熱砂の姫君再び
【レオンくん15歳視点】
『リヴァンティア歴208年、リベルタス歴17年、8月29日 昼前』
僕たちは岩石と砂の海を越えて、リヴァンティアまでやってきた。
サラーブ川と街が見えると、ラクダたちも元気が出たようで、足が速くなるのは前回同様だった。
途中、メルヴでは狐のハッサンさんが相変わらず歓待してくれるし、娘のサフィーナちゃんはグイグイと胸を押し付けてくるし、躱すのに一苦労だった。
ロヴァニア伯にも面会しようとしたけど、相変わらず衛兵さんが僕を皇帝の弟として認識してくれず、塩対応であった。
「セリウスくん、リヴァンティアが見えてきたよ」
「そうですね……ついたら水を補給したいですね……」
道中は前回とあまり変わらなかった。経験済みとは言え、砂漠の旅はやはり堪える。
(メルヴのラクダ騎兵のみなさんにはお世話になりっぱなしだなぁ……)
僕が皇帝の弟のせいか、メルヴでつけてもらったラクダ騎兵たちは、精鋭なのだろう。規律が良いように思える。
(うーん、なんと言うか、強そうなカンジ? 盗みとか乱暴もしないし)
リヴァンティアの街へ入るために並び、順番が来ると荷物を検査されて、税金プラス心づけを渡す。
受け取った役人たちはホクホク顔である。
(リヴァンティアのこういうところ、良くないと思うんだけどなぁ。オーロラハイドで役人がこれやったら、皇帝に処刑されちゃうよ……)
「赤毛のお前は人相書きが出回っているぞ。たしかオーロラハイドというところのレオンとかいう小僧だな? このあとすぐ宮殿へ行くように!」
(なんだろう? ぼくなんかしたっけ?)
よくは分からないが、水屋さんから水を買って飲むと、メルヴで借りている倉庫にショートパスタとラクダたちを預ける。それからセリウスくんと数人の護衛で宮殿へ向かった。
砂岩でできた街並みは相変わらず暑い。昼ということもあって、あまり活動している人はいなかった。この時間帯はバザールも休みのはずなので、みな日陰や家の中でゆっくりしているはずだ。
僕とセリウスくんは、なるべく日陰を歩きながら、宮殿の前につく。
そこには、腕を組み不機嫌そうな熱砂の姫君が居た。
「遅い! 遅いのじゃ! 妾を待たせてはならぬのじゃ!」
ファリーナちゃんは口をとがらせて頬をふくらませている。
「あはは、ごめんよファリーナちゃん、オーロラハイドから四十九日もかかるんだ。許してくれよ……」
「『ちゃん』とはなんじゃ? 『ちゃん』とは? 『さん』じゃろうが?」
ファリーナちゃんは白目多めでこちらを睨む。
(あっ、いけない! つい僕の中ではファリーナちゃんだから、忘れていた!)
「ごめんよ、ファリーナさん。ショートパスタをいろいろ持ってきたからさ。これから一緒に食べようよ!」
ファリーナちゃんの顔がパアアアッと明るくなる。胸の前で両手を握り、その場で飛び跳ねる。暑いのに元気な女の子だ。
「それは真かえ? 今すぐ調理させるのじゃ! ほれ、行くぞ!」
彼女は僕の手を引くと、宮殿の中へ駆け出す。鼻歌まじりで楽しそうだ。後ろから、セリウスくんが慌ててついてきた。
ちょうどサラーブ川から、涼し気な風が吹いてくる。天頂へ登ろうとしている太陽は、まるで僕たちに微笑んでいるかのような気がした。
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