドでとても人気なんですの」


 ユリアさんがファリーナちゃんにお好み焼きの一切れを差し出す。鉄板で焼いたばかりのお好み焼きからは、湯気が立ち上っていた。


「おひょっ、熱いのじゃ! でも、なんじゃこれ……小麦をこのようにして食べるとは!」


 ファリーナちゃんはお好み焼きを口に入れると、また驚きの声を上げた。彼女の素直な反応に、皆が笑顔になる。


「あら、これはぜひうちの息子の嫁になる方に、作り方をお教えしなくちゃね」


 リリーママが、ファリーナちゃんに近づき、肩を抱く。


「嫁、嫁じゃと!? べ、別に妾がレオンの嫁になるとは決まっておらぬからな!」


 ファリーナちゃんは顔を赤くして、慌てて否定するが、その様子があまりにも可愛らしく、周りの皆が笑い声を上げた。


「まあまあ、急かさないであげて、リリー」


 シルクママが優雅に扇子で扇ぎながら言う。


「若い二人には時間が必要よ。あら、でも砂漠の国からのお嫁さんなんて、素敵じゃない?」


 シルクママの言葉に、ファリーナちゃんはさらに赤くなり、僕の後ろに隠れる。


「レオン、なんとか言うのじゃ! 妾がオーロラハイドに来たのは、国を取り戻すためじゃ! べ、別にそのために来たのではないからな!」


 彼女の混乱した言葉に、エリュアが茶目っ気たっぷりに割り込んでくる。


「ファリーナお姉ちゃん、嘘はよくないわよ~。レオンお兄ちゃんのことが好きなんでしょ~?」


 緑の髪をなびかせ、エリュアはにやにやしながら言う。


「わっ、わわわ、妾はレオンのことが嫌いというわけではないのじゃが……」


 ファリーナちゃんの顔が熟したトマトのように赤くなり、僕も恥ずかしさで言葉に詰まる。


「よせよせ、二人をからかうのはそのくらいにしろよ」


 カイルお兄ちゃんが、炭火を箸でつつきながら割り込んできた。


「それよりレオン、明日からの特訓のことだが、覚悟はできてるか? 今日はまだ軽かったからな?」


 カイルお兄ちゃんの言葉に、僕は背筋を伸ばす。


「もちろんだよ。僕はファリーナちゃんの国を必ず取り戻すから!」


 僕の決意に、ファリーナちゃんの瞳が輝いた。


「あら、なんて素敵な決意なの」


 エルミーラママがふわりと近づいてきた。


「でも無理はしないでね、レオン。あなたはいつでも私たちの大切な息子なのよ」


 エルミーラママの優しい言葉に、僕は少し照れながらも、頭を下げた。


「ありがとう、エルミーラママ」


 僕たちの会話を聞きながら、ファリーナちゃんはママたちを交互に見つめていた。


「なんじゃ? レオンには三人も母親がいるのか?」


 彼女の素直な質問に、ママたちは微笑んだ。


「そうよ。私たち三人は亡きゼファー王の妻なの」


 シルクママが優雅に答える。


「リベルタスでは複数の妻を持つことができるのかえ?」


 ファリーナちゃんの目が大きく見開かれた。


「そうよ、あら、リヴァンティアでは違うの?」


 リリーママが不思議そうに首を傾げる。


「リヴァンティアでも王は複数の妻を持つことが許されておる。ただ、女王の場合は……」


 ファリーナちゃんはちらりと僕を見て、言葉を濁した。


「女王の場合は、対等な立場での夫婦関係になるの?」


 エルミーラママが穏やかに尋ねる。


「そう、そうなのじゃ。でも王配は一人だけじゃ……」


 彼女の言葉に、三人のママたちは意味深な視線を交わした。


「興味深いわね」


 シルクママが扇子で口元を隠しながら、くすりと笑う。


 その時、大きな音を立ててユリアさんがお好み焼きの生地をひっくり返した。


「みなさん、海鮮お好み焼きができましたわ! どうぞ召し上がれ~!」


 彼女の声で、話題は自然と料理へと移った。


 エリュアがお好み焼きを取り分け始め、カイルお兄ちゃんはヤキトリを炭火からはずして皿に盛る。


「ファリーナさん、これが特別なソースなんだ。お好み焼きにかけて食べてみて」


