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交易路の守護者!~理想の国づくりと貿易で無双したいと思います~  作者: 塩野さち
第三章 熱砂の姫君

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砂漠の宴

【レオンくん15歳視点】


『リヴァンティア歴208年、リベルタス歴17年、8月29日 午後』


 熱砂の姫君(ファリーナちゃん)に手を引かれて宮殿の廊下を駆け抜けると、前回訪れた彼女の部屋へ続く階段を登った。砂岩でできた宮殿内は外と比べて涼しく、廊下の壁には様々な絵が飾られている。


「ファリーナさん、今日も君の部屋に行くんだね」


 僕が尋ねると、彼女は少し誇らしげに振り返った。


「今日は(わらわ)の部屋でもてなすのじゃ。前回は急だったので準備が間に合わなかったが、今回はちゃんと準備しておったぞ!」


 どうやら前回から僕たちが来ることを楽しみにしていたようだ。考えると少し恥ずかしくなる。


 やがて僕たちは広々とした扉の前に到着した。ファリーナちゃんが両手で扉を押し開けると、中から軽やかな音楽が聞こえてきた。


「へ~、前回とは雰囲気が違うね」


 部屋は前回と同じだが、まるで別の場所のように装飾が施されていた。中央には円形の低いテーブルがあり、周りには柔らかそうなクッションが並べられていた。壁には新しい色とりどりの織物が飾られ、窓からはサラーブ川とリヴァンティアの街並みが一望できる。


 部屋の隅では数人の楽師たちが弦楽器やドラムを演奏していた。前回はなかった演出だ。


「さあ、入るがよい! セリウスとやらも!」


 ファリーナちゃんは僕たちを中に招き入れた。セリウスくんはまだ息を切らしながらも、部屋の豪華な装飾に目を丸くしている。


「どうじゃ? 今回の(わらわ)の部屋のしつらえは気に入ったかえ?」


 彼女は期待に満ちた目で僕を見つめる。


「うん、とても素敵だよ。前回とはまた違った雰囲気で、本当に美しい」


 僕の言葉に満足したのか、彼女はにっこりと笑った。


「まずは席に着くがよい。これから(わらわ)が歓迎の踊りを披露するぞ」


 僕とセリウスくんがクッションに腰掛けると、ファリーナちゃんは部屋の中央へと歩み出た。彼女は何やら手で合図を送ると、楽師たちの演奏が一段と大きくなった。


 ゆっくりと身体を回転させながら、彼女の踊りが始まった。泉の浄化の時とは違い、もっと洗練された動きだ。羽衣が宙を舞い、彼女の指先からは時折、青い光が漏れる。それは水の滴のようにキラキラと空中に浮かび、彼女の動きに合わせて漂っていく。


「すごい……」


 セリウスくんも息をのむ。


 ファリーナちゃんの踊りには、砂漠の風と命の輝きが表現されていた。腕を優雅に伸ばし、足を軽やかに運び、時に激しく、時に静かに……彼女の全身が音楽と一体になっている。


 踊りのクライマックスでは、彼女の権能が本領を発揮した。指先から放たれた水の滴が部屋中に広がり、光を受けて虹色に輝く。まるで星空のようだ。


 そして、最後の一瞬、彼女は僕の方へ視線を向け、微笑んだ。


 踊りが終わると、部屋の中は一瞬静まり返った後、僕とセリウスくんが拍手を送った。


「素晴らしかったよ、ファリーナさん! 泉のときより美しい踊りだったよ」


 僕は立ち上がって拍手を続けた。彼女は少し息を切らしながらも、満足げな表情を浮かべている。


「ふん、当然じゃ。(わらわ)はリヴァンティアの女王なのじゃからな」


 そう言いながらも、彼女の頬は少し紅く染まっていた。


「素晴らしい踊りでした!」


 セリウスくんも感動した様子で拍手を送る。ファリーナちゃんは僕たちの隣に座ると、手を叩いた。すると侍女たちが水や果物のついた皿を運んできた。


「さて、レオン。約束のショートパスタはどこじゃ?」


 彼女は期待に満ちた目で僕を見る。


「ああ、セリウスくん。倉庫に置いてきたショートパスタを持ってきてもらえる?」


 セリウスくんは立ち上がり、「分かりました」と言って部屋を出て行った。


「今回は色々な形のショートパスタを持ってきたんだ! リガトーニ、マカロニ、ディタリーニ、オレキエッテ……オーロラハイドの料理人たちも工夫を凝らしているよ」


 ファリーナちゃんの目が輝いた。


「色々な形があるのか! 楽しみじゃ! では待っている間に、これを飲むがよい」


 彼女は僕にワインらしき液体の入った杯を差し出した。砂漠の果実から作られた甘い香りがする。


「乾杯、レオン!」


 彼女も杯を持ち上げ、僕と合わせる。僕は一口飲んでみた。甘くて爽やかな口当たりで、後味に少しスパイシーな風味がある。


「美味しいね、これは?」


「デーツから作ったワインじゃ! 砂漠の誇りでのう、ほれ飲め飲め!」


 会話をしているうちに、扉が開いた。セリウスくんが戻ってきたのだが、彼の後ろには宰相のラシームさんがいた。


「ファリーナ、邪魔するぞ」


 ラシームさんは丁寧に頭を下げた。彼は前回と同じく、金と銀の糸で刺繍された豪華な服を着ている。


「ラシーム(にい)、来たのか。座るがよい」


 ファリーナちゃんがラシームさんを招き入れる。彼は僕の隣に座ると、軽く会釈した。


「レオン殿、また会えて光栄です。リベルタス帝国からの正式な返信を持ってきてくださったとか?」


「はい、兄から親書をお預かりしています」


 僕はカバンから木箱を取り出し、ラシームさんに差し出した。


「ありがとうございます。後ほど拝見させていただきます」


 ラシームさんは木箱を受け取り、側に置いた。


 その頃、セリウスくんは数人の料理人を連れて戻ってきた。彼らは様々な形のパスタの入った箱を持っている。


「これらは全部ショートパスタです。料理人の方々にも調理法をお伝えしました」


 セリウスくんが言うと、料理人たちは箱を開け、様々な形のパスタを取り出した。ファリーナちゃんは好奇心いっぱいの表情で近づいた。


「なんじゃこれは! 貝殻のような形もあるのか!」


 彼女がオレキエッテを指さす。


「そうなんだ。それぞれ食感も違うし、ソースとの相性も変わってくるんだよ」


 料理人たちは早速調理に取り掛かった。部屋の隅には小さな調理台が用意されており、そこで湯を沸かし始める。セリウスくんも手伝いに加わった。


 しばらくすると、様々なパスタ料理が運ばれてきた。トマトソースのリガトーニ、オリーブオイルとニンニクのマカロニ、砂漠の香辛料を使った独特のソースがかかったディタリーニ……次々と美味しそうな料理が並ぶ。