 僕は特製のお好み焼きソースの瓶を彼女に渡す。ファリーナちゃんは興味津々でソースをたっぷりとかけ、一口頬張る。


「なんじゃこれは! 甘くて、しょっぱくて、酸っぱくて……なんとも言えぬ味じゃ! 美味いのじゃ!」


 彼女の素直な感想に、皆が笑顔になる。


「あら、本当にかわいらしい。レオン、いい人を見つけたわね」


 リリーママが目を細めて言う。


「お、お母さん!」


 僕が恥ずかしがると、カイルお兄ちゃんが笑いながら僕の背中を叩いた。


「おい、レオン。さっきの課題のことだが、砂漠での行軍について考えておけよ。明日教えるからな。ま、もっとも砂漠を往復したオマエの方が詳しいかもな!」


「わかったよ、お兄ちゃん」


 僕たちの会話を聞きながら、ファリーナちゃんがお好み焼きを食べる手を止めた。


「レオン、お前は本当に戦うつもりなのか?」


 彼女の声には不安が混じっていた。


「もちろんだよ。約束したでしょ? 必ずリヴァンティアを取り戻すって」


 僕の言葉に、ファリーナちゃんの瞳に涙が浮かんだ。


「あんな広い砂漠で……アークディオン相手に……」


「カイルお兄ちゃんが特訓してくれるんだ。それにメルヴの兵も借りられることになったよ」


 僕の言葉に、彼女は少し安心したようだが、それでも不安は拭えないようだった。


 そんな彼女の様子を察したのか、エルミーラママが静かに近づいて言った。


「ファリーナさん、レオンは特別な力を持っているの。お父様譲りの権能は、彼を守ってくれるわ」


「それにな、レオンは頭がいいんだ。戦いは力だけじゃない。知恵と戦略も必要なんだぞ」


 カイルお兄ちゃんが自信たっぷりに言った。


「そう、そうです! レオンさまなら絶対に大丈夫ですわ!」


 ユリアさんも加わり、みんながファリーナちゃんを励ます。


「これはエルフ特製のヨウカンよ。お好み焼きのあとのデザートにいかが?」


 エルミーラママがファリーナちゃんに小さな菓子を差し出した。


「何じゃこれは?」


「豆と砂糖で作ったお菓子よ。エリュアが小さい頃から大好きなの」


 ファリーナちゃんは恐る恐る一口かじると、その甘さに目を輝かせた。


「こ、これも美味い! オーロラハイドには美味いものばかりなのじゃな!」


 彼女の素直な感想に、皆が笑顔になる。


 夜空に星が輝き始め、炭火の明かりが中庭を柔らかく照らす。ヤキトリの香ばしい香りとお好み焼きの甘い匂いが混ざり合う中、家族の温かい笑い声が響く。


「リヴァンティアを取り戻したら、今度はファリーナちゃんの国でお祝いしような」


 リリーママの提案に、皆が賛同する。


「そしたら、リヴァンティアでも熱砂の姫君とレオンの婚約式とかできるわね~」


 エリュアがからかうように言う。


「エリュア! まだそんな話は……」


 僕が赤面しながら抗議すると、ファリーナちゃんが小さく呟いた。


「……悪くないかものう」


 その言葉に、僕は驚いて彼女を見つめた。ファリーナちゃんは少し照れながらも、僕の目をまっすぐに見返してきた。


「妾は……そなたの力を借りてリヴァンティアを取り戻した暁には、答えを出すのじゃ」


 彼女の言葉に、僕の胸が熱くなる。


「ちゃんと待ってるよ、ファリーナちゃん」


 二人の間に流れる雰囲気に、周りの皆が温かい目で見守る。


 星空の下、炭火の明かりに照らされた城の中庭で、僕たち家族はささやかな幸せのひとときを過ごしていた。明日からの厳しい特訓と、その先に待つ砂漠での戦い。不安と期待が入り混じる中で、今夜の団欒は特別な輝きを放っていた。


 オーロラハイドの文化に触れ、少しずつ打ち解けていくファリーナちゃんを見ながら、僕は密かに誓った。


(必ず守るよ、ファリーナちゃん。君の国も、君の笑顔も)


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