「これは……素晴らしいのう!」


 ファリーナちゃんは目を輝かせながら、あれこれと手を伸ばす。彼女の食べっぷりは相変わらず素直で可愛らしい。


「あっ、あちちち! 熱いのう! でも美味い!」


 彼女の素直な反応に、僕もラシームさんも思わず笑みがこぼれた。


 宴は進み、部屋の中は笑い声で満ちていく。デーツワインが何度も注がれ、ファリーナちゃんの頬も徐々に赤くなっていった。


「レオン、オーロラハイドではどんな踊りがあるのじゃ?」


 彼女は少し酔った様子で尋ねてきた。


「うーん、エルフの民族舞踊があるね。あと、フェリカやから入ってきた宮廷舞踏もあるよ」


「それは見てみたいのう! お前も踊れるのか?」


「え? 僕? まあ、少しだけ……」


 ファリーナちゃんの目が輝いた。


「では見せてくれ! (わらわ)も踊ったのじゃから!」


 言われるがままに、僕は立ち上がった。フェリカ風の宮廷舞踏の動きを真似てみる。シルクママから教わった基本的なステップだ。


「おお! なかなかじゃないか!」


 ファリーナちゃんは手を叩いて喜んだ。彼女も立ち上がると、僕の動きに合わせて踊り始める。彼女の動きは自然と僕の動きに調和していく。


「妹は舞踊の才能がありますからね」


 ラシームさんが静かに微笑む。


 僕とファリーナちゃんが踊っている間、セリウスくんはラシームさんと何やら話し込んでいた。アークディオンのことかもしれない。


 しばらく踊った後、僕たちは息を切らしながら席に戻った。もう日も落ち始め、窓の外は夕暮れの色に染まっていた。


「あっ、そうだ!」


 僕は突然思い出した。


「エリュアからのプレゼントがあるんだった」


 僕はカバンからもう一つの小箱を取り出し、ファリーナちゃんに差し出した。


「エリュアとは、レオンの妹じゃな?」


「うん、エルフの妹だよ。これは彼女が作った織物なんだ。オーロラハイドの伝統的な模様を入れてある」


 ファリーナちゃんは箱を開け、中の織物を取り出した。それは虹色の糸で編まれた小さなハンカチのようなもので、オーロラハイドの自然をモチーフにした模様が施されていた。


「これは……美しい……」


 彼女は織物を両手で大事そうに持ち、光に透かして見る。


「ありがとう、レオン。妹様にもお礼を言っておくれ」


 彼女の表情は柔らかく、普段の尖った感じはまったくない。


 宴はさらに続き、夜も更けていった。窓の外は満月の光で照らされ、砂漠の夜は銀色に輝いていた。


 そんな中、突然、遠くから鈍い音が聞こえてきた。


「なんじゃ?」


 ファリーナちゃんが顔を上げる。もう一度、低い音が響いた。


 ラシームさんが立ち上がり、窓に近づく。


「これは……」


 彼の表情が一変した。


「警鐘だ!」


 その瞬間、部屋の扉が勢いよく開き、兵士が飛び込んできた。


「宰相様! アークディオン軍が西の城壁に迫っています!」


 ラシームさんの顔から血の気が引いた。


「なに!? アークディオンが? 今すぐ防衛体制を!」


 彼は素早く命令を下し始めた。


「ファリーナ、ここで待機していてくれ。危険になったら地下の通路を使え。いざというときは我々だけでも逃げるぞ!」


 ファリーナちゃんは立ち上がり、きっぱりとした表情で言った。


(わらわ)はリヴァンティアの女王じゃ。民を守るのは(わらわ)の務めじゃ!」


 彼女の表情は先ほどの少女とは違い、毅然としていた。


「レオン、セリウス、すまない。危険な目に遭わせることになる」


 ラシームさんが僕たちに振り向く。


「いえ、力になれることがあれば」


 僕は立ち上がった。セリウスくんも続いて立ち上がる。


 遠くから、もう一度、轟音が響いた。


「カタパルトの投石が始まったようだ!」


 ラシームさんが窓の外を見る。西の空が赤く染まっている。


 僕たちは部屋を出て、急いで廊下を進んだ。宮殿内は兵士たちが忙しく行き来し、緊迫した空気に包まれていた。


 西側の見張り塔に登ると、驚くべき光景が広がっていた。


 月明かりの下、無数の松明が砂漠の闇の中で揺れている。それはアークディオン軍の陣営だった。砂漠の向こうから、大軍が押し寄せてきているのだ。


「なぜいきなり……」


 ファリーナちゃんがつぶやく。


「アークディオンの動きはあったが、まさかこんなに早く……」


 ラシームさんも混乱しているようだ。


 城壁の前には、既にリヴァンティアの兵士たちが集結していた。だが、迫り来るアークディオン軍の数に比べれば、明らかに不足している。


「レオン、セリウス、二人を巻き込んでしまって申し訳ないのじゃ……」


 ファリーナちゃんが僕たちに振り向いた。彼女の表情は決意に満ちている。


「いや、心配しないで。一緒に考えよう」


 僕は彼女の肩に手を置いた。


 城壁の方から、また一つ轟音が響く。アークディオン軍の先鋒が攻撃を開始したのだ。


 砂漠の月が照らす城壁の上で、僕たちは迫りくる敵を見つめていた……。


